文化CULTURE

その映画、星いくつ? 第37回 2026年2月 『ランニング・マン』『ブゴニア』

「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。


今年もオスカーの季節がやって来ました。第98回アカデミー賞は日本時間316日に発表の予定。


アメリカでは、その前哨戦と言われる映画賞がいくつかあるけど、PGA(全米プロデューサー組合賞)、DGA(全米監督組合賞)、ニューヨーク映画批評家協会賞 (NYFCC) 、ロサンゼルス映画批評家協会賞 (LAFCA) 、全米映画批評家協会賞 (NSFC)、ナショナル・ボード・オブ・レビュー (NBR)、英国アカデミー賞(BAFTA)における作品賞は、ポール・トーマス・アンダーソン監督『ワン・バトル・アフター・アナザー』がスイープ。


オスカーもこの作品で決まりかと思いきや、ライアン・クーグラー監督『罪人たち』がアカデミー賞では史上最多の16部門ノミネートを達成。一躍、作品賞受賞候補筆頭に躍り出た。





この作品以前のノミネート最多記録は、『ラ・ラ・ランド』(2017年)、『タイタニック』(1998年)、『イヴの総て』(1951年)の3本が樹立した14ノミネート。


ちなみにデイミアン・チャゼル監督『ラ・ラ・ランド』は、監督賞、主演女優賞をはじめ6部門で受賞しながらも作品賞は逃している。こういう例もあるし、個人的には『ワン・バトル~』の作品賞は堅いと思っているんだけど、映画の総合サイト『eiga.com』は『罪人たち』を最有力候補としてプッシュしとる。


いずれにせよ、『ワン・バトル~』『罪人たち』のどっちかに作品賞は行くというのが大方の見方・・・・・・なんだけど、ダークホースとして注目したいのが『センチメンタル・バリュー』だ。ヨアキム・トリアー監督のこのノルウェイ映画は、第78回カンヌ国際映画祭ではグランプリを獲得している(その上にパルムドール=最高賞があるんですけどね)。





予告編観るとなんだか地味な印象。しかし、実はかなり深いテーマを扱っているし、映画としての完成度がすこぶる高い。


なんで、ワタクシにそんなことがわかるのかと言うと、「2月の2本」から外したにも関わらず、公開日の翌日には劇場へ観に行ったからです。「月に2本」の枠とか言いながら、久しぶりにチートをかましてしまいました。いや、これが期待以上の傑作で本当に観に行ってよかったと思いましたよ! すみません!! 


しかし、不思議なもので、愛着という点で言うと、『センチメンタル・バリュー』よりも『ワン・バトル~』なんだなぁ。あと、いまの時代にリンクしているかというと、『センチメンタル・バリュー』は普遍的なテーマを扱っている分、『ワン・バトル~』ほど、グッと刺さる感じはない。


ということで、『センチメンタル・バリュー』も『罪人たち』もすごい映画だけど、今年のアカデミー賞作品賞は『ワン・バトル・アフター・アナザー』でお願いします!!






2月の獲れ高】


では、2月のおさらいを。監督の名前で選んだことが裏目に出た月でした(ガックシ)。期待度と獲れ高は5点満点/ネタバレあり!


1本目

ランニング・マン

公式サイト:https://the-runningman-movie.jp

20250131日(土)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13

期待度 ★★★1/2

獲れ高 ★★★


テック・ファシズム全盛の時代に、テレビのネットワークが国を支配しているという設定は、なんだか古臭く感じてしまう。


人間そのものを消費するテレビのリアリティ・ショウに、やむを得ない理由から参加した主人公、ベン・リチャーズ(演:グレン・パウエル)が、途中からショウの欺瞞に気付き、「こんなインチキ番組ぶっ潰す」と闘いを挑もうとするわけだけど、プロデューサーを殺して番組を潰しても、不条理なシステムは変わらない。


「ランニング・マン」というショウが、管理社会や経済格差から目を逸らすための「サーカス」だったように、この映画も所詮はガス抜きじゃないかなんて疑念が頭をもたげる。


メディアは嘘をつく/メディアは真実を隠蔽する/メディアは大衆をコントロールしようとする/メディアは権力に忖度する


そんなことは、とっくに知ってる。いま問題なのは、権力の思惑通りにまんまと「サーカス」に熱狂し、「あいつよりはオレの方がマシ」と弱者を見下し、権力と一体化することでしか自己を肯定できない「普通の」市民の存在。


「おめえら富裕層ってわけでもないのに、権力に尻尾振って、肉屋を応援する豚じゃねーか(怒)」なんてことを、リチャーズがテレビの前の市民に対してぶつける場面がある。でも、彼の言葉は、メディアに検閲され市民には届いていない。それなのに、いつしか市民はリチャーズを崇めるようになる。なぜか?


それは市民が、リチャーズの言葉ではなく、テレビを通して観る彼の奮闘ぶりに「スカッ」としたから。それがリチャードの実像を正しく反映しているものでなくても気にしない。


トランプ大統領に一票を投じた人たちと同じ。日本の、威勢だけはいいけど中身が空っぽの現総理大臣を支持している人たちと同じ。情緒的にしか反応できないので、権力が本当に自分たち側に立っているかも判断できない。


結局のところ、テレビ番組をぶっ潰したところで、市民が変わらなければ、システムの根本は温存されたままなのだ。だから、この映画がハッピーエンドだとは思えなかった。


映画として、特筆すべきアクションもないし、目を引くキャラクターもいないところが残念。終盤登場する金持ちの女の子は必要だったかな??? マイケル・セラには期待してたんだけど、イカれたおばあちゃんに食われてしまった。『ホーム・アローン』的展開は楽しかったけど。


エドガー・ライト監督には合わない題材だったかもしれませんね。



2本目

ブゴニア

公式サイト:https://gaga.ne.jp/bugonia/

20250214日(土)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13

事前期待度 ★★★★

獲れ高   ★★★1/2


『ワン・バトル~』『罪人たち』と並んでアカデミー賞作品賞にノミネートされてるということで、かなり期待値を高くして臨んだ一作だったんだけど、正直言って肩透かしを食らったような気分。


エマ・ストーン演じる製薬会社のCEOが、ジェシー・プレモンス演じる陰謀論に侵された男に誘拐され、「テメェ、本当は宇宙人だろ。白状しやがれ」と脅されるというお話。


陰謀論が噛んでいるのがイマっぽいけど、陰謀論に限らず、狂信者ってのは手に負えないわけで、「いまのアメリカの状況を告発する!」ってわけではない。韓国映画のリメイクってのも一因だろうけども。


ついつい、「”死”だけは、すべての人に平等に訪れるのだなぁ」とか、「テック富豪どもは宇宙人みたいなもの」だとか、「陰謀論者にだけ見えている真実があるのだ」とか、そんな切り口でこの映画を読み解きたくなるところだけど、あんま意味ないんじゃないかな。


ヨルゴス・ランティモス監督の前作『憐れみの3章』同様、藤子不二雄のブラックな短編マンガみたいだし、サラッと観て「こわっ」ってつぶやくくらいがいいんじゃないだろうか。


要するに、想定以上のものは観られなかったということです。おもしろくないわけではないし、ランティモス監督の映画って、画がビシッと決まるので、映画を観る悦びは間違いなくあるんだけど、劇場を出るとき、心に残ったものがあったかと言われると「ない」。


とは言え、エマ・ストーンとジェシー・プレモンスの演技合戦はなかなか魅せる。エマ演じるミシェルは冒頭のシーンからなんだか人間離れしていて、エイリアンだと思われても仕方ない気が。ジェシー演じるテディは、最初はナイスな感じなのに、一皮剥けると完璧にカルトに囚われているのが怖い。


「宇宙人が地球を支配している」という陰謀論を間に挟んでこの2人が対峙するわけだけど、まぁ、噛み合わない。そのすれ違いが緊張感を高め、そして、それがオチのインパクトも高めるという効果も。だから観ている間は楽しい。


しかし、作品全体を振り返ると、結局のところランティモスがこの映画をつくったのは、オチの後のシークエンスを撮りたかったからじゃないだろうか。時が止まった静謐な世界。物語は、この世界にたどり着くための前振りに過ぎないように思える。


あまりに厭世的。でも、美しい。それって、あまりにランティモス的。だから、ランティモス監督ファン以外にはオススメしにくいのだなぁ。



+ Cheat

センチメンタル・バリュー

公式サイト:https://gaga.ne.jp/sentvalue_NOROSHI/

20250221日(土)KBC シネマ

獲れ高   ★★★★1/2


魂の「居場所」についての映画。映画の背景にあるものがスクリーンに映る出来事よりも重く、真実に近いという構造にしびれた。父娘が最終的に心を通わせることができたのかはわからないけど、少なくとも生きていける。だからハッピー・エンド。



3月はこの映画に賭ける!】


1月に公開されてそこそこヒットした『MERCY マーシー AI裁判』『HELP 復讐島』、26日公開のボディ・ホラーの最新モード『トゥゲザー』の3本は完全にノーマークでした。すみません。今後はより緻密に情報を集めます・・・・・・つっても、ピックアップするのは、結局10本までなんですけどね。 


公開日は福岡県基準です。


2月に積み残した作品からいきましょう。1本目は日本が舞台のハリウッド映画。監督も日本人。


⚫︎ レンタル・ファミリー

落ちぶれたアメリカ人俳優が、レンタル家族のビジネスをきっかけに、自分自身を見つめるというお話。主演は、オスカー俳優、ブレンダン・フレイザー。監督のHIKARIが日本人ということもあり、ルックはまんま日本映画らしいけど、本国アメリカでは高評価を獲得した。227日(金)公開。


もう一本は、タイトルは知っているけど読んだことのない文芸大作の映画化。


⚫︎ 嵐が丘

エミリー・ブロンテの名作をマーゴット・ロビー主演で映画化。よう知らんのですが、原作はメロドラマですよね。予告編を観ると、かなり重厚な画づくりで、いかにも文芸大作!って感じ。どう考えても候補には入らないんだけど、チャーリー・XCXが音楽を担当しているってのが引っかかる。227日(金)公開。





3月公開作では、まずは、この大作。マストで観るべし・・・・・・と思っていたけど。


⚫︎ ウィキッド 永遠の約束

2024年公開のヒット作『ウィキッド ふたりの魔女』の続編。『オズの魔法使い』の主人公、ドロシーが物語に深く絡んできそう。前作は評論家からも高く評価されていたけど、今作はRotten Tomatoesでの支持率66%とイマイチ。それでも、シンシア・エリボとアリアナ・ グランデの歌唱は、劇場で体験したいところ。36日(金)公開。


ベストセラーSFを映像化した超大作は日米同時公開。


⚫︎ プロジェクト・ヘイル・メアリー

半年でミリオンセラーを記録したSF小説が原作。ライアン・ゴズリングが演じるのは、科学者のキャリアからドロップアウトした数学教師だで、彼が異星人とのコミュニケーションに成功し、地球を救うという、めっちゃスケールの大きい筋立て。予告編観るに、異星人の造形が安っぽい? 320日(金)公開。


98回アカデミー賞に計9部門ノミネートされた話題作もお目見え。


⚫︎ マーティ・シュプリーム 世界をつかめ

ティモシー・シャラメが卓球で世界を変えようと奮闘する・・・・・・というか、その前提として、世界選手権出場のための資金集めに奔走する主人公を演じる。ティモシーはこの映画のために7年間卓球の練習を積んだとか。彼のライヴァルとなる日本人の卓球選手も登場。いずれも実在する人物だというのがおもしろい。313日(金)公開。


同じく第98回アカデミー賞で、イーサン・ホークが主演男優賞に名を連ねたのはこの作品。


⚫︎ ブルームーン

イーサン・ホークが演じるは、ブロードウェイの伝説的な作詞家、ロレンツ・ハート。彼が参加したパーティでの一夜の出来事を描く会話劇とのこと。アカデミー賞ではオリジナル脚本賞にもノミネートされているので、地味そうだけど観る価値はありそう。監督はリチャード・リンクレイター。36日(金)公開。


こちらは、アカデミー賞ノミネートは逃したものの、2025年のベストの一本にも挙げられた韓国映画。


⚫︎ しあわせな選択

『オールド・ボーイ』『別れる決心』の名匠、パク・チャヌの新作にイ・ビョンホンが主演。しがないサラリーマンが仕事を失ったことから、徐々に常軌を逸していく様子を描く。ドナルド・E・ウェストレイクが書いた原作小説『斧』は、マンガみたいな内容だった記憶。どう料理されているのか。36日(金)公開。


マンガと言えば、根強い人気を誇るアメコミが5度目の映画化。


⚫︎ ザ・クロウ

最初の映画化作品『クロウ / 飛翔伝説』が主演のブランドン・リー(ブルース・リーの息子)の悲劇的な死によってカルトの殿堂入り。その後つくられた作品はことごとく失敗作の烙印を押されている。今回も微妙だけど、FKAツイッグスがヒロイン役を務めると聞いて、俄然興味が湧いたのでした。36日(金)公開。


ディズニー&ピクサーの新作長編は、ぶっ飛んだ設定。


⚫︎ 私がビーバーになる時

主人公は、ビーバー型ロボットに意識を転送して動物界に潜り込んだ女子大生。動物たちが計画する陰謀に戦慄するというストーリー。うむ。よくわかりません。キャストにメリル・ストリープがクレジットされているけど、主演の女子大生役ってわけじゃないよね? いろいろと謎が多い。313日(金)公開。


最後に音楽ネタを。舞台は1974年。内容はタイトルのまんま。


⚫︎ エリス&トム ボサノヴァ名盤誕生秘話

アルバム『Elis and Tom』のAppleMusicのレヴューには「終始リラックスかつピースフルな雰囲気」なんて書いてるけど、実際は、エリス・レジーナとアントニオ・カルロス・ジョビン(トム)はかなりギスギスしていたと。名盤制作の暗黒面を描いた一編なのかな。 36日(金)公開。






227日(金)公開の「黒の牛」(監督:蔦哲一朗)は禅の思想を映画で表現していると評判。映画館で観たいけど、残念ながらリスト落ち。


3月の2本★ 期待度は5点満点


決めました。


どんな映画なんだかつかめんけど、「サイテー男」なシャラメを観たい!

マーティ・シュプリーム 世界をつかめ

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 94% 観客 82%

20260313日(金)公開

2025年製作/アメリカ映画/上映時間149

監督:ジョシュ・サフディ

出演: ティモシー・シャラメ、タイラー・オコンマ(タイラー・ザ・クリエイター) ほか

公式サイト:https://happinet-phantom.com/martysupreme/




支持率の高さに見合うクオリティでありますように

しあわせな選択

期待度 ★★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 97% 観客 93%

20260306日(金)公開

2025年製作/韓国映画/上映時間139

監督:パク・チャヌク

出演: イ・ビョンホン、ソン・イェジン ほか

公式サイト:https://nootherchoice.jp





今回はもう1本、Cheat枠をプラス。2か月連続で申し訳ありません! 

<<言い訳>> 前作も観ているので、スルーできず!!! 


+ Cheat

ウィキッド 永遠の約束

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 66% 観客 93%

20260306日(金)公開

2025年製作/アメリカ映画/上映時間137

監督:ジョン・M・チュウ

出演: シンシア・エリボ、アリアナ・ グラン ほか

公式サイト:https://wicked-movie.jp




吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!


第36回 2026年1月 『ウォーフェア 戦地最前線』『おくびょう鳥が歌うほうへ』

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。