文化CULTURE
世界放浪 ~シヴァ神と仙人サドゥ~ Vol.20
翡翠色のガンジス河ヨガ
セレンディピティ(幸運な偶然)というのはあるもので、幸せな気持ちになりながら宿に向かっていると、友人と歩いてきたインジェマとばったり出くわした。
思わず、
「私もシヴァに会った!素晴らしかった!!」
と興奮気味に報告すると、
「おめでとう」
と言ってインジェマは満面の笑みで抱き締めてくれた。うっすらと涙が出た。
私たちをインジェマの友人が不思議そうな顔をして眺めていた。
面白いことに、これっきり、リシケシュでインジェマに会うことはなかった。シヴァ神と出会わせるきっかをくれた天からの使いのような人だった。
せっかくこんなに満たされた心になったのに、教室(ヨガスクール)や修行場(アシュラム)で他の人と合わせながらヨガをするのも何だか気が乗らない。できれば野外の気が良い場所で自由にヨガをしたいなという気持ちが芽生え、宿に教えに来ていた先生がいい眼をしていたことを思い出してFacebookでメッセンジャーを送ってみると、ガガン(Gagan Bhandari)はプライベートレッスンを快く了承してくれた。
翌朝もカラッとした晴天。ガガンがバイクで宿まで迎えにやってきて、二人乗りで上流へと向かう。
小さな頃は毎日ガンジス河で泳ぎ、15歳の頃からヨガを本格的に習得し始めて6年。家族もみなヨガを教えていて、兄の一人は中国で先生をしているという。いつか自分も海外で教えるのが夢とのこと。
昨日私にシヴァが来てくれた話をしたらとてもびっくりして祝福してくれた。
岩に囲まれたさらさらの砂浜でガガンとガンガーでヨガレッスン開始(ガンガー=ガンジス河)。
ガガンがゆっくりと「オム・ナマ・シヴァヤ」のマントラを唱える。
深呼吸で息を整え、exhale(吐く)、inhale(吸う)の声に合わせて身体を動かしていく。
ガガンの英国式イングリッシュの発音はかなりアレンジされていてすぐには意味が取りにくいのだが、音の余韻はなぜか曲のようで、周りの風景に溶け込んでいく。無理のない優しい教え方とペース取りに安心して身を委ねる。
突き抜けていく青空、やさしい白い砂浜、翡翠色のガンジス河。
色彩の鮮やかさとは裏腹に、ヒマラヤ山脈の雪解け水がごうごうと重力に沿って一目散に動くダイナミックな低音が響きわたる。合間に、オクターブの高さも音の粒も異なるピチチチチという鳥の啼き声がする。
殊更ゆっくりと息を重ね、ただの物質になったかのごとく、身体を容れ物のように捉えて新鮮な大気を取り込み続ける。
だんだんと自分がふやけて空気に溶け込んでいるような心持ちになってくる。
雪解け水の轟音がすぐそばで鳴っているのに可聴範囲の外側にあって聞こえづらくなっているような、しんとした緩みの空間にただ自分が在る。
わたしという個人も地球の一部であり、本来は奇跡の結実のような偶然で生かされているのに、いつの間にかそれをあるがまま当たり前に受け止めていることを発見する。
疑うのではなく、気づかぬうちに自明のものとしている。なぜそう思うのか、途中の論理構成はすっぽりと抜け落ちている。
外側としての容れ物が少し宙に浮いている。
中身は存在の制限が無く、どこまでも平明な心が広がっている。
何も変わっていないのに、理屈もないのに、全てのことが腹落ちしていた。
過去最高のヨガ。全身に気が漲(みなぎ)った。
自由業。CROSS FM元代表取締役社長、経営破綻寸前だった同社を再建。
2019年2~3月、仙人サドゥに会いたくてインドへ。昔は「東大生が教える!超暗記術」(ダイヤモンド社)を出版し、印税を使って52ヶ国世界一周ダンナ探しの旅をしていました(http://www.tokuwakako.com/)。
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