文化CULTURE

長谷川和芳 | その映画、星いくつ? 第1回 2023年2月

「趣味」なんて高尚なものは何ひとつもたず、50年少々生きてしまった。


音楽は毎日聴いているけど、だからと言って最新のミュージック・トレンドに詳しいわけでもない("トラップ"って何? SZAってなんて発音するの?)。

「好きな酒? やっぱ日本酒が一番かなぁ」なんて言うくせに、日本酒の知識が豊富なわけでもなく、結局、酒の味も好みでしか語れない(好き/嫌いしか語彙がない)。

毎日、料理してるけど、家人が多忙なため担当になっただけ。つくるのは好きだけど、たぶんうまくない。食卓を囲むと、家人がなぜか無口になる。料理が口に合わないんだろう。


何につけても中途半端なのは、音楽にしても飲酒や料理にしても、「趣味」ではなくて「習慣」と化しているからじゃないかと思う。だから、さほど突き詰めない。したがって、生産性もない。



同様に、月に2回映画館に足を運んでいるけど、実はこれも「趣味」ではなく「習慣」だ。音楽や酒との違いは、映画が非日常に連れてってくれるところか(酒も飲み過ぎれば非日常的な時間を体験できるけど)。


歳のせいなのか、時代のせいなのか、自宅の茶の間で映画を観ていても、集中力が続かない。途中でスマホさわったり、トイレに立ったり、飲み物調達のため冷蔵庫を開けたり。「非日常」にハマれないのだ。


その点、映画館では映画を観る以外、何もできない。自然と映画に集中する。次第にそれが愉楽となってきて、ここ10年ほど、定期的に映画館の暗闇に体を沈めるようになった。


「映画館、月に2回だけ? それは残念」と、映画マニアとして知られる居酒屋店主には笑われた。はい。すみません。確かに、月に映画2本なんて、観てない人よりは観てるけど、観てる人の足元にも及ばないレベルだ。「趣味」なんて言うのはおこがましい。



それでも、月2本という制約が個人的にはちょうどいい。これは、家人からの要請(「月に何本も映画を観るほど、我が家は裕福ではありません!」)もあるんだけど、本数を絞るからこそ、一本一本の映画に対して思い入れが募るし、作品が期待通りの出来だったときの満足感は高い(期待はずれだったときの絶望感もまた深い)。


その作品と縁があったという、その事実だけで、期待はずれな作品も憎めないんだけど。



その一方で、映画の厄介なところは、その作品の出来が良くても悪くても、観ると語りたくなることころだ。「なぜ、あの登場人物はあんな行動をとったんだろう」「あのシーンに監督はどんな意図を込めたんだろう」などなど、映画館を出た後はいつも自問自答を繰り返す始末。挙げ句の果てには、映画アプリに感想を書き連ねるのだけど、しょせんは備忘録。まとまりもない。


そんな折、『名盤』連載から引き続き『Bigmouth WEB MAGAZINE』の枠を提供いただけるということで、映画ネタをクリゼン氏に提案すると快諾を得た。そこで、月イチペースで映画について書いてみようと思った次第だ。


観た作品をただレヴューするってのも芸がないので、まず、翌月観る予定の映画2本をピックアップし、その作品についての情報を整理。そして、なぜその2本なのか、何を期待して選んだのかも開陳する。


そして、翌月末に、その答え合わせとして、2本の映画をレビュー、採点するというパターンでいこうと思う。



上に述べた通り、ボクは「習慣」で通っているわけで、決してシネフィルではない。だから、人に感心されるようなウンチクは書けないけど、「あ、この映画おもしろそう。観に行こうかな」「こんな観方もあるのね」程度に参考にしていただけると幸いだ。 



では、早速、来月観る映画をピックアップしてみよう。



3月はこの映画に賭ける!】


「習慣」という割に切羽詰まったコーナー名。いや、ホント、毎月「何を観て、何を観ないか」が悩みどころなのだ。特に「何を観ないか」。


3月といえば日本時間13日(月)に今年度のアカデミー賞が発表されるわけだけど、それを前に作品賞受賞有力候補が2本、33日(金)に公開される。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『フェイブルマンズ』だ。


前者はミッシェル・ヨー演じるコイン・ランドリーの店主が並行世界を股にかけて悪と闘うというストーリー。この奇想天外な一編が、なんと、10部門11ノミネートと、今年度の最多ノミネートを成し遂げた。


映画館で予告編を観たけど、「これ、絶対映画館で観なきゃ」と思わせる仕上がりだった。1本目はこれで決まり。


後者は巨匠、スティーヴン・スピルバーグが、映画に魅了されていった自身の少年時代を描く自伝的な作品。第80回ゴールデングローブ賞では、ドラマ部門の最優秀作品賞を受賞している。アカデミー賞でも7部門にノミネート。


これ、絶対良作でしょう。スピルバーグが映画への愛を込めた作品。悪いわけがない。しかし、期待以上の感動を味わえるかというと、どうなんだろう?


アカデミー賞絡みでいくと、もう1本、黒澤明の名作をリメイクしたイギリス映画『生きる LIVING331日(金)に公開される。主演のマイケル・ナイと脚色のカズオ・イシグロがノミネートされているけど、これは4月に入っても公開していると思うので、今月はいいや。



実は『フェイブルマンズ』の対抗馬は、アカデミー賞とは関係がない作品だったりする。


まず、324日(金)公開の『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』。スピルバーグが映画の恩人なら、デイヴィッド・ボウイはロックの恩人なのである。この作品はボウイ本人のナレーションとともに、未公開映像の数々がスクリーンに映し出されるという。


ドキュメンタリーとしてのクオリティはイマイチという評も目にしたけど、なんたってボウイですから、そういう問題ではない。そして、福岡では、キャナルシティ博多のユナイテッド・シネマでIMAXで上映!! IMAXでボウイ!!!!!


うーむ。悩む。


もう一本の対抗馬は、日本映画『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』。こちらも24日公開。髙石あかりと伊澤彩織が演じる殺し屋コンビを描いた、2021年公開の青春アクション映画の続編だ。こういうのも好きなんです。


1作目はCSでやってたのを録画して観た。主演の2人のキャラとアクションのキレがクセになって、いまだに繰り返し観てしまう。続編は映画館で観ようと心に決めていたんだけど、このタイミングかー。


人生はままならぬものですなぁ。だからこそ、熟慮し最善の選択をせねばなりません。



3月の2本★ 期待度は5点満点


決めました。


昨年から期待を膨らませてきた作品。間違いないはず!!

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

期待度 ★★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家95 観客88% 

202333日(金)公開

2022年製作/アメリカ映画/上映時間139

監督:ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート

主演:ミッシェル・ヨー 

助演:キー・ホイ・クワン ほか

公式サイト: https://gaga.ne.jp/eeaao/




スピルバーグによる「映画を描いた映画」。やはり映画館で観ねば

フェイブルマンズ

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家92 観客82% 

202333日(金)公開

2022年製作/アメリカ映画/上映時間151

監督:スティーヴン・スピルバーグ

主演:ガブリエル・ラベル、ミッシェル・ウィリアムズ

助演:ポール・ダノ ほか

公式サイト: https://fabelmans-film.jp





吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。