Bigmouth WEB MAGAZINE

対談INTERVIEW

【好きを仕事にしたひと vol.1 松本康 -後編-】

【好きを仕事にしたひと vol.1 松本康 -後編-】

【好きを仕事にしたひと vol.1 松本康 -後編-】

あのとき違う道を選んでいたら。

もしもこの仕事を選ばなかったら。

「好き」を仕事にしたひと、「好き」は好きのままで別の道を選んだひと。それぞれの生き方を深掘りする連載インタビュー。

初回は、福岡でレコード店を40年以上続ける松本康(まつもと・こう)さん。音楽の師として慕われ、周囲にはいつも音楽を愛する人たちが集う。(聞き手:古林咲子@JUKE JOINT)

生まれ変るなら、もう一回音楽をちゃんと聴き直したい。

-現在の障壁は?

もっとやりにくいのはレコードのディーラー、仕入れ元がみんな辞めたこと。メーカーがあったら、ディストリビュータっちゅうて卸屋みたいのがあったけど今はもう、アマゾンとお客さんしからおらんやん。レコード屋も問屋ももちろんいらんくなっとる。メーカー、アマゾン、お客。やけん、すごい、あの、片手をもがれたような感じやね。

-それでも辞めなかった?

自分としては他の仕事をする気もないし、できないし。あと5年くらいはこのままでもやっていけそうな気がするけん、やりたいなあっちゅう。ひとつ言えるのがね、聴きたい音楽がなくなったっていうのがないわけ。まだまだあるわけ。iTunesに落としてまだ聴いてないのもあるし、ブラジルで新しいのが出てきたら聴いてみたいとか。やけん、もう一度生まれ変るなら、もう一回音楽をちゃんと聴き直したい。

-聴き直すというと。

いっぱい聴いてきたつもりやけど、つまみ食いしかしてないねっちゅう気がするったい。あるいは、もうちょっとちゃんとね、しっかりと。クラシックとかも聴いとけばよかったなって思うしね。ジャズの有名なひとは聴いときたかったなって。


今はもう時間が残されてないけん、好きなんとだけしか聴かんとよ。好きなのでもまだ足りんくらい。その気持ちがなくなったら毎日、仕事行くのも辛いし、売上げのことしか考えんごとなるけど、それがあるけん、まあ楽しいっちゃん。

-これからもずっと続けていく?

この店も波があって、多いときもあれば少ないときもある。何かしら人と出合ったりするし、なくすのはもったいないなって思って。みんなが集まってさ、そんな場所がなければ家でYouTube見とけば良いってなるやん。

-音楽を一緒に聴く場はやっぱり必要?

いい音楽がかかるけん気持ちいいと思うったい。でも気になる人はDJブースまで行って「今何がかかりよると?」って自分から動くっていうのがすごく大事よね。そういう場所にしたい。


やっぱり一人でヘッドフォンで聴くよりかは、こうやって空気を揺らして聴くとか。会話しよるわけじゃないっちゃけど、隣の人がしんみり聴きよるとかいう状況があったら、それはそれでいいじゃない。

-そんな場所を残したい。

昔はね、アルバム単位で音楽を聴くっていうのがあったけど、今は一曲だけ気に入ればそれでいいし、ダウンロードして聴いて、そのアーティストを分かったってなるけど、ミュージシャンがおったらその人の隣っちゅうのがおるわけね。たとえば、その人がニューオリンズの出身やったら、ニューオリンズっていうところは音楽の宝庫なんよ。その宝庫まで行けたらまたすごい楽しいわけ。

-一つの曲から派生していく。

アラン・トゥーサンがかっこいいなって思って、どこの人かいなって調べたらニューオリンズ出身でこういうことをしたひと、だからその人がプロデュースしたのを聴いてみようってなるわけたい。新しく知った人の周りを見たら、周りにまた違う音楽がある。


今度はカリブ海の音楽の要素が入っとるってなったら、カリブ海ってどういうもんやろかって聴いてみようって。そんな芋づる式の聴き方をしよった。これは一曲だけダウンロードしたんじゃ、できんわけよ。やけん少なくともアルバム単位で聴かな。JUKE RECORDはね、レコードを置いとったらその周りもあなたが好きなのがあるはずたい。そこに行くか行かんかなんよ。

-レコードを買う人口は減った?

うーん、やっぱり若い子は物を買わないよね。携帯代で一万円払うのはいいけど、CDに1000円は高い。うちなんか値段設定が900円とか700円とか500円とか。半額コーナーにしていいのがあったって売れない。


ましてや100円コーナーでも。私らが若い頃やったら100円やったら100本買ったって10000円じゃんと思って一箱全部くださいよって思うけど、そういう風にはならない。それはそれでいいんだけどね。ものは一番ではないけんね。いいんだけど。

-聴く人の価値観が変わっているのは寂しい?

二極化っちゅうか、ダウンロードとか自分でこもってITuneとかで聴くっていうのと、音楽どうでもいいけんライブで楽しもうっていう。両方しかない。中堅ちゅう言い方はおかしいけど、世の中に金持ちか貧乏しかおらんみたいなのは中間層がおらんやない。


中間層が豊かなら社会は豊か、っていう。音楽も同じで、ミュージシャンがバカ売れするのか自分で手売りで100本、200本売って満足する人たちみたいなのがおって確実に5万、10万売れるような内容があるミュージシャンがおると充実すると思うったい。

-音楽を取り巻く環境をもっと面白くしたい?

プロデュースした時代もあるとたい。1980年と1986年に、アクデンツとアンツっていう。したいけんっていうのと、状況を変えたいっていう気持ちもあったわけよ。当時はレコーディングスタジオもないし、レコードをプレスするというのも一般的じゃないし。どうしていいやら分からんみたいなときにみんな手探りで一緒にしようとかね、するわけよ。やけん、ないものはつくろうという感じよね。何事も。

-ないものはつくる。

レコード屋もそう。自分が思うレコード屋がないけんつくろう。自分が思うロックバーがないならつくろう。レコードも、プロデュースしてつくろう。コンサートも自分たちが思うようなやつをつくろう。その気持ちは変わらん。ただ今は体力的に・・・・・・。


だけんそれを誰かが受け継いでくれてね、してくれたら嬉しいし。そのノウハウっちゅうか、気持ちの部分は伝えられるじゃん。儲かるとか、金があるけんしようかっていう以前に動機が先なんよ。衝動っちゅうかさ。何したいかが先で、結果はあとで考える。

-何でも自由にできるとしたら次は何をつくりたい?

レコードやね。プロデュースしたいね、アルバムをね。アナログじゃなくてもCDでもいいわけよ。自分で納得のいく「どうじゃこれは」みたいのをつくる。自分は演奏ができんけんさ、プロデューサーとしてね。その自信はある。2年前まではあったけど、いまは病気がちやけんさ。でも、気持ちだけは持っとるっちゃん。

-どんな音楽を?

やっぱロックやろうね。

-ロックバンドをプロデュ-スしたい?

そのバンドが存在感があるかどうかなんよ。自分のものを持っとるっちゅうかね。それを見極めるのがプロデューサーなんよ。彼らに秘めた力があるならそれを引き出さないかんし、いいとこを見いだしてそれを拡大していくというかね。


自分が演奏するわけじゃないけん、ある意味、意地悪なダメだしをしてね。「もうちょっといけるっちゃないと」「そんなもんじゃないやろ」って辛抱強く引き出す。そのためには体力もお金もいるわけよ。それがなかなかそろわん。

-やりたいけど条件がそろわない。

自分自身では体力が続かんかもしれんけん、若手がねやりたいというならその手伝いはできる。でもそれはあくまでもアドバイスであってプロデューサーがバンドと話してつくるもので、それはお客どうのこうの関係なしにさ、自分たちがまずつくって後でお客がついてくるっていうのが理想やん。


お客の顔が見えて、彼らが喜ぶけんこういう音楽をしようっていうのはウソじゃん。ね? アルバムって言うのは一生もんやけん自分の人生の代表作をつくるって考えたらやっぱりね、大変なんよ。大変やし、妥協したらいかん。一生懸命つくればそれが残るんよ。

-ニーズがあるからつくる、ではない。

逆やもん。お客さんっていうのはね、結局逃げていくっていうか去っていくやん。そしたら取り残された自分は何だったんだってなるじゃん。つくったものが妥協の産物やったらあれやし、本当に自分がやりたかったこと、自分のそこに至るまでの人生とかいろんな積み重ねの中でこれがしたいっていうのが出てきて、何人かのメンバーが一緒になって化学変化が起こったとしたら、そのときにしかできんことやし、それは残るじゃん。そういうのをつくらないかん。そういうのをつくる手伝いをしたい。

-ご自身は思い描いた通りのお店をつくれましたか。

うん、JUKE RECORDはできたね。JUKE JOINTはね、発展途上っていうかね、器が大きいけんさ、まだまだできるのもあるし、なかなかできないねっていういのもあるし、もどかしいよね。


親不孝な子どもでさ。でも、親不孝な子どもほど可愛かったりするじゃん。なかなか親の言う通りなってくれん。JUKE RECORDは手名付けられたっちゅうか、いいこに育ってくれたかな。長男として(笑)次男はなかなか手強いよね。

-その分、のびしろがある?

それはあるよ。自分がしたことが必ずしもいいとは言えないんだけど、松本に影響を受けたと言ってくれる人はいる。それがつながるといいよね。たとえば音楽にからめた英語の塾をするとか、古本市をここでするとかさ。音楽好きがするフリーマーケットみたいなのがあってもいいんじゃない。一日店長をして料理をして食べてもらって、独立採算でその日は場所を貸すみたいな感じで。人に呼びかけて10人でも20人でもここに集まって、楽しい夜を過ごしてもらったらね。

-使う人次第である、と。

ここは化けるけんさ。あそこはああいう店だと決めつけてほしくないっていうのはあるよね。自分の中のアイデアとかイメージはまだまだ枯れていないつもりで、ただ口に出したけんって噛み合わないっちゅうか。それが親不孝息子というかね。自分もなりゆきに任せようって気持ちがあったけど、最近は働きかけないかんね。今年で69歳、ロックの年やけんがんばらないかんね。


(2018年11月 JUKEJOINTにて)

古林咲子
古林咲子

古林咲子 SAKIKO KOBAYASHI

古林咲子
インタビュアー、ライター。俳優、経営者、アーティスト、職人、子どもなどあらゆるジャンルの人に話を聞き、取材人数は1000人以上。「好きを仕事にしたひと。好きを仕事にしなかったひと」をテーマとしたインタビューをライフワークにしている。