文化CULTURE

その映画、星いくつ? 第35回 2025年12月 『WEAPONS ウェポンズ』『みんなおしゃべり!』

「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。


年末が近づくと、いろいろな海外メディアでその年のベスト・ムーヴィーが発表される。結果をいちいち集計するのは面倒なので、AI2025年のベスト10をまとめてもらいました。今回はChat GPTを使用(Geminiでもやってみたけど、精度はイマイチ)。


  1. One Battle After Another_ワン・バトル・アフター・アナザー
  2. Sinners_罪人たち
  3. It Was Just An Accident
  4. The Secret Agent
  5. The Mastermind
  6. Marty Supreme
  7. The Shrouds
  8. If I Had Legs I’d Kick You
  9. Sentimental Value
  10. Sirat


なんと、12位の作品以外は日本未公開。2026年に観られる作品もあるだろうけど、配信スルーもかなりありそう。いわゆる洋画が劇場で観られなくなる日も遠くないか。


ちなみに上のランキングは、評論家がチョイスしたもの。では、観客の支持が高かった作品は? 世界最大級のオンライン・データベース『IMDb』のユーザーの人気映画ベスト10も発表されているので、見てみよう。


  1. Superman_スーパーマン
  2. Weapons_ウェポンズ
  3. Sinners_罪人たち
  4. One Battle After Another_ワン・バトル・アフター・アナザー
  5. Jurassic World: Rebirth_ジュラシック・ワールド 復活の大地
  6. Frankenstein_フランケンシュタイン
  7. Happy Gilmore 2_俺は飛ばし屋/プロゴルファー・ギル2
  8. Thunderbolts*_サンダーボルツ*
  9. Mission: Impossible - The Final Reckoning_ミッション:インポシブル/ファイナル・レコニング
  10. F1_F1/エフワン


日本でも公開済みの娯楽作がズラリ(7位はネトフリで公開)。清々しい。58位の4本は観てないけど、うなずけるセレクトですなー。


しかし、こうやって批評家と一般オーディエンスの評価を並べてみても、やはり『ワン・バトル・アフター・アナザー』と『罪人たち』の評価の高さが際立ちます。劇場で見逃した方は、配信でぜひ!



12月の獲れ高】


では、12月のおさらいを。期待度と獲れ高は5点満点/ネタバレあり!


1本目

WEAPONS ウェポンズ

公式サイト:https://www.warnerbros.co.jp/movie/c8r-63sq936/

20251130日(土)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13

事前期待度 ★★★1/2

獲れ高   ★★★★


「ジャスティン先生のクラスだけ、子供が17人も失踪するって、どーゆーことよ?! わけわからんわ!!」と父兄が激昂する気持ちもよくわかる。


だって、映画観終わっても、わけわからんし、しかも、映画としてはすこぶるおもしろいし。





子供たちの失踪を発端に、スクリーンには登場人物の置かれたシチュエーションが数珠繋ぎで映し出されていく。小学校教師ジャスティン、さえない警察官のポール、消えた子の一人の父であるアーチャー、ホームレスでヤク中のジェームスにフォーカスが当たるわけだけど、田舎町で暮らすポンコツな人々の横顔が見えてくるだけで、失踪の謎にはまったく迫ることはない。


このへんの焦らし方が絶妙。


しかし、見るからにヤバいグラディスばちゃんが登場すると、物語は一気にドライヴがかかり、畳み掛けるように状況は変わっていく。しかし、それでも、グラディスばちゃんが何者なのかは最後までわからない。わからなくても、映画はおもしろいので、途中からどうでもよくなっていく。


アメリカ本国で考察合戦を巻き起こしたのは、まさにこのわけのわからなさゆえだろう。提起された考察は多岐にわたる。「グラディスばあちゃんは何者なのか?」「その目的は?」「映画タイトルの意味は?」「途中で空に浮かび上がるライフルの意味は?」「失踪する子供たちのポーズはベトナム戦争の写真にインスパイアされたのでは?」「子供たちの運命は徴兵制のアナロジーか?」などなど。


個人的には、グラディスばあちゃんの所業から、昨今のSNSを連想した。SNS上でインフルエンサーが誰かを誹謗中傷すると、それを盲信した信者たちがターゲットに群がって暴言を投げつけるという状況。いえわゆる犬笛ってやつ。ここで言うインフルエンサーがグラディスばあちゃんで信者が子供たちだ。


もう一つ気づかされるのが、コミュニケーションがいつも一方通行だということ。校長先生とその恋人でさえ思惑はすれ違い、それが惨劇を呼ぶ。極め付けが物語の結末だ。心が通わない親と子。それでも子は親を、親は子を抱きしめる。


人間性とはなんぞやと問いかけたくなるラストなのだった。


観終わった後、心に浮かぶことは人によってさまざまだろう。でも、そんな「考察」を呼ぶ重層的な構造以前に、映画としてのおもしろさが突出していることが重要。


クライマックスの爆発的なわちゃわちゃ感と不思議な爽快感は、映画でしか体験することができない。思わず笑いが出た。映画史に残るシークエンスだと思う。


ホラー映画の枠を超えた、期待以上の傑作でした。



2本目

みんなおしゃべり!

公式サイト:https://minna-oshaberi.com

20251221日(日)KBCシネマ

事前期待度 ★★★★

獲れ高   ★★★1/2


「ある小さな町で、ろう者とクルド人が反目し合うという。果たして、両者は理解し合えるのか?」というプロットは、下手するとポリコレ色が強く出て、説教くさくなりそうだけど、心配ご無用。良質なコメディでした。





ろう者の電器屋のおじさんと、ケバブ屋のクルド人の親父さん。対立の中心軸はこの二人。電器屋のおじさんは手話にこだわっているし、クルド人のおじさんは、クルド人なのにトルコ語を話す若手をなじる。一つの「言語」にこだわっているというのが二人の共通点だ。


彼らの争いを見ていると、言語があること自体がコミュニケーションの妨げになっているのではないかとも思えてくる。聴者も含め、共通の言語を持ち得なければ互いを理解することができないのだとしたら、自分が属するコミュニティに閉じこもるしか、登場人物たちに残された道はない。


この前提を軽々と飛び越えてしまうのが、電器屋の息子の駿だ。


小学生の彼は、難聴特別支援学級に通っている。クラスの子たちの難聴具合は一様ではなく、駿はまったく聴こえないみたいなんだけど、大多数の子は人工内耳を付ければ聴こえる。だから、手話ではなく言葉でコミュニケーションをとることが普通。駿と同じく聴こえない子たちとの間には分断がある。


そこで駿が取った行動がすごい。彼は、父親のように「聴こえる」子たちに怒りをぶつけることはない。代わりに、手話からも言葉からも自由になるため、オリジナル言語を編み出し2つのグループの共通言語にすることによって、両者の間に橋を架ける。


しかし、まぁ、大人の世界はそううまくはいかないわけで、駿の行動がさらにろう者とクルド人の溝を広げる結果になってしまう。最終的には、垢のように心にこびりついた他者への偏見やレッテルを剥がすことによって両者は歩み寄る。駿が編み出したような「共通言語」だけが解決策ではなかった。


他者との差異ではなく、共通点を見つけることが大事。そして、オープンマインドであること。


それを象徴するのが、電器屋のおじさんと言葉が不明瞭なおじいさんのやり取りだ。完全にノンバーバルなんだけど、ちゃんとコミュニケーションが成立する。加えて、ラストの大団円。「飛躍しすぎだろ!」と思わず笑ってしまったけど、「みんな仲良くなってチャンチャン」という、ありきたりな結末じゃないのがよかった。


惜しむらくは、電器屋の家族3人に共通する喪失感がうまく描けていなかったことかな。電器屋のおっちゃんにとっての妻、子どもたちにとっての母を亡くしたことは、すんなり受け入れるにはあまりに大きな出来事だった。それは、おっちゃんが時折見せる焦燥感や、駿のオリジナル言語に秘められた思い出、娘・夏海の「わたしはこの3年間、ずっと夢の中にいるみたいだった」というセリフから読み取れるのだけど、いかんせん中途半端で、映画の大きな流れの中に埋没してしまった感じ。


あと、夏海とクルド人の息子、ヒワの都会への逃避行はこそばゆい感じ。しかも、長い。映画のテンポがここで滞ってしまった気がする。


役者については、電器屋のおっちゃん役の毛塚和義に尽きる。その表情の豊かさは演技初経験とは思えない。本職は西日暮里のラーメン屋の店主だとは聞いていたけど、公式サイトによると、過去にろう者によるプロレス団体を立ち上げて、世界を回っていたそうな。なるほど。ただモノじゃなかった。



1月はこの映画に賭ける!】

公開日は福岡県基準です。


まずは、12月に積み残した作品から。あの喜劇王の真実を描いたドキュメンタリー。 


⚫︎ チャップリン

監督はチャップリンの孫。実は、チャップリンは自分の出自である「ロマ(ジプシー)」にすごくこだわっていたそうな。数々の作品に見られるロマ文化の影響を紐解くとともに、チャップリンの一生を辿る。20251226日(金)公開


年明けは目玉作品が見当たらず。1月は毎年こんな感じだった気がしくもない。東京では1月公開の単館系作品がなかなか福岡には降りてこない。スクリーンが少ないから仕方ないけど。


まずは、ジェイソン・ステイサム主演のアクション映画からチェックしてみよう。


⚫︎ ワーキングマン

そう言えば、ステイサムの前作『ビーキーパー』も正月公開だった。監督も同作を手がけたデビッド・エアー。主人公は元特殊部隊隊員ですって。映画の中身はだいたい想像がつくけど、いろんな意味でおめでたそうでいいかも。202612日(金)公開。


2025年に公開された『28年後』の続編が早くも登場。


⚫︎ 28年後... 白骨の神

2002年公開の『28日後』に始まるサバイバル・シリーズの4作目に当たる。3作目の『28年後』は完全シカトしていましたが、意外に評価が高くシリーズ史上最大のヒットに。観とけばよかった・・・・・・。2026116日(金)公開。


上記『28』シリーズの脚本を手掛けているアレックス・ガーランドの監督作もお目見え。


⚫︎ ウォーフェア 戦地最前線

監督の前作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』同様、今作も戦場が舞台。イラク戦争の最前線に投げ出された兵士たちの運命はいかに!・・・・・・てな感じか。作品のルックは、ほぼ戦場ドキュメンタリーという噂。2026116日(金)公開。


タイトルからしてヤバめなゴシック・ボディ・ホラーは、内容もグロいそうです。


⚫︎ アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし

物語のモチーフは『シンデレラ』。主人公は醜くて性格の悪い、シンデレラの義姉妹だ。彼女は王子様を射止めるために、肉体改造をはかる。おそらく痛い描写が続出でしょう。予告を観ただけでもゾワゾワする。2026116日(金)公開。


新年は酒量を減らそうと誓っているワタクシに刺さる作品を発見しました。


⚫︎ おくびょう鳥が歌うほうへ

シアーシャ・ローナン演じる主人公は、故郷であるスコットランドの島に帰還し、アルコール依存から抜け出そうとする。断酒に踏み切ったものの、その内面は混沌としていたという内容。他人事じゃない感。202619日(金)公開。


ジョニー・デップ30年ぶりの監督作は、波瀾万丈な人生を送った芸術家の肖像。


⚫︎ モディリアーニ!

才能を認められないので、画家の看板を下ろしてパリを去ろうとしていたモディリアーニの人生を変えた72時間の出来事を描く。おもしろそうだんだけど、本国アメリカではメタメタにこき下ろされている模様。2026116日(金)公開。


ほんわかしたタイトルだけど、コーエン兄弟ばりのクライム・サスペンスという気になる一作も。


⚫︎ 世界一不運なお針子の人生最悪な1

舞台はスイスの田舎町。犯罪に巻き込まれたお針子の女性が運命を切り拓いていくという、まったく先が読めないプロット。予告編を観ると、キャッチ・コピー通り「針と糸」だけで犯罪者に立ち向かうみたい。202612日(金)公開。


過去2年、新春は韓国コメディが定番だったけど、今年はクライム・サスペンスがノミネート。


⚫︎ PROJECT Y

韓国の首都ソウルを舞台に、女性2人が社会の底辺から這い上がるために犯罪に手を染める。ウォン・カーウァイやクエンティン・タランティーノの影響もあるとかないとか。予告編を観た限りではそんな感じでもない。2026123日(金)公開。


今月はアタマとオシリがドキュメンタリー。こちらは、ロックン・ロールのオリジネイターの一人が主役です。


⚫︎ チャック・ベリー ブラウン・アイド・ハンサム・マン

元はテレビ用。だから上映時間が55分なのね。玉はビートルズやローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリクス、ブルース・スプリングスティーンらが、チャックのナンバーをカヴァーしている映像。目玉か??? 2026116日(金)公開。


スティーブン・キング原作、エドガー・ライト監督、グレン・パウエル主演の注目作(でもアメリカではコケた)『ランニング・マン』は、130日公開なので2月に回します。



1月の2本★ 期待度は5点満点


決めましたが、決め手なし。無理矢理選んだ感がは拭えませんが・・・・・・。


戦争には絶対行きたくないので、あえて観る!

ウォーフェア 戦地最前線

期待度 ★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 92% 観客 93%

20260116日(金)公開

2025年製作/アメリカ映画/上映時間95

監督:アレックス・ガーランド、レイ・メンドーサ

出演: ディファラオ・ウン=ア=タイ、ウィル・ポールター ほか

公式サイト:https://a24jp.com/films/warfare/




3年後の断酒を目指しているので参考に。

おくびょう鳥が歌うほうへ

期待度 ★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 82% 観客 82%

20260109日(金)公開

2024年製作/イギリス・ドイツ合作映画/上映時間118

監督:ノラ・フィングシャイト

出演: シアーシャ・ローナン、パーパ・エッシードゥ ほか

公式サイト:https://www.outrun2026.com




吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!


第34回 2025年11月 『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』『旅と日々』

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。