文化CULTURE

その映画、星いくつ? 第30回 2025年7月 『F1 エフワン』『ストレンジ・ダーリン』

「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。


(基本的に)月に2本しか観てないので、今年に入ってからも、見逃した映画は多数。一年の半分が終わったので、「観ときゃ、よかったなぁ」な作品をおさらいしときます。これから(J:COMとかで)観るための、備忘録として。


5本くらいかなぁと思いきや、10本集まってしまった。ほかにもありそうだけど、キリがないのでここで一旦アップします。


まずは、鑑賞候補にも挙げていない2本。ワタクシのセレクトがいかにザルかというね・・・・・・。


①国宝

興収も60億を超えて、今年最大のヒットになりそうな勢い。ヤクザの息子が歌舞伎役者の跡取りになるというプロットだけで却下してしまったワタクシの浅はかさを深く反省しております。そもそも、主演の吉沢亮と横浜流星をナメてた。


トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

タイトルからしてB級香港映画でしょう? ・・・・・・って、あぁ、浅はか。アクションの壮絶さが話題を呼んだけど、個人的に「しまった!」と思ったのは、いまはなき九龍城砦が完全に再現されていたというレヴュー。あぁ、スクリーンで観るべきでした。


マインクラフト/ザ・ムービー

こちらは介したけど、ここまでヒットするとは。予告編観たときに、あまりにバカバカしくて「・・・・・・もしや傑作?」とも思ったけど、そこ止まりでした。


メガロポリス

うーーーーーーーーむ。日本公開が決まってから観るべきか否かずっと考えてたんだけど、こちらは「マインクラフト~」とは逆に予告編がダメダメだった。でも、ワタクシの周りの観た人はみんな「観る価値あった」と。こういう問題作は観ないとなにも言えない。観るべきだったか???


原作が筒井康隆の小説だけあって、いったい映画のなかで何が起こるのか、まったく予想できず。地雷かもと思って却下。しかし、長塚京三の芝居はスクリーンで観るべきだったのでは。


ノー・アザー・ランド 故郷は他にない

パレスチナ人とイスラエル人の友情を描いたドキュメンタリー。オスカーを受賞したのはいいけど、その直後、監督の一人がイスラエルに捕まって暴行を受けたというニュースが入ってきた。イスラエルの非道に抗議する意味でも劇場に行くべきだったのではないか。


HERE 時を越えて

ロバート・ゼメキス監督による壮大な物語。評判はよくもなく悪くもなくだけど、スクリーンで観ないと話が頭に入ってこない予感。


We Live in Time この時を生きて

予告編を観れば観るほど傑作に思えるんだけど、泣くじゃん、絶対。そこで躊躇してしまった。


MaXXXine マキシーン

このシリーズは一本も劇場で観ていない。『X』『Pearl』はケーブルテレビで観ておもしろかったんだけど、スクリーンで観なきゃっていう動機づけが弱かった。主演のミア・ゴスは今後もマークせねば。


新世紀ロマンティクス

日本で公開される中国映画って、暗いくて重い。この作品について言うと制作期間が22年ってのも、なかなかヘヴィー。でも、だから傑作だったかも。でも、自分には合わなかった・・・・・・かも。観てみないとわからんのよね。


すでに告白済みですが、実は、上半期で一度「月に2本」ていうルールを破って、『ウィキッド ふたりの魔女』を観てしまいました。傑作でした! ついでに懺悔すると、先月の「2本」に入れてなかった『スーパーマン』を、先日観てしまいました。傑作でした!


いかん。チートはいかん。


いかんので、月2本を原則に、特例で年に3本までエクストラで鑑賞していいことにしない? 『ウィキッド ふたりの魔女』『スーパーマン』観てるので、今年残り5か月で1本のエクストラ。


エクストラ枠でどの作品を観るかは予告しません。だって、やむに止まれず観るわけなので。


・・・・・・お願いします。



7月の獲れ高】


では、7月のおさらいを。期待度と獲れ高は5点満点/ネタバレあり!


1本目

F1 エフワン

公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/f1-movie/

20250628日(土)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13

事前期待度 ★★★★

獲れ高   ★★★★★


走る意味、生きる意味


『トップ・ガン マーヴェリック』のスタッフが再結集して制作。戦闘機の次は、F1マシンかよ! おっちゃんのなかに眠る「男の子」のツボを突く題材に、否応もなくIMAXで鑑賞しました。


ブラット・ピット演じるロートルのレーシング・ドライバー、ソニーが、才能ある若手、ジョシュア(演じるはダムソン・イドリス)と対立しながらも、最後は一つの目標に向かって手に手を取り合うという、まんま『マーヴェリック』なプロットだし、展開も結構ベタ。流れ者が皆々を導いて、目的を達成したところで去っていくって、まんま西部劇。




いきなりツェッペリンかかっちゃうし、演出もベタ。


だからこそのおもしろさ。シンプルなストーリーと臨場感あふれるレース・シーンが組み合わされば、怖いものなし。


娯楽作としては文句のつけようがない一作でした。


・・・・・・ってことで、閉じてもいいんだけど、なんでこんな盛り上がったのか、もう少しだけ振り返ってみよう。


まず、F1という舞台が興味深い。観ている間、ずっと高揚感に包まれていたんだけど、それはレースというイベントにつきもののハレな空気感が影響してるんだろう。非日常的な華やかさ。


かつては、日本でもみんなF1観てたんだよなぁ。セナもプロストもマンセルもピケもいた時代。主人公のソニーはその時代の生き残りだったりする。もう、グッときますよね。


本物のF1マシンは実に美しい。サーキットでバトルを繰り広げる様子は、あたかもバレエのよう。


劇中描かれるマシン開発やドライバーのトレーニングの現場も興味深い。まさにテクノロジーの粋を集めている。この映画の主人公たちが所属しているのは、APX GPという最弱チームなんだけど、そんなチームでもすごい設備を持ってる。そりゃ、金がいくらあっても足りん。


ストーリー・ラインはいわゆる「ジャイアント・キリング」もの。ポンコツ・チームがいかにして強豪チームと伍して、栄冠を勝ち取るのか。間違いなくカタルシスを感じるスポーツもの王道の筋書きだ。不条理とも言える格差社会が顕在化している昨今だからこそ、底辺からのし上がるという展開はいっそう喝采を浴びるのかもしれない。


弱者だから正攻法では勝てない。では、どうするのか? ルールを熟知し、それを逆手に取るのだ。ここもまた痛快。


言われてみれば当たり前のことなんだけど、レースってのはチーム・スポーツなんだってのもよくわかった。どんなにドライバーが天才的な腕前でも、マシンがポンコツでは、勝つことなんてムリ。ピットワークも含めて、各メンバーが献身を惜しまないから、マシンは走ることができる。そういうチーム・ワークも観る者を熱くさせる一因だし、スポーツ映画の醍醐味だろう。


F1という華麗な世界を舞台にし、最新の映像技術でサーキットを再現しているものの、この映画の構造はオーソドックスだし実にウエルメイド。ちゃんとしたハリウッド映画って感じだった。


最後に付け加えるとしたら、最高のブラピ映画だってことか。61歳なんて歳は関係なく、彼のカリスマ性がビンビンに伝わる。・・・・・・それが少々やりすぎだっていう意見もわかるけどね。そのカリスマ性があるから、ソニーの人物像に深みが出たことは認めざるを得んでしょう。


鑑賞前から気になっていたのは、ソニーはなんのために走るのかということ。


レーシング・ドライバーになった理由を問われ、若いジョシュアはこう答える。


「名声と金とスポンサーからタダでもらえる高い服のため」


わかりやすい。


じゃあ、おっちゃんのソニーは?


「金が目当てじゃない」ってのは、最初から口にしてる。ならばなんなの?


ソニーがF1で走る最大の理由は、意外にも、盟友であるチームのオーナー、ルーベンへの友情によるものだった。観る前は、負け犬ソニーが、若手との葛藤したり世界最高峰レースに挑戦したりするなかで、再生していく物語・・・・・・なんて筋立てかもとか思ってたけど、そもそも、ソニーはすでに挫折を乗り越え再生を果たしている。


確かにF1の表彰台で真ん中に立つことは、ソニーにとって、叶わなかった夢であり、いまも忸怩たる想いを抱えてはいるんだろうけど、ルーベンのチームで彼が目指すは、チームメイトのジョシュアを勝たせること。そして、ルーベンの手元にチームを残すこと。


彼はそのために、悪辣な策略だって企てる。


もちろん、それだけがモチベーションではなく、レーシング・ドライバーであると同時にサーフィンの心得もある彼は、「レースをしていると無音の瞬間が訪れて、周りがスローモーションに見えることがある」なんて、禅の境地みたいなことを口走っている。


ソニーというキャラクターの本質はここにあるんだろう。手練れのロートルであると同時に、レースの求道者。


映画のラストで「なんのために走るのか?」と聞かれたソニーは笑って、問いには答えない。答えられない。ソニーにとって、走ることは生きることだから、「なんのために走るのか?」という問いは「なんのために生きてるのか?」ということと同じなのだ。そんなの答えようがない。


周りにどう思われようが、自分らしく生きること。それがすべて。いくつになっても、かくありたいですね。




主題歌はエド・シーランでした。



2本目

ストレンジ・ダーリン

公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/strangedarling/

20250712日(土)T・ジョイ博多

事前期待度 ★★★★

獲れ高   ★★★1/2


3 5 1 4 2 6


観た人はわかる数字の羅列。


この映画は6章に分かれているんだけど、上記の順番にスクリーンに映し出される。


予想以上にトリッキーな映画だった。予告編に出て来る一連の映像もそうだけど、オープニングで出て来る役名も思い切りミスリード。あの人には、そう見えた? ラストに浮かび上がって来るのは、あの人の壮絶な生き様。


予告編では、連続殺人犯から逃げている(と思われる)女性がこれでもかと映される。しかし、「観る者を裏切り続ける展開」という前評判を聞くと、メガネのお兄さんから逃げている女性はただの被害者ではなく、なんかヤバいことを隠してるんだろうなぁと察しがつく。


しかし、実際に映画を観ると、メガネのお兄さんの行動は明らかに連続殺人犯のソレで、この物語のベースがどこで崩れるのかは、「2章」が明らかにされるまで、まったく予想がつかなかった。描写のディテールにミスリードを誘う描写が紛れ込んでいる。そこが映画としてのうまさだし、鑑賞するうえでのポイント。


内容については、これ以上言うと、観る意味がなくなるので自粛します


映画を盛り上げているのが、ロマンチックなようで禍々しさも感じさせる60年代調ポップス。ナツメロかと思ったら、「ラブ・ハーツ」のカバー以外は、Z Bergってシンガーのオリジナルと知って、びっくりしました。





歌詞の内容がストーリーともリンクしているのもニクい。97分というコンパクトな上映時間もニクい。「こりゃ一本取られちゃったなぁ」と思わずつぶやいてしまう良作でした。



8月はこの映画に賭ける!】


エクストラはあと1本。8月観る作品は無難に2本だけで済ませたい。

8月の鑑賞対象ノミネートの10本はこちら。


7月公開作は、大作を積み残してたわけだけど、マーベルもので言うと『マダム・ウェブ』並みにコケそうな予告編なのであった。


ファンタスティック4 ファースト・ステップ

まず、コスチュームが貧乏くさい。時代設定が70年代くらいなのかな? いや、『スーパーマン』もコスチュームは貧乏くさいですよ。それは計算ずくなんだけど、ファンタスティック4の着るとチクチクしそうな衣装は、まず、子供たちが支持しないのでは。725日(金)公開。


夏休みだし、8月も大作がお目見え。


ジュラシック・ワールド 復活の大地

おなじみの恐竜アドヴェンチャーの新章が始動。スカーレット・ヨハンセンを主演にぶっ込んで、いままで以上に盛り上がるかと思いきや、評価はもう一つ。マンネリ化を脱しきれなかったということかな? 監督は『ザ・クリエイター 創造者』で株を下げたギャレス・エドワーズ。88日(金)公開。


バレリーナ: The World of John Wick

こちらは完結したはずの人気シリーズのスピンオフ。主演は可憐な見た目にもかかわらず、アクションもイケるアナ・デ・アルマス。ジョン・ウィック=キアヌ・リーヴスも結構出番が多いという噂。このシリーズは、一旦火がつくとエンディングまでアクションが続くパターンだけど、それを踏襲するか? 822日(金)公開。


アイム・スティル・ヒア

ブラジルの名匠ウォルター・サレスが、12年ぶりに手がけた長編映画で、第81回ベネチア国際映画祭で脚本賞、第97回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞。実話に基づいたストーリーは地味め。夫が独裁政権に連行。残された妻や子供たちの苦闘が描かれる。本国では熱狂的に迎えられた一作。88日(金)公開。


入国審査

スペインからアメリカへやって来たカップルを待ち受ける入国審査での尋問の行方を描く。そんなのが映画として成り立つのか! ちょっと興味惹かれる。尋問が進むに連れて、主人公の2人に不信感が生まれていくというのがミソ。しかし、77分という上映時間のタイトさをどう考えるか。スクリーンじゃなくてもいい? 81日(金)公開。


KNEECAP/ニーキャップ

アイルランドのラップ・チーム、ニーキャップのバイオグラフィー映画。4月にアメリカで行われたフェス『コーチェラ』で反イスラエル&親パレスチナをぶちかまし、喝采とブーイングを浴びた。「アイルランド語は自由のための弾丸だ」という言葉が象徴するようにヒップホップ彼らにとって武器なのだった。88日(金)公開。




近畿地方のある場所について

この作品の原作は、書籍化される前に『カクヨム』ってサイトに投稿されているのを読んでいる。いやぁ、怖かった。その禍々しさは本物。だけど小説だからこそ怖いのでは? 映画化大丈夫か?とも思ったけど、宣材の菅野美穂の邪悪な微笑みを見たら、期待できるかもと思ったり。88日(金)公開。


ちょっとネジがハズれたた感じのタイトルが期待大の『愛はステロイド』も気になるけど、08/29(金)公開なので、後回しと。


あれ? ノミネート10本に満たず。ラインナップもなんか地味。エクストラとか心配無用だった。



8月の2本★ 期待度は5点満点


決めました。選択肢が少なすぎだけど、こんな月もあるのよね。


もしかしたら、いまこそ観るべき作品かも

アイム・スティル・ヒア

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 97% 観客 97%

20250808日(金)公開

2024年製作/ブラジル映画/上映時間135

監督:ウォルター・サレス

出演: フェルナンダ・トーレス、セルトン・メロ ほか

公式サイト:https://klockworx.com/movies/imstillhere/




F`*kイスラエル! 今こそ観るべき!!

KNEECAP/ニーキャップ

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 96% 観客 95%

20250808日(金)公開

2024年製作/アイルランド映画/上映時間102

監督:リッチ・ペピアット

出演: モウグリ・バップ、モ・カラ ほか

公式サイト:https://unpfilm.com/kneecap/




吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!


第29回 2025年6月 『罪人たち』『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。