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わたしの偏愛シネマ Vol.3『ガラスの城の約束』

わたしの偏愛シネマ Vol.3『ガラスの城の約束』

 ©2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.



福岡では6/22からKBCシネマほかで劇場公開されました、『ガラスの城の約束』をご紹介いたします。


本作は、2005年に、アメリカの人気コラムニストのジャネット・ウォールズが刊行しました、「The Glass Castle」という自叙伝が原作でして、この本はその後なんと7年もの間ベストセラーリストに入り続けるというとんでもない大ベストセラー作品なんですね。そんな作品の著者であり主人公のジャネットを、あのブリー・ラーソン主演(『ルーム』のアカデミー賞女優、というより、もはや『キャプテン・マーベル』の彼女、といったほうが伝わりやすいかもしれません)で映画化という大変豪華な作品となります。


映画の冒頭は、ジャネットの現在の状況から始まりまして、時代設定は1989年。彼女はNYでコラムニストとして活躍しているのですが、成功の一方で、周囲には隠していることがありまして、それは彼女の家族、特に父親についてなんですね。実はジャネットの両親はNYでホームレス同然の状態で過ごしていまして、路上で父親を見かけたとき、彼女は思わず無視してしまいます。この映画はそんな現在と、ジャネットがまだ幼かった頃、家族とともに生活し、そして成長していく過去の様子を交互に描いていきます。


とにかくこの両親というのが、世間のルールに縛られない超自由人!破天荒で独自の教育方法や哲学でジャネットと、彼女のきょうだい3人の合計4人の子供たちを育てているのですが、この過去のパートでは父親のレックス(ウディ・ハレルソン)と母親のローズマリー(ナオミ・ワッツ)がいかにぶっとんでいて、それに子どもたちが振り回されている様を時にコミカルに、時にシリアスに描いていきます。

例えば、母親のローズマリーは自称画家でして、自分の画を描くことを優先して、まだ3歳の幼いジャネットに自分で料理を作らせたり、あげくジャネットが大やけどして入院してしまうのですが、医者が育児放棄や虐待を疑うやいなや、父親のレックスはジャネットを病院から強引に抜け出させてしまったりするんですね。他にもこういった破天荒なエピソードが満載なのでぜひ楽しんでいただきたいのですが(『はじまりへの旅』のヴィゴ・モーテンセンを思い出します)、そんな両親をジャネットは大好きでして、この病院からの脱出もジャネットはとても楽しんでいますし、他のきょうだいもみな両親を慕っているんですね。実際両親の家族に対する愛は本当に強くて、レックスはレックスなりのこの世界での生き方を愛と厳しさの両方でもって子どもたちに教えているわけです。そしてレックスを信頼して支えるローズマリー、というこの夫婦関係も素敵なんですが、とは言え、やっぱり世間から大きくズレた価値観のため、レックスは仕事が続かず借金が増え、夜逃げのようなかたちで家を転々と移り住むことなり、次第にアルコール中毒になってしまいます。


ジャネットはじめ、子どもたちも成長するにつれて、やっぱりうちのお父さんヤバくない?という意識のほうが強くなってくるわけです。ジャネットも幼いころあんなに大好きだった父親の、教育方法や日々の振る舞いにうんざりし始めていきまして、すぐにでも家を出たいという気持ちが沸き起こってきます。そして次第に家族はまさにどん底と言えるようなひどい状況に追い込まれまして、ジャネットとレックスの間にも決定的な亀裂が走る、ということになっていくわけです。


貧乏で日々生活が大変だったけど、とても頼りになる大好きだったお父さんが、自分が成長して、生活も潤って、社会的ステータスも上がっていくにつれ、父親の存在が疎ましくなってくるというこの心境の変化。それと同時にやっぱりそれでも好きな部分は残っていて、そして今の成功もその基礎はすべて父親や家族と暮らしていた日々があったからだ、ということに、長い時間をかけながら気づいていく、というこの過程が、本作最大のテーマでもあり、この映画の見どころであると言えます。


なかなか過去に起こった辛かったこと、それも特に家族に関する部分というのは、振り返るのはとてもキツいことだと思いますが、本作は、「決して今じゃなくてもいいから、いつかこの先、辛かった過去も全部ひっくるめて肯定できる日がくると信じて毎日がんばっていこうよ」、という押し付けがましくない、とても優しいメッセージを残してくれると思います。

それをよりリアルに伝えてくれるのがブリー・ラーソンとウディ・ハレルソンの素晴らしい演技と、そして本作のラストで登場する、ジャネットの実際のご両親の映像だと思います。それによってこの映画は、決して作り話ではない、誰の身にも実際に起こりうる、素晴らしい体験なんだと伝えてくれます。

お父さんや娘さんなど、立場や今まで積み重ねてきた経験や思い出によってはものすご~く胸に突き刺さるものがある、そんなとっても厚みのある作品ですので、今後も長く愛していきながら、人生のポイントごとに見直したい映画です。



ガラスの城の約束 公式SITE
KBCシネマ


『ガラスの城の約束』

新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中


配給:ファントム・フィルム

提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ

 © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.



【配給・宣伝問い合わせ】:ファントム・フィルム

〒151-0053 渋谷区代々木1-11-2 代々木コミュニティビル3F

TEL:03-6276-4035 FAX:03-6276-4036


今須 勝地
今須 勝地

今須 勝地 KATSUZI IMASU

1982年千葉県生まれ。
映画の年間鑑賞本数400本以上。通算では5,000本弱の映画好きおじさん。
2006年カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社。
2010年より九州のTSUTAYA本部にて
映像レンタルのマーチャンダイザーとして商品企画を担当。
九州ウォーカーや九州各県のタウン誌、フリーペーパーなどで映画の連載担当を経て、
現在は毎週木曜、cross fm『URBAN DUSK』内にてオススメ映画をレコメンド中。
2019年からカルチュア・パブリッシャーズにて洋画の買い付け、配給を担当。
好きなミュージシャンは岡村靖幸、RHYMESTER。