文化CULTURE
長谷川和芳 | その映画、星いくつ?第3回 2023年4月 『生きる LIVING』『聖地には蜘蛛が巣を張る』
「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。
例年、3月から4月にかけては毎週花見で忙しい。今年は開花が早かったので、ソロ活動も含め5回花見を敢行。インスタにアップし続けていたら、千葉に住む娘から「さくらおじさん」の称号をもらった。
あと、4月某日は家人の誕生日。3月に京都・東山のギャラリーでプレゼントを買い、バレないように自分の部屋に隠し持って、誕生日当日、食事に出かけたレストランで無事に渡した。50歳を過ぎると、さすがに自分の誕生日はどうでもいいけど、なにかお祝いすることがあるっていうのは、いいもんですなぁ。家人の誕生日は祝う方自分も楽しい。来年もがんばろう。
そんなこんなで忙しく、映画は後回しになりがちだったけど、鑑賞予定だった2本はしっかり観てきた。今月は地味なセレクトだが、それぞれ味わい深い作品であった。
【4月の獲れ高】★★★★★★★
では、4月のおさらいを。
1本目
生きる LIVING
公式サイト:https://ikiru-living-movie.jp
2023年4月1日(土)T・ジョイ博多
事前期待度 ★★★★
獲れ高 ★★★1/2
ミスター・ゾンビが息を吹き返す話。
映像も脚本も端正。そのせいもあって、エモーショナルな盛り上がりには欠けるんだけど、途中から主人公のミスター・ウィリアムズを演じるビル・ナイの佇まいだけで、泣けてくる。
ミスター・ウィリアムズは、カチッとスーツをキメてジェントルマンを気取っても、仕事ではやってる感を出すだけで、周囲の人ともこころを通わすこともない。そんな主人公に、生きることの楽しさを身をもって説く、避暑地に住む劇作家と、元部下のミス・ハリス。しかし、主人公は長い間こころを閉ざして暮らしてきたため、彼らのように生きることは叶わない。
「どうすれば彼女のように生きられるんだろう」
実は、劇作家もミス・ハリスも、何かを求めて日々あがいている。そして、それこそは若さゆえの特権なのだった。
ミスター・ウィリアムズは、彼らをまぶしく感じるのだけど、いかんせん歳をとりすぎてしまった。そんな彼が残りの人生を懸けて情熱を傾けるとしたら、「仕事」以外にはないという現実。老いは哀しい。あがく時間なんて残されていないんだもの。
映像は実にきれいで、我が家で大ブームを巻き起こした、ソール・ライターの写真を彷彿とされる瞬間が多々あった。脚本もよく練られてる。
ただし、終盤の回想パートが少々まどろっこしかったのが残念。映画のトーンがちょっと変わって、急に安っぽくなる。あと、狂言回しの役割の新入職員くんはいない方がスッキリしたような。もう一点、ミスター・ウィリアムズが、なんでほかの職員から煙たがられていたのかも、言葉足らずで伝わらず。結果的に、ミスター・ウィリアムズの善行がほかの職員に与えた影響も、中途半端にしか見えてこない。そんなこともあって減点。
この映画は黒澤明監督『生きる』のリメイクで、僕はオリジナルを観ないまま劇場へ行った。リメイク版を貶す人の大部分は「黒澤版に比べると・・・・・」を繰り返すばかりで、スノッブで嫌味な感じ。そんなこともあって、別に黒澤版は観なくてもいいやと思っていたんだけど、後日CSで放送されたので、せっかくだし録画して観てみた。
1952年制作ってこともあって、セリフが聴き取りにくい。志村喬の芝居も大仰だし、最初は「なんだかなぁ」と思いながら観始めたんだけど、全編を通して観ると、上に挙げたリメイク版の欠点はすべてクリアされていた! 映画としての完成度は格段にオリジナルの方が上なのだった。恐るべし、黒澤明。
しかし、たとえそうだとしても、『生きる LIVING』は、ちゃんと心に響くし、愛すべき映画だと思う。「黒澤、黒澤」言っている物知り顔のじいさんの言うことになんて耳を貸さずに、しっかりと正面から向かい合うべき映画であることは間違いない。
2本目
聖地には蜘蛛が巣を張る
公式サイト:https://gaga.ne.jp/seichikumo/
2023年4月15日(土)KBCシネマ
事前期待度 ★★★1/2
獲れ高 ★★★1/2
イランで実際にあった連続殺人事件に材をとった作品。映画序盤は、シリアル・キラーはミソジニー(女性嫌悪)をこじらせて犯行に及んだのかと思ってたけど、真相はもっとヤバくて、彼を衝き動かしていたのは、この世界には「殺されても仕方ない人たちがいる」という思想だった。
しかも、少なくない人たちがその思想に共鳴するという怖さ。
映画の背景にはイスラム原理主義の女性蔑視や人権よりも信仰が優先されるという社会的な土壌があるわけだけど、じゃあ、イランのような神権政治体制ではない日本には無関係かというと、残念ながらそうではないんだなぁ。
「知的障害者には生きる価値がない」と19人もの命を奪った殺人者は、死刑判決が確定したのちも、その思想を取り下げることはなかった。入国管理局では「不法滞在」を理由に、暴行が日常化していて、明らかに健康を害していたのに見殺しにされた女性もいる。「高齢者は集団自決した方がいい」と嘯いたイェール大学助教授は、いまだに大手を振ってメディアに出演。
彼らの行動や言い分を支持する層が日本には間違いなくいるし、さらには「日本に人権はそぐわない」なんてことを言うやつらが出てくる始末。「民主主義」というきれいなラッピングが施されている分、イランよりも日本の方がタチが悪いかもしれない。
映画の終盤は、大衆に支持された連続殺人犯、サイードが、死刑となるのか、それとも罪を逃れるのかが焦点となる。考えてみれば、死刑囚も「殺されても仕方ない人たち」に分類されている。サイードの所業と死刑制度のどこに相違があるのか? それぞれに「大義」みたいなものはあるわけで。死刑制度を認めるということは、まさに「いい殺人」と「悪い殺人」があると認めることでは? そんなことを考え始めると、モヤモヤが止まらない。
キャストのなかで特筆すべきは、カンヌで主演女優賞を射止めたザーラ・アミール・エブラヒミではなく、サイードを演じたメフディ・バジェスタニ。ヒロイックな狂信者の仮面を被った小心者の精神破綻者を演じきった。
加えてサイードの息子役の少年にも注目。彼の純粋さが、心肝を寒からしむる結末につながる。
主人公に感情移入できないなど、いくつかの疵はあるし、テーマが重すぎて観終わってスッキリすることは決してないけど、観る価値のある一本。
【5月はこの映画に賭ける!】
ことしのゴールデンウイークは最大9連休か。ほぼフリーランスのくせに勤労意欲に乏しく、人並みに休んじゃうから一向に金が貯まらない。かと言って、特に予定があるわけでもなし。映画を観に行くくらいが関の山かな。
連休直前の4月28日(金)には、全米で大ヒットした『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が公開されるけど、ゲームにも思い入れがないので却下。
5月5日(金)からの『EO』はロバが主人公の寓話的な作品。『聖地には蜘蛛が巣を張るを』観に行った際に予告編を観たけど、結構おもしろいかもしれない。『TAR/ター』は、主演のケイト・ブランシェットの熱演が評判をとった作品だけど、オスカーは逃している。5月12日(金)公開。一応、候補。
岡田准一と綾野剛の共演というのがウリの『最後まで行く』は韓国映画のリメイクで前評判は高い。予告を見た限りでは期待してもいいかも。5月19日(金)から。
音楽ファンからの評価も高いシリーズの最新作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』はゴールデンウイークのど真ん中、5月3日(水)から。これも一応MCU(マーヴェル・コミック・ユニヴァース)なのね。1、2作目はCSで観たけど、あまりノラず。5月19日(金)には、これまた人気シリーズの最新作『ワイルド・スピード/ファイアー・ブースト』公開。こちらも過去作はCSでしか観ていない。
もういっちょ、シリーズもの。ロッキー・シリーズというか、クリード・シリーズというか、マイケル・B・ジョーダンが主演・監督を務める『クリード 過去の逆襲』は5月26日(金)から。ドラゴ親子が敵役だった2作目は最高だったなぁ。
音楽関連では『ナイトクラビング:マクシズ・カンザス・シティ』が5月12日(金)公開。1970年代ニューヨーク・パンク・シーンの震源地の一つ、マクシズ・カンザス・シティというナイトクラブについてのドキュメンタリーなんだけど、出演者がアリス・クーパー、ビリー・アイドルなどなどという胡散臭さ。しかも、スクリーンが小さい小屋での上映なので、これはパスかな。
★5月の2本★ ※期待度は5点満点
決めました。
オリジナルは韓国で大ヒット。おもしろいはず!
最後まで行く
期待度 ★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:————————
2023年5月19日(金)公開
2023年製作/日本映画/上映時間118分
監督:藤井道人
出演:岡田准一、綾野剛 ほか
公式サイト:https://saigomadeiku-movie.jp
アメリカ公開時には驚異の支持率を記録
クリード 過去の逆襲
期待度 ★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家89% 観客96%
2023年5月26日(金)公開
2023年製作/アメリカ映画/上映時間116分
監督:マイケル・B・ジョーダン
出演:マイケル・B・ジョーダン、ジョナサン・メジャース ほか
公式サイト: https://wwws.warnerbros.co.jp/creed/
https://youtu.be/ShrdoZKTFyo
吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!
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