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その映画、星いくつ? 第28回 2025年5月 『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』『サブスタンス』

その映画、星いくつ? 第28回 2025年5月 『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』『サブスタンス』

「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。


音楽の分野でも、一般的にはレジェンドなんだけど、な~んかピンとこないアーティストっているよね。個人的にはザ・フー。初期のパンキッシュでポップな楽曲はともかく、ザ・名盤『Tommy』以降は、虚心坦懐に聴いてもよさがわかりません。




The Who 「ピンボールの魔術師」


そうそう、「好き/嫌い」というよりも、「わかる/わからん」という感じ。音楽の場合は、理屈ではなくて感覚的・生理的な部分が大きいので、ピンとこなくても「まぁ、いいか」と思うんだけどね。


でも、映画の場合、みんなが絶賛している作品を楽しめないと、なんだか損した気分になる。その最たる作品が、前も書いたかもしれないけど、マイケル・マン監督、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ主演の『ヒート』。


なんてたって映画評論の大御所、蓮實重彦先生が絶賛したんだから、傑作なんでしょう。でも、悲しいかな、何回観てもおもしろくない。これは、よさがわからぬワタクシが単に不感症なのか? 感性が死んでるのか?


この映画に限らず、マイケル・マン監督の作品はなんかノレない。実はそんな「なんかノレない」監督がもう一人いた。それは、デビュー作『アメリカン・ビューティ』でアカデミー賞監督賞を獲得したサム・メンデス。近年は『007』シリーズを監督し、特に『スカイフォール』は玄人筋からも大絶賛。2019年の『1917 命をかけた伝令』も、第1次大戦の戦場を全編ワンカット(に見える)で再現したと話題になった。


はい。どの作品もピンと来ませんでした。


まぁ、わかんないなら観なきゃいい。実際、サム・メンデスの最近作である、2022年の『エンパイア・オブ・ライト』は完全にスルーしたし。これでいいのだ・・・・・とバカボンのパパよろしく達観したつもりになっていたんだけど、ニュースによると、サム・メンデスがビートルズの劇映画を監督するらしいじゃないの!!!


4本の映画で世界で最も有名なバンドの物語をメンバー4人それぞれの視点で描いていく」


ほげっ。サム・メンデスはマイケル・マン同様、人間を記号としてしか表現できない(個人の意見です)。そんな映画作家がビートルズのなにを語るんだろう。


キャストもビートルズの4人にはまったく似ていないし、不安は募るばかり。ティモシー・シャラメがボブ・ディランを演じたのとはわけが違う。シャラメは似ている/似てないではなく、そのカリスマで映画をドライヴすることができたけど。ビートルズ役の4人にそれを求めるのは酷でしょう。


ポール・マッカートニーかオノ・ヨーコがストップをかけるべきだった。公開は20284月。AIを駆使してでっち上げた、2023年発表の楽曲「ナウ・アンド・ゼン」に続いて、ビートルズの伝説に泥をかける結果になるのではないかなぁ。




「ナウ・アンド・ゼン」はPVも悲しくなる出来・・・・・・。



5月の獲れ高】


ため息をつきつつ、5月のおさらいを。期待度と獲れ高は5点満点/ネタバレあり!


1本目

ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング

公式サイト:https://missionimpossible.jp

20250524日(土)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13

事前期待度 ★★★★★

獲れ高   ★★★★★


核兵器による人類の滅亡までカウントダウンが進むなか、例のごとく、イーサン・ハントは何度も死にそうになりながら、それを止めようと奮闘する。


これで最後か・・・・・・と感慨に耽るほど、シリーズに思い入れがあるわけでもないんだけど、イーサンの姿を見ていると胸に込み上げるものがある。


やっぱりそれって、一つ一つのシーンが、トム・クルーズが命張って創り上げたものだからであって、このシリーズの忠実なファンの人たちにしてみると、前作・今作ともにいまひとつの評価みたいだけど、トムの生き様を観に来てるおっちゃんにとっては、ストーリーとは関係なく、スタントの難易度をグイグイ上げていくトムの姿に大満足なのでした。


加えて脚本もちゃんとしとる。


「イーサンの過去が明らかになる」なんて噂もあったので、『007 スカイフォール』みたいな展開になるとかったるいなぁと危惧していたけど、杞憂でした。


前作からチームに加わったスリのグレースや元は敵の部下だったパリスも、見せ場がたくさん。特にグレースは、最後の最後でスリの技を炸裂させる。まぁ、そんな派手なもんでもないけど。


イーサンの奮闘とデュアルな展開で、ベンジーが率いる(というか、率いざるをえなくなった)チームの活躍が描かれてるのが、緊張感をさらに高める。


今回の見せ場は、イーサンの深海でのミッションと、クライマックスのプロペラ機の空中戦が双璧でしょう。いずれの場面も、イーサンは孤軍奮闘しているんだけど、実はチームがバックアップしているってのが泣かせる。


その結果、チーム自体も満身創痍になるわけだけど、魅力的な新メンバーも加わって、また次が観たくなる。


現実的には、トムもいい歳(7月で63歳!)だし、これ以上継続するのは難しいんだろうけど、本物の人間の本物のアクションが見られる希少なシリーズの幕が降りるのは、非常に惜しい。こんなアクション映画はもう出て来ないんじゃないかな。


・・・・・・と、ついついアクションに話がいってしまうのだけど、ラストのルーサーの語りに象徴されるように、シリーズで今作ほどメッセージを感じた作品はなかった。


それって、隣人を愛せとか、仲間を裏切るなとか、人間の自由意志は機械に勝利するとか、人間の善性を信じろとか、最後まで希望を捨てるなとか、月並みかもしれないけど、いまの世界においてはすごく大事なこと。


こういうメッセージを臆面もなくのせるところからも、トムは「映画」そのものの力を信じてるんだなぁと感じて、グッと来てしまった。


トムも監督のクリストファー・マッカリーも、まだ新作はありうると発言しているけど、実際のところどうなのか?


前作と今作は、コロナ禍の影響もあって、制作費は4億ドルを超え。しかも、前作『デッドレコニング PART ONE』は興行収入が振るわず、最終赤字に陥ったと推測されている。


今作はどうかというと、日本でのオープニング成績は『名探偵コナン』を押さえ1位! アメリカでは『リロ&スティッチ』の後塵を拝したものの、オープニングの成績はシリーズ最高を記録したそうな。このまま大ヒットを記録すれば、続編も期待できる? 



2本目

サブスタンス

公式サイト:https://gaga.ne.jp/substance/

20250518日(日)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13

事前期待度 ★★★★

獲れ高   ★★★★


「かわいいが暴走して、阿鼻叫喚」かぁ。


宣伝手法に批判もあるようですが、このコピーは間違ってはいない。スー役のマーガレット・クアリーはかわいいし、阿鼻叫喚もあるし。


映画のテーマはルッキズム批判というよりも、「過剰な自己承認欲求が招く狂気」。


主人公、エリザベスは実際ショウビズ界のルッキズム至上主義に乗っかってこれまで(一応は)成功をおさめてきたわけだし。見た目で消費されることに違和感を覚えない。だから、怒りの矛先は、自分をクビにしたおっさんへではなく自らの「老い」自体に向かっていく。


エリザベスは、不特定多数の人々に「愛される」ことを希求する。そのためには、文字通り死んでも老いるわけにはいかない。この自己承認欲求の背景には、彼女の決定的な孤独が横たわっている。恋人はおろか、番組から降ろされても、慰めてくれる友もいない。一人バーで酔い潰れるだけ。


「それもこれも加齢のせい。老いることがなければ、金色の雪が永遠に降り注ぐのに!」


で、こんなふうに老いを拒み、愛されることだけをのぞみ続ける人間がどうなるかというと、人間ではなくなるというオチなのでした。


見るからに気味の悪いクスリ「サブスタンス」によって生まれた分身のスーは、エリザベスの承認欲求を煮詰めてヒトの形に結晶化したような存在だった。必然的に世代間抗争が勃発する。このへんのスリリングな展開がひとつのクライマックスだろう。


エリザベスとスーに対して、「あんたらは一体だってことを忘れるなよ」とサブスタンスの運営サイドが再三注意喚起するから、てっきり、スーとエリザベスは記憶を共有してるもんだと、思ったんだけど、そうではなかった。自我は完全に独立していて、運営サイドが言っているのは、生命維持のために本体と分身は共依存の関係にあるという意味だったみたい(この点はこの後の展開と矛盾するんだけど)。


しかし、それを乗り越え、最後に2人は本当の意味で一体となる。まぁ、かなりグチャグチャな感じなんですけどね。「分身が本体を食い潰す」なんて表現が出てくるけど、最終的には本体が分身を食い潰す。


ここから、映画のルックも変わり阿鼻叫喚モードへ。


スーを取り込んだエリザベスが(血飛沫とともに)口にするのは「私を見て! 私を愛して!」という言葉。ルッキズムははるかかなたに置き去りにして、強烈な自己愛だけが彼女を衝き動かす。その姿は哀しく、やはり孤独で、凄惨で、滑稽でもあり、なによりもグロテスク。それでも、後味が悪くないのは、「フランダースの犬」風味のラストシーンのおかげか。


金色の雪がエリザベスに降り注ぐのだ。


グチャグチャになってからが長いし、おっさんたちの描き方が類型的だし、辻褄が合ってないとこもあるし、なにより、痛いし、キモいし、グロいけど、なんか、スゲーもん観たなぁという感慨は残る。期待通りの怪作でした。



6月はこの映画に賭ける!】


梅雨だぜ! 映画館に通うのにピッタリのシーズン。・・・・・・まぁ、2本しか観ないわけだけど。


6月の鑑賞対象ノミネートは10本はこちら。


まずは5月に積み残した作品から。


①ヴィクラム

インドのスーパースターが集結したクライム・アクション。みんな人相が悪いので誰が善玉で、誰が悪役だか。Rotten Tomatoes の支持率は、評論家は59%と低調だけど、観客は96%と絶賛状態。530日(金)公開。


6月公開作は、ホラーが多め。『サブスタンス』の余波ってわけでもないだろうけど。


主演、ミア・ゴスの狂気が炸裂する人気シリーズもついに完結。


MaXXXine マキシーン

X エックス』『Pearl パール』に続く3作目。ストーリーは『X』の惨劇を生き延びたミア扮するマキシーンのその後のお話。実在した連続殺人犯が主人公に襲いかかる・・・・・・のかな? また凄惨なシーンが観られそう。66日(金)公開。


こちらもホラー・シリーズ最新作。ずいぶん時間が流れたのね。


28年後...

謎のウィルスによって、次々に人間がゾンビ化してしまったイギリスが舞台。ジョディ・カマー、アーロン・テイラー=ジョンソンと俳優陣は豪華だけど、ゾンビものは、今更感があるかなぁ。620日(金)公開。


マイケル・B・ジョーダン主演のサバイバル・スリラーは、全米大ヒットを受け、急遽、日本公開が決定した。


罪人たち

1930年代のアメリカの田舎町で双子の兄弟に降りかかる災厄を描く。地味なプロットだけど、オリジナル作品としては、過去10年で最大のオープニング興行成績を叩き出した。IMAX鑑賞がマストみたい。620日(金)公開。


そうそう、例の壮大な失敗作もついにお目見え。


メガロポリス

巨匠、フランシス・コッポラが私財を投げ打って制作した大作。話題性は十分なんだけど、何回、予告編を観ても、おもしろそうに思えないのがツラい。果たしてスクリーンで観る価値があるんかな。620日(金)公開。


劇場で予告編を観て引っかかったのはこのアクション・コメディ。


Mr.ノボカイン

生まれつきまったく痛みを感じない男が主人公。その特性を活かして、銀行強盗に人質に取られた恋人を救うために立ち上がる。予告編はバカバカしくて、とてもよかった。620日(金)公開。


レストランが舞台の映画は結構好き。『ボイリング・ポイント』はハズしたけど。


ラ・コシーナ/厨房

ニューヨークの大型レストランのキッチンが舞台。モノクロの映像がオシャレな感じ? 移民問題がメインテーマみたいで軽いだけの映画ではない模様。上映時間139分は長すぎという指摘もあり。613日(金)公開。


アメリカではSNSでも話題になった落涙必至の感動作も。


We Live in Time この時を生きて


『サンダーボルツ*』では悪人軍団を仕切っていたフローレンス・ビューがこの映画では不治の病に罹ってしまった女性を演じる。本国ではこの映画を観て泣いている自分をSNSで発信するのが流行ったんですと。66日(金)公開。


予告編を観ると次も泣けそう。こちらは韓国映画。


ラブ・イン・ザ・ビッグシティ

ひょんなことからルームシェアを始める自由奔放な女性とゲイの男性が主人公。2人とも「生きづらさ」を感じているからこそ、意気投合するわけだけど、社会に出た彼らに思わぬ試練が襲いかかる。613日(金)公開。


早川千絵監督の新作はカンヌのコンペティション部門に出品。


ルノワール

早川監督はデビュー作『PLAN 75』もカンヌで評価が高かった。第2作は11歳の感受性豊かな少女が主人公。この子のツラ構えがなかなかいい。どんな役かはわからないけど、河合優実も出演。よう働くなぁ。620日(金)公開。


ブラッド・ピット主演の『F1 エフワン』は予告編を観た限りでおもしろそう。627日公開なので7月に回しましょう。 



6月の2本★ 期待度は5点満点


決めました。


圧倒的なRotten Tomatoesの支持率。これは期待できる!!

罪人たち

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 97% 観客 96%

2025620日(金)公開

2025年製作/アメリカ映画/上映時間137

監督:ライアン・クーグラー

出演: マイケル・B・ジョーダン、ヘイリー・スタインフェルド ほか

公式サイト:https://warnerbros.co.jp/movies/detail.php?title_id=59698




泣いちゃいそうなのでちょっと躊躇したけどトライ!

ラブ・イン・ザ・ビッグシティ

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 —— 観客 ——

2025613日(金)公開

2024年製作/韓国映画/上映時間118

監督:イ・オニ

出演: キム・ゴウン、ノ・サンヒョン ほか

公式サイト:https://loveinthebigcity.jp




吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!


第27回 2025年4月『ミッキー17』『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』

長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。