文化CULTURE
長谷川和芳 | その映画、星いくつ?第6回 2023年7月『ランガスタラム』『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。
この2本を見極めるのが結構難しいという話は先々月したけど、7月は「宮崎駿の『君たちはどう生きるか』は観るべきだったんじゃないの?」という心の声に苛まれた。クリゼンもこの作品を絶賛。「音がいいから劇場で見るべし」なんてラジオで言っていた。なぜ「2本」に入れなかったのかと言うと、タイトルの説教臭さにひいちゃったからなのだった。「どう生きるか」って言われてもねぇ。この歳になると、なるようにしかならない。
さて、先月お伝えした通り、7月14日に引越しを敢行。梅雨が明けたのかがハッキリしない曇り空だったけど、湿度はさほど高くなく風も時折吹くという絶好の引越し日和で、無事に完了。
問題はその翌日からの週末で、東京で暮らす息子が、3連休に合わせて帰省したため、引越しの片付けどころではなかった。まぁ、引越しの方が後に決まったんだけど。15日には、僕の両親も一緒にホークス戦(7連敗目の試合)、16日には門司港・小倉日帰り旅と遊び呆けた。もちろん、映画を観る暇もなし。
追い詰められて、その翌週末に2日連続で朝イチの回に足を運ぶ羽目になってしまった。もちろん、作品がおもしろければ、連日の映画鑑賞も苦にはならないのだけど、さてさて・・・・・。
【7月の獲れ高】★★★★★★★★
では、7月のおさらいを。
1本目
ランガスタラム
公式サイト: https://spaceboxjapan.jp/rangasthalam/
2023年7月22日(土)ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
事前期待度 ★★★★★(間違えて星1つ多くつけてた)
獲れ高 ★★1/2
これは珍品の部類に入る映画では。それとも、これがインド映画ってものなのか?
前半は難聴をネタにしたラブコメがダラダラと続く。インターミッションの後は、政治劇の色を帯びてきて、その後は復讐譚に転じ、最後はミステリー調。なにを観たのかよくわかんなくなってしまった。
村人を食い物にする村長=プレジデントと「ソサエティ」なる組織が、カルト風味も含めて、本邦政府を彷彿とさせる。搾取されている側なのにプレジデントを支持する輩とか、ネトウヨか。
かと言って「民主主義とはなんぞや?」ってとこは深掘りしない。ソサエティが村を支配している背景には、かの国のカースト制度があると示唆する(村人たちは低いカースト)場面もあり、民主主義とかいう以前の問題が根深いからかもしれない。
主人公のチッティは、観る前の「さわやかで気のいいあんちゃん」という印象とは違って、かなりの問題児だった。粗野で喧嘩っ早いうえに、加減を知らない。考えも浅はかで、村を救うために立ち上がった兄ちゃんの足を引っ張ったりもする。さらに、見栄っ張りで、村中の人が彼の難聴を知っているのに「こんなん付けたらオレが難聴だってバレるやん」と補聴器を拒絶。
途中、暗殺軍団に単身対峙する場面があるんだけど、執拗に相手の息の根を止めようとする。「こいつちょっとヤバくない?」とその時点で感じたんだけど、ラストまで観て「こいつサイコ野郎だな」と確信した。
「おもしろければいいじゃん」という制作サイドの行き当たりばったりなノリがこういうとこに出てるわけだけど、それをどう受け止めるかで、この映画の評価は変わるんだろうなぁ。
で、その結果たどり着いたのは陰惨なラスト。なんだ、こりゃ。娯楽作なのに後味が悪いのは致命的だろう。
「金ぴかクイーン」は最高だったんだけど(物語といっさい関係なし)。
やはり観るべきは、駿だったか。
2本目
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
公式サイト:https://missionimpossible.jp
2023年7月23日(日)ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13 IMAX
事前期待度 ★★★★
獲れ高 ★★★★★
LOOK AT ME 俺から目を逸らすな
そう、トムが言う。
前回でも触れた通り、予告編で見たバイクでジャンプするシーンのメイキングでノックアウト。このシーンを改めて本編で観ると本当にすごい。マジで涙出そうになった。
ほかにも、クルマとスクーターをぶっ壊しまくるローマ市街地でのカーチェイスや、クライマックスのオリエント急行が川に落下するシークエンスなど、目を見張るアクションが目白押しで、ホントに息つく暇なし。
橋が崩落して列車が数珠つなぎで川に落下! やばい!!・・・・・・というシチュエーション自体はオリジナルではないけど、その列車の中でトム・クルーズ扮するイーサンと、今作のヒロイン、グレースが繰り広げるアクションは実にフィジカルで、ほかの作品では実現できない切迫感をシーンに与えている。
列車の屋根での格闘シーンも、ほかの役者はスタントを使って後で合成したはずなので、まぁ、普通なんだけど、トムだけは実際に列車の屋根に上ってアクションをこなしているわけで、風圧で顔がゆがむとこなんか胸にグッとくる。「リアリティ」とかって話じゃなくて、トムのアクションはリアル、マジ、モノホンなのだ。
アクションを当てはめるために、ストーリーを考えたという話も伝わっているけど、テクノロジーの暴走が人類を危機に追いやるって筋立ては、CGではなく生身のスタントにこだわるトム・クルーズのスピリットを反映しているのか。ネットを支配するスーパーAIを敵に回したため、イーサンのチームのハイテク機器が無力化してしまうという展開もおもしろい。なにを頼りにAIと闘うのか? ここがパート2のポイントになるんだろう。
今作のキーパーソンは、上述した新キャラ、ヘイリー・アトウェル演じるグレース。腕利きのスリで、その腕前に観る僕らも翻弄される(「いま、鍵はどこよ???」)。後半まで敵か味方か判然としないのもスリリングだ。一方で、彼女はエージェントではないので、カーチェイスの際に「運転しろ」とか、「暴走している列車を止めろ」などと、イーサンにムチャぶりされると、そのたびにうろたえる。ふだんの不適な表情とのギャップがチャーミング。パート2ではイーサンの味方になるのか、敵につくのか?
あと、フランス人の殺し屋、パリスもいい。装甲車で嬉々としてクルマの列に突っ込んで潰していく、その狂気が映画のアクセントになっている。刀を携えたアジア系女性の殺し屋(演じるポム・クレメンティエフは、母親が韓国人で国籍はフランス)って概視感ありありなんだけど、クレイジーなだけではなく、終盤で予想以上に重要な役回りを与えられているのだった。
この作品は、2部作の1作目だけど、落ち着くとこに落ち着いたところで”The End”なので、「ゲッ!ここで終わるのかよ」なんてこともない。ホントに映画としてちゃんとしてる。大満足。
【8月はこの映画に賭ける!】
8月の公開作に行く前に7月公開作品で気になっている作品を。大友克洋の名作コミック『童夢』を彷彿とさせるという北欧のサイキック・スリラー『イノセンツ』。実際、エスキル・フォクト監督は『童夢』にインスパイアされて脚本を書いたそうな。しかも、舞台は団地。団地を終の住処に選んだおっちゃんとしては、観といた方がいいんじゃないだろうか。
同じく超能力モノでも『童夢』をまったく彷彿とさせないだろう一本が、8月4日(金)公開の『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』。『クレヨンしんちゃん』の映画は”泣ける”という評価をよく目にするけど、ちゃんと観たことはない。「手巻き寿司」かぁ。「とぶ」のかぁ。
8月4日(金)には、ディズニーとピクサーの新作『マイ・エレメント』もお目見え。本国アメリカの興行収入は予想外の不振ぶりだったようだけど、映画採点サイトRotten Tomatoesでは観客支持率92%なので、仕上がりは悪くないんだろう。予告を観た限りだと、火の精と水の精が恋に落ちるという設定に無理があるような気もする。
SF大作『トランスフォーマー/ビースト覚醒』も同日公開。2007年、当時小学生の息子に第1作を観に行こうと誘ったら、「えっ!あんな子供向けの映画観るの?」と驚かれ、結局一人で観たのだった。Rotten Tomatoesでは、観客支持率93%に対し、評論家支持率は54%(笑)。バカ映画の予感。
8月11日(金)には、マーゴット・ロビーとライアン・ゴズリングが主役を張る『Barbie バービー』が登場。おっちゃん一人で観るには勇気が必要だけど、すでにサントラは聴き込んでいたりする。本国では7月21日に公開されるや大ヒット。女性監督(グレタ・ガーウィグ)として、史上最高のオープニング記録をたたき出した。
鬼才と呼ぶにふさわしい、デイヴィッド・クロンネンバーグ監督の新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は、8月18日(金)から。未来の臓器移植の話? グロテスクな世界が繰り広げられること間違いなし。
音楽関連では、2002年11月に開催されたジョージ・ハリソンへのトリビュート・ライヴの映画版『コンサート・フォー・ジョージ』が8月4日(金)に公開。主催はエリック・クラプトンで、ほかにポール&リンゴにジョージの息子のダニー、トム・ペティなどなどが出演している。スクリーンの小さい映画館での公開なので、今回はパス。
もう一本、音楽関連で福岡県民にとっての重要作が『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』。言わずと知れたシナロケのドキュメンタリーだ。 8月11日(金)に福岡県先行公開、8月25日(金)全国公開。寺井到監督が鮎川誠を評して曰く「優しいことがカッコよく見える人は他にはいない」。うぅ、しびれる。
★8月の2本★ ※期待度は5点満点
決めました。誠さん、すみません。
勇気を出しておっちゃん一人で観に行くのだ!
Barbie バービー
期待度 ★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家90% 観客90%
2023年8月11日(金)公開
2023年製作/アメリカ映画/上映時間114分
監督:グレタ・ガーウィグ
出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング ほか
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/
作品賞は逃したけどノルウェイの映画賞で3部門受賞
イノセンツ
期待度 ★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家96% 観客73%
2023年7月28日(金)公開
2021年製作/ノルウェイ、フィンランド、デンマーク、スウェーデン合作/上映時間118分
監督:エスキル・フォクト
出演:ラーケル・レノーラ・フレットゥム、アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ ほか
公式サイト: https://longride.jp/innocents/
吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!
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