文化CULTURE
その映画、星いくつ? 第21回 2024年10月 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。
9月の末のこと、例のごとく晩ごはんをつくりながら、「CROSS FM、栗田善太郎のナビゲートでお送りするURBAN DUSK」を聴いていたら、月に1度の映画コーナーが始まった。
「9月27日金曜日公開の話題作がこんなにたくさん!」てなノリで、映画タイトルが紹介されてて、「そうそう、知ってる、知ってる。BIGMOUTH WEBにも書いたし」と思いながら、トークを聴いていたんだけど、そこで挙げられたあるタイトルに思わずタマネギを切る手が止まった。
『憐れみの3章』!!!!!!
アカデミー賞4部門受賞を果たした『哀れなるものたち』の監督、ヨルゴス・ランティモスと主演、エマ・ストーンが早くも再集結した話題作。しかし、この連載では、公開タイミングも、まだ劇場にかかっていた先月も、いっさい触れてない。もちろん、作品の存在は認識していたけど、公開日が完全にリサーチから漏れていた。すんません。
以前にも書いたけど、ここで紹介する映画は『Filmarks』『映画.com』といったWEBサイトの公開カレンダーを参照している。そこではすべての作品がフラットかつ同じフォーマットでリストアップされているため、その作品が話題作なのか、地味なインディ映画なのか、はたまた日本では知られていないカルト作なのか、一見しただけではよくわからない。だから、なんとなくスルーしてしまう作品もなかにはある。
・・・・・・なんて書くと”これがWEBメディアの限界”なんて結論に落ち着きそうだけど、ことの本質は、ワタクシのようなおっちゃんが、雑誌などのオールド・メディアに馴れすぎてしまい、WEBメディアの正しい「使い方」が身についてないことだと思う。WEBメディアでも効率よく映画を見分ける方法は、たぶんある。
さらに言うと、『憐れみの3章』の一件は、ワタクシがタイトルをちゃんと覚えないことが招いた事態だったりする。
これって、老化?
監督や俳優、公開時の評判などの周辺情報は把握しているくせに、タイトルは正しく覚えられないことがある。今月レヴューする『ジョーカー』続編タイトルも”フォリ・ア・ドゥ”がなかなか頭に残らない。
これはいまに始まったことじゃなくて、2015年公開の『マッド・マックス』のサブタイトルはなぜか『怒りのフューリー・ロード』で脳内に登録(正解は『怒りのデス・ロード』)。「怒り」と「フューリー」同じ意味だろと我ながらあきれる。昨年のアカデミー賞を席巻した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』も、いまは言えるけど、しばらくすると「エブ・・・・・・あれ?」となっちゃうのよね。
『憐れみの3章』も、タイトルをなんとなく雰囲気でしか記憶しておらず、スルーしてしまった。すべてはワタクシの脳の劣化のせい! ホント、すんません。
【10月の獲れ高】
※ネタバレあり
10月のおさらいを。むー、『憐れみの3章』の公開日を知っていても、この問題作2本に割り込むことは難しかったかも。まずは、タイトルもうろ覚えな一本から。
1本目
ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
2024年10月12日(土)T・ジョイ リバーウォーク北九州
事前期待度 ★★★1/2
獲れ高 ★★★1/2
アメリカ本国で盛大にブーイングを巻き起こした本作。映画レヴュー・サイト、Rotten Tomatoesの支持率は、評論家、観客ともに支持率32%という低評価。気持ちはわかる。
予告編を観たら「刑務所を脱走したジョーカーは、運命の女、ハーレクインと出会い、悪のカリスマとしてゴッサム・シティに君臨する」・・・・・・てな展開を期待するじゃない。そりゃ、実際の作品を観て「ナンジャコレハ」となるさ。それでも、個人的にはこの作品を是としたい。
ズバリ、今作のテーマは、前作『ジョーカー』を否定すること。要するに、アーサーが自らジョーカーのメイキャップを落とす物語だ。安っぽい化粧を落としてみれば「悪のカリスマ」なんてのは存在せず、そこにいるのは、孤独に心を蝕まれたさえない中年男だったというオチ。もちろん、そこにカタルシスはない。
1作目を観て螺旋階段を上がってると思っていたのに、実はいつの間にか下りていて、気付いたら元いた場所にいた。そんな作品なわけ。
レディ・ガガ扮するジョーカーのグルーピー、リーに対するアーサーの妄執は、前作の隣人のシングル・マザーに対するそれを凌駕する。そりゃそうだ。前回は、こっちが勝手に妄想を膨らませたわけだけど、今回は向こうからアプローチしてきたんだもの。Hand in Glove。2人で一つ。彼女がいれば、俺は本当の「悪のカリスマ」になれる!
しかし、裁判で自分の凶行をたどっていくうちに、自分が現実には取るに足りない惨めな男であることに思い当たってしまう。そんな現実を塗り替えるために殺人に手を染めたのに、自分はなにも変わっていなかった。変わったのは周りだけ。裁判所の周囲はジョーカーの信奉者が取り囲んでいるけど、彼らの視線の先にあるのは、アーサーではなく、ジョーカーという幻想なのだった。
これはあかん。でも、俺にはリーがいる。
リーはと言えば、ジョーカーと二人で悪虐の限りを尽くそうと目論んでいたのに、アーサーは勝手にステージを降りちゃった。その心境はガッカリなんてもんじゃない。失望。そして、アーサーへの嫌悪。それでも2人のテーマソングとも言える「ザッツ・エンタテインメント」を口ずさむリー。”しょせんはエンタテインメントなのよ”。一方のアーサーはそれに耐えられない。現実をエンタテインメントとして消費することは、彼にはもうできない。
そして、ラスト、目を見開いたままのアーサーを祝福するかのように流れるのが「ザッツ・ライフ」。”諦めなければ幸せはつかめるはず”。この曲をアーサーが聴けたかどうかはわからない。
監督、トッド・フィリップスは、1作目でエンタテインメントの力で現実を転覆できるという幻想を提示したけど、今作では、虚飾が剥がれ落ちた後に残るのは暴力だけで、現実は以前より重く横たわると語る。
だから、いたたまれなさ、救いのなさは前作以上。だけど、エンタテインメントに逃げ込まないと生きていけない人たちも少なくない時代だからこそ、つくられなければいけなかった映画だと思う。
2本目
シビル・ウォー アメリカ最後の日
公式サイト:https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/
2024年10月05日(土)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13
事前期待度 ★★★★
獲れ高 ★★★★
現実のアメリカ大統領選投票日は11月5日。稀に見る接戦らしい。どんな結果に終わるやら。
カリフォルニア州とテキサス州の連合軍、WF(West Forces=西部連合)が、政府にに反旗を翻し、内戦状態に陥ったアメリカを描くこの映画は、大統領選の一方の主役、ドナルド・トランプがもたらしたアメリカの分断の行き着く先を描いたものと思われがちだけど、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
監督のアレックス・ガーランドは、性格が悪いというか、一筋縄ではいかない。
映画は冒頭から強烈な戦闘シーンが続き、観ている方は緊張しっぱなし。IMAXで観たのはたまたまだったんだけど、久々に「ここにいたら・・・・・・死ぬ」と思ったよ。でも、ここで生々しく描かれている戦闘は、現実にガザやウクライナの人たちが、日々直面している「日常」なんだよね。彼の地では子供も老人も毎日バタバタと死んでいる。それを我々は茶の間でテレビを通して眺めている。映画もそうだけど、現実の戦場も我々にとっては所詮「あっち側」の世界なんだな。
でも、映画の中心をなす4人のジャーナリストはそんなわけにはいかないよね。銃弾が飛び交う最前線に身を置いているわけで、「あっち側」なんて呑気なことは言っていられないはず。真実を世界に伝えるため、自らの危険をも顧みず、戦場に飛び込んでいく。確かに、映画の序盤はそんなノリ。しかし、物語が進むうちに、わかってくるのは、彼らも結局は傍観者に過ぎないということ。命張ってるのは間違いないけど、銃を手に取って戦闘に加わるわけではないので、当事者ってわけではない。そんな彼らが戦場にいる意味って、なんだろう?
物語の焦点となるのは、ケイニー・スピーニー演じる駆け出しカメラマン、ジェシーと、キルスティン・ダンスト扮するベテラン戦場カメラマン、リーの変貌ぶりだ。
ジェシーは、戦場に出るのも初めてで、当初はビビりまくっている。しかし、だんだん戦場に順応していき、ついにはアドレナリン全開。銃弾が飛び交うなか、シャッターを切りまくる。その姿は、死と隣り合わせの状況で、生きている実感を享受することに取り憑かれているだけのように見える。記者のジョエル(演じるはヴァグネル・モウラ)も、映画の序盤で、戦場で弾丸をかいくぐる際に感じる高揚感を告白している。
要は、彼らはある種のジャンキーで、「ジャーナリストとしての使命」なんて崇高なものはもっていない。
物語のもう一つの焦点、キルスティン・ダンスト扮するベテラン戦場カメラマン、リーはと言えば、数々の過酷な戦場で淡々とシャッターを切ってきたのに、映画終盤、パニックに陥る。戦場という極限状態において、ある出来事をきっかけに、彼女だけは、一つの命の重さとかけがえのなさを思い知り、その事実に押し潰されそうになる。
つまり、それまでは、戦場に身を置きながらも、そこはファインダーの「あっち側」で、彼女にとっての現実じゃなかったということなんだな。反対に、ジェシーは目の前の現実をファインダーの「あっち側」と認識し始める。だから、自らが招いた悲劇を前にしてさえも冷静にシャッターを切る。
結局のところ、彼らジャーナリストも、遠い国での命のやり取りを「あっち側」の出来事として消費することしかできない我々の側にいるわけだ。だから、あくまでも近未来のアメリカを舞台としたフィクションという建て付けだけど、ガーランド監督はこの映画で「アメリカに限らず世界ってこんな感じだよね」って言いたかったんじゃないかな。
そんな世界のデタラメさを、ガーランド監督は音楽を使って表現する。シリアスなシーンでも音楽を被せるとポップなエンタテインメントに早変わり。特にデ・ラ・ソウルとエンディングのスーサイドが最高。
おもしろかったのは、アメリカ全土がしっちゃかめっちゃかなのに、完璧に傍観者モードをキメてる町が存在するところ。アメリカは広いなぁって感じ。「内戦とかアホらしいので、無視することにした」って正論が心に響く。我が国もこうありたい。
ほかにも、いまの世界の写鏡のようなエピソードが散りばめられている。観るたびになにか発見がありそうな秀作。
【11月はこの映画に賭ける!】
今月は抜かりなく! まずは10月に積み残した作品から。
ナイト・シャラマン監督の新作『トラップ』は、ジョシュ・ハーネット主演のサイコ・キラー。シャラマン映画は、途中まではおもしろいのに最後まで観ると「ナンジャコレハ」となるのが常だけど、この作品も例に漏れない予感。監督の娘が出演していて、これまた評判悪い。
悪ガキ3人組が「魔女」が率いる悪人軍団と戦う『リトル・ワンダーズ』。低予算ぽいけど、かなりの高評価。ポスター・ヴィジュアルもそそる。KBCシネマで上映中だけど、11月までもつかなぁ。
日本映画では、役所広司主演の『八犬伝』が公開済み。「南総里見八犬伝」の物語世界と、その作者の滝沢馬琴の人生をパラレルに描いてるらしい。ややこしいなぁ、と思ってたら、山田風太郎による、そういう構造の小説が原作らしい。うまく映像化できたのか、気にはなる。
11月公開の日本映画も目玉は時代劇。趣きはガラリと変わり、幕末が舞台のアクション・ムービー。山田孝之、仲野太賀をダブル主演に迎え、白石和彌がメガホンをとった『十一人の賊軍』だ。劇場で何度か予告編を観たけど、判断に迷う。ストーリー展開はだいたい読めるし、お金を払って観る価値があるかな。11月1日金曜日公開。
これ以外で気になる日本映画は、石井裕也監督、平野啓一郎原作の『本心』。原作は未読。死んだ母親をテクノロジーの力でヴァーチャルに再現するって話。AIってホントのとこどうなのよ!?な昨今、タイムリーな作品ではある。平野啓一郎モノは『ある男』もよかったし、この映画もイケるかも。11月8日金曜日公開。
巨匠リドリー・スコットの新作はまさかの『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』。今更感は拭えない。デンゼル・ワシントンはオスカー間違いなしなんて評もあるけど、ストーリーを見ても1作目の焼き直しっぽい。う~、悩む・・・・・・。11月15日金曜日公開。
『ヴェノム:ザ・ラストダンス』は、賛否あるシリーズ最終作。ヴェノムの造形はカッコいいし、主演のトム・ハーディも贔屓の役者なんだけど、劇場まで足を運ぶ気にならないのはなんでか・・・・・・。前2作も脚本が雑なんすよね。今作もテレビでいいかな。11月1日金曜日公開。
誘拐されたサンタ・クロースを救出するため、ドウェイン・ジョンソン扮するサンタクロース護衛隊長とクリス・エヴァンス扮する賞金稼ぎが奮闘するという『レッド・ワン』は、バカバカしいストーリーに好感が持てる。11月8日金曜日公開。
アリ・アスター製作の『ドリーム・シナリオ』は、ニコラス・ケイジ扮する大学教授が、ある日、何百万の人の夢に登場するという不条理コメディ。『マルコビッチの穴』みたいな感じ? 11月22日金曜日公開。
韓国映画『DOG DAYS 君といつまでも』はタイトル通り、犬とのふれあいによって人々の心が癒やされていくという話。ユン・ヨジョン、ユ・ヘジンなど、錚々たるキャストが集結しているし、話もよさげ。その割に韓国でヒットしたって感じでもないのが不思議。11月1日金曜日公開。
同じ韓国映画でも『対外秘』は政治&ヤクザ映画。こちらもチョ・ジヌンはじめ、おなじみの役者が顔をそろえる。きっと、おもしろい。劇場で見るべきかどうかはわからんけど。11月15日金曜日公開。
真田広之のエミー賞受賞で話題になった『SHOGUN 将軍』は1、2話を劇場公開ですと。ディズニープラスに加入しないと、続きは観られないとは、なんと殺生な。11月16日土曜日から8日間の限定公開。
LGBTQがテーマの『ジョイランド 私の願い』は珍しいパキスタン映画。保守派の抵抗で一時は公開禁止の憂き目にあったという一作。LGBTQに縁がないからこそ観ておくべきか? 11月1日金曜日公開。
音楽モノではエイミー・ワインハウスの伝記映画『Back to Black エイミーのすべて』がお目見え。エイミーは大好きなんだけど、薄っぺらな内容という評を目にするとさすがに萎える。11月22日金曜日公開。
『ロボット・ドリームズ』はスペイン、フランス合作のアニメ映画。ロボットと犬が主人公。セリフなし。だけど、泣けるらしい。11月8日金曜日公開。
フレンチ・ホラー『スパイダー/増殖』、イザベル・ファーマンの快演が話題の『ノーヴィス』は全国公開済だけど、福岡では公開待機中。KBCシネマさん、お願いしますよー。
★11月の2本★ ※期待度は5点満点
決め・・・・・・手に欠けるなぁ。イチかバチか、この2本で!
パキスタン映画なんて観る機会がないので
ジョイランド 私の願い
期待度 ★★★1/2
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 98% 観客 70%
2024年11月01日(金)公開
2022年製作/パキスタン映画/上映時間127分
監督:サイム・サディック
出演: アリ・ジュネージョー、ラスティ・ファルーク ほか
公式サイト:https://www.joyland-jp.com
ニコラス・ケイジはコメディが似合う
ドリーム・シナリオ
期待度 ★★★1/2
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 91% 観客 68%
2024年11月22日(金)公開
2023年製作/アメリカ映画/上映時間102分
監督:クリストファー・ボルグリ
出演: ニコラス・ケイジ、リリー・バード ほか
公式サイト:https://klockworx-v.com/dream-scenario/
吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!
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