文化CULTURE
その映画、星いくつ? 第22回 2024年11月 『ドリーム・シナリオ』『ジョイランド 私の願い』
「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。
iPhoneを新調した。購入したのは、もちろん最新のiPhone16・・・・・・ではなく、型落ちで安くなった14。そしたらば、AppleTV+の3ヶ月お試し無料視聴が付いてきた。これ幸いとばかりに、いろいろと観てみ流ことにする。
視聴期間が限られているので、厳選して観なくては。特にシリーズものは、途中で無料期間が終了なんてことになりかねない。続き観たさのあまり、課金する事態は避けたい。
ということでマストな作品を、ザッとリストアップしてみた。
まずは、ブラット・ピットとジョージ・クルーニー共演の話題作『Wolfs』。
劇場公開が急に中止となったいわく付きの一本。当初はシリーズ化の予定だったけど、それも頓挫したみたい。映画の採点サイト、Rotten Tomatoesの観客支持率は50%。・・・・・・微妙だ。でも、まぁ、家人も観たがっているので、リストにアップ。
映画だと、スティーブ・マックウィーン監督、シャーシャ・ローナン主演の『ブリッツ ロンドン大空襲』も観ときたい。超絶美少女だったシャーシャ・ローナンが母親役ってのも感慨深いけど、彼女の父親役はなんとポール・ウェラー!!! 内容は賛否両論だけど、これは観とかないと。
そのほかの映画は余裕があったらって感じでいいかな。
さて、シリーズものはどれにするか。
外せないのは、私的オールタイム・ベストで5本の指に入る『ROMA ローマ』を撮ったアルフォンソ・キュアロン監督が主役にケイト・ブランシェットを迎えて製作した『ディスクレーマー 夏の沈黙』。全7話だし、間違いなく無料視聴期間内にクリアできるでしょ。
朝鮮半島から大阪に移り住んだ女性の一代記『Pachinko パチンコ』は、ミン・ジン・リーによる原作を図書館で借りて読了済み。波乱万丈ですごくおもしろかった。これがシーズン1、2が全8話ずつの合計16話。ギリ觀終えることができるかな。
もういっちょ、レベッカ・ファーガソン主演のディストピアSF『サイロ』もおもしろそう。シーズン1は全10話。エピソード2は11月15日から週1回のペースで配信がスタート。果たして、エンディングまでたどり着くか?
ということで、この冬はAppleTV+三昧です。
【11月の獲れ高】
※ネタバレあるかも
では、11月のおさらいを。思いのほか『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』が評判よく、選ばなかったことをちょっとだけ後悔したりして。
1本目
ドリーム・シナリオ
公式サイト:https://klockworx-v.com/dream-scenario/
2024年11月23日(土)T ・ジョイ博多
事前期待度 ★★★1/2
獲れ高 ★★★★1/2
予想以上の快作。とにかく不条理。でも、むちゃくちゃおもしろい。
自己承認欲求強めな大学教授、ポールが、他人の夢に出て一躍有名人に。最初のうちは浮かれていたんだけど、やがて、夢の中のポールが極悪非道な行動に走り始め、世間からバッシングを浴び、職も家庭も失う。
笑える。笑えるんだけど、同時にかなり怖い映画。
夢の中のポールのイメージによって、現実のポールは毀誉褒貶にさらされる。ポールの実像がどうあろうと関係なし。イメージがすべて。
SNSの世界ってこんな感じよね。真実がどこにあるかなんて、誰も気にしない。理性ではなく感情の赴くままに他人を持ち上げ、そして叩く。その結果、現実に命を落とす人もいる。
映画の中では、SNSに煽動されがちな大衆をコントロールしようと目論む広告代理店が登場する。このへんも実にリアル。現実に僕らはさまざまな広告に日々晒されているわけで、気が付いたらスプライトを飲んで流行りのスニーカー履いて、筋肉増強サプリを飲んでるんだ。
ぶっちゃけて言うと、この映画にオチはない。ポールは最後まで救われない。
「なんでこんなことになっちゃったの……」
途方に暮れるポール。でも、どこにも答えはない。そもそも、ポールに過失はいっさいないわけだし。たまたま、このおかしな現象がポールの身の上に起こっただけ。誰かが同じような目に合うかもしれない。この点も、SNSの理不尽な怖さに通じる。
ラストシーンは、実にロマンチック。そして、失ったものの大きさを感じさせ、実にやるせない(でも、笑える)。イメージに惑わされるんじゃなくて、目の前の誰かをしっかり見つめることが大事なんだな。ポールは、そのことに気づくのが遅すぎたのかもしれない。
ニコラス・ケイジの神経症的であると同時に抑制の効いた演技は、彼のキャリアのなかでもベストの部類に入る。本人も今作を自身の最高傑作と公言している模様。その意見に賛成。
ポールの妻役のジュリアンヌ・ニコルソンはすごくチャーミング。ポールには不似合いなほどチャーミング。だからこそ、ラストシーンがすごく刺さるのだなぁ。このあたりの配役のうまさも光る。
クリストファー・ボリグリというノルウェー人監督はこの作品で初めて知ったけど、今後も注目していきたいと思った。
↓ 一応、今作の関連動画。
2本目
ジョイランド 私の願い
公式サイト:https://www.joyland-jp.com
2024年11月04日(月・祝)KBCシネマ
事前期待度 ★★★1/2
獲れ高 ★★★1/2
主人公はドラァッグクイーンの生き様に触れて、本当の自分に気づく・・・・・・なんて映画ではまったくなかった。パキスタンの封建的な社会と家父長制を背景に主人公のアイデンティティの崩壊を描いた、むっちゃ重い作品であった。
主人公、ハイダルと、その妻、ムムターズは、堅苦しい社会のなかでもなんとか居場所を見つけ、平穏な生活を送っていた。しかし、ハイダルが、トランスジェンダーのダンサー、ビバと出会ったことをきっかけに、2人の人生の歯車が狂い始める。
少なくともムムターズとビビは、「本当になりたい自分」を持っている。この2人の決定的な違いは、社会での立ち位置だ。ムムターズは完全に社会に絡め取られていて、世間の常識やモラルを踏み越えることができない。
一方のビビは、元から一般社会の規範から外れた場所で生きている。社会に頼ることができないトランスジェンダーだからこそ、強く生きていくことができる。
ビビと出会わなければならなかったのは、ハイダルではなくて、ムムターズだったのかもしれない。ビビの人生はムムターズに力を与えたはず。しかし、2人が交わることはない。
肝心のハイダルはと言えば、フニャフニャしている。なぜ彼がビビに惹かれたのか、途中まで疑問だったのだけど、あるエピソードで氷解する。
彼女の生き方に惹かれたというのも、あったとは思う。それに、ハイダルは物語の冒頭で茫然自失状態の彼女を見かけている。ビビが強気な姿勢の下に、繊細な部分を隠し持っていることを彼は知っている。
でも、そんなこんなも、彼のほかでは叶えられない性的欲求と裏表の関係だった。結果的に、ムムターズやビビとは違って、ハイダルだけは自分が何者なのか、ますます、わからなくなっていく。
「僕って人間は空っぽで、すべては借り物なんだよね」「わからなくなった、なにもわからなくなった」なんて泣き言をこぼすわけだけど、ホントにこいつはそんな男なのだった。
ついには、自分が妻であるムムターズを愛していたのかどうかさえ、わからなくなってしまう。ただただ後悔の念に苛まれるサイードを、サイーム・サーディク監督は突き放す。結局、今作は「本当の自分に気づく」どころか、家族も自己のアイデンティティも失い、この世界での居場所を完全になくす男の物語だった。
家父長制に染まりきった男性の中身は、ハイダルと同じく、空っぽなのかもしれない。そう考えると、確かにハイダルも家父長制の犠牲者なのかも。
【12月はこの映画に賭ける!】
12月は、嘘みたいに観たい映画がない!!!! これは家に籠ってAppleTV+を観とけってこと?
そうもいかないので、今回は、「気は進まないけど、この映画なら観てみようっかな」というノリで。
まずは、11月に積み残した作品から。
11月29日公開の『ザ・バイクライダーズ』 は、オースティン・バトラー、トム・ハーディ、ジュディ・カマーが顔をそろえた作品。伝説的モーターサイクルクラブが辿った顛末を描く。評価もまぁまぁ高いけど、福岡での上映館がアソコなんだよなぁ。
12月公開作を見てみよう。
マーベルもの最新作『クレイヴン・ザ・ハンター』はスパイダーマンに出てくるヴィランが主人公。幼いころ、ライオンに襲われたことがきっかけになって、ライオンのもつスーパーパワーを身に宿したんだって・・・・・・。ついていけないかも。12月13日(金)公開。
2022年製作のデンマーク・オランダ合作のサスペンスホラーをリメイクしたのが『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』。主演はジェームズ・マカボイ。休日に訪れた家の住人たちがサイコ野郎だったという、ありがちな設定だけど、意外に評判はよい。12月13日(金)公開。
『エスター』シリーズで名を上げた、イザベル・ファーマン主演の『ノーヴィス』は、ボート競技にのめり込む若者の狂気を描く。「ダークでスリリングな傑作」という謳い文句。信じていいのかな。2021年製作だけど、なぜ、いままで日本公開がなかったのかが気になる。12月6日(金)公開。
『クラブ・ゼロ』が描くのは、少食が幸せの鍵だと信じるカルト集団。ホラーなのか? それともコメディ? 12月6日(金)公開。
ディズニーものでは『モアナと伝説の海2』なんてのが。前作観てないし、そもそも、おっちゃんが1人で観るようなもんじゃない。12月6日(金)公開。
日本映画『火の華』は、自衛隊員のPTSDを取り上げた異色作。興味深いけど、映画としての完成度に難ありという噂。12月20日(金)公開。
デビュー前のザ・ビートルズに焦点を絞った『NO ハンブルク NO ビートルズ』は、福岡での公開館は未定。ガクッ。
以上から2本。さてさて・・・・・・。
★12月の2本★ ※期待度は5点満点
決めました。
この手の作品は好みじゃないけど
スピーク・ノー・イーブル 異常な家族
期待度 ★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 84% 観客 84%
2024年12月13日(金)公開
2024年製作/アメリカ映画/上映時間110分
監督:ジェームズ・ワトキンス
出演: ジェームズ・マカボイ、アシュリン・フランシオーシ ほか
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/speaknoevil
何度も言うけど、この手の作品は好みじゃない
ノーヴィス
期待度 ★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 93% 観客 71%
202X年12月06日(金)公開
2021年製作/アメリカ映画/上映時間97分
監督:ローレン・ハダウェイ
出演: イザベル・ファーマン、ディロン ほか
公式サイト:https://www.novice-movie.com
吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!
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