Bigmouth WEB MAGAZINE

対談INTERVIEW

【好きを仕事にしたひと 好きを仕事にしなかったひと vol.2 haruka nakamura-前編-】

【好きを仕事にしたひと 好きを仕事にしなかったひと vol.2 haruka nakamura-前編-】


 

あのとき違う道を選んでいたら。もしもこの仕事を選ばなかったら。

「好き」を仕事にしたひと、「好き」は好きのままで別の道を選んだひと。それぞれの生き方を深掘りする連載インタビュー。

 2回目は、全国を旅し続けながら音楽を紡ぐharuka nakamuraさん。音と光、自然と空間、独自の世界観で美しい時間をつくり出す。(聞き手:古林咲子@琥珀館 撮影:櫛田神社)

 


「ニューヨークか東京か」

 

-15歳のとき、音楽を志して上京したと聞きました。

とにかく好きでしょうがなくて、それしかないっていう熱量を感じている人たちと音楽をやりたかった。僕が住んでいたのは青森の田舎なんです。中学を卒業すると友達はみんな就職したけれど自分だけ高校へ行って。学校へ行くのがどんどん面倒になって家に帰って友達とバンドの練習ばかりしていました。

 -音楽に夢中だった。

でも、みんな学校があったり、仕事をしていたりするから本気で音楽をしている人はいませんでした。現状を打破しないと、と思って15歳のときに音楽をするために青森から上京して。東京へ行ってからは四畳半風呂なしのアパートに住んでアルバイト生活を続けていました。

 -親は反対しなかった?

「ようやく動き出したか」という感じでしたね。東京に行くくらいならニューヨークに行きなさいと言われていて。母はジャズを好んでいたので。でも僕はジャズがやりたかったわけではなく、複合的な音楽がやりたかったんです。東京の専門学校で一週間くらい通ったんですが合わなかった。先生も生徒もタバコを吸いながら授業していて、ここじゃなかったと(笑)

 -専門学校を辞めた後は?

まずは書店でアルバイトをしました。あとは自宅でギターを練習したり。渋谷に行ってたらスクランブル交差点のところで廃材を叩いてドラムを演奏している黒人のドラマーがいて、めちゃくちゃうまくて。「ギターをやってるんだけど」って話しかけたら「毎週、バーに行ってセッションしているから来いよ」って言ってもらえて。16歳でギターを始めたばかりだったけどお店に行ってセッションに混ざったりして。 

-そのときから作曲を?

つくることはつくっていたけど、人に聴かせることはまったくしていなかったんです。とにかく納得がいくものができるまでつくり続けていたんです。その間はいくつかアルバイトをして、そのうちにカフェの仕事がおもしろいなって思い始めたんです。

 -カフェの魅力に目覚めた。

ゆくゆくはカフェの経営をして、好きに音楽をつくるのが良いかなと思っていたんです。音楽を仕事にするというか、生活のための音楽をつくらなくていいか、と。その道筋が見えてきたんです。 

-でも、その道には進まなかった。

青山のあるお店で働いているとき、休憩中にふと店長から「音楽やってるんだよね。どんなの?」と聴かれて。そのときにはもうカフェの道に行こうと思っていたから「もういいんです」とお断りしたんですが、店長が「聴かせてごらんよ」と。しばらく聴いた後に「うん、君はこっちをやったほうがいい。まずはこれを世に出した方が良い」と言ってくださったんです。

-そこから音楽の道に?

つくった音楽を「Myspace(マイスペース)」(1)に公開したんです。本当はこれだって思うものができるまでは出したくなかった。でも、それまでにあまりにも長い時間が過ぎていたし、音楽性も変わっていく。Myspaceに公開したあとにいくつかの連絡が届きました。レーベルをつくったから一緒に出そうという人、一緒にライブに出ませんかというお誘いもいただきました。Nujabes2)さんが一番びっくりしたけど。

 -音楽で生きていく可能性が見えた。

その頃はまだアルバムも出してなくてライブもぜんぜんしてなかったんです。年に2回とか。その代わり、リハーサルにすごく時間をかけて完璧だっていう状態でライブに臨みました。そのやり方では効率が悪いからライブでもCDでも食べていけないし。音楽で生活をできる土台がぜんぜんできていなかった。

-生活はカフェの仕事でまかなっていた。

1~2年くらいするとアルバムの収益が出て、作曲のお仕事を頼まれるようにもなってきたんです。Nujabesさんのイベントに出たり、環境がめまぐるしく変わっていった。でもそのときに勤めていたカフェもすごく好きだったからしばらく続けていたんです。

 -カフェに惹かれるのはなぜ?

まず、音楽って「時間」なんですよね。即興演奏をしている時とか特に思う。いま、いまが過ぎていく。もう二度とさっきのメロディーには戻れないんです。1時間半のライブに来ているお客さんは、普段過ごしている1時間半とはぜんぜん違う時間の流れを感じているはず。もちろん、僕らも。演奏しているとその時間の流れの中にいて、時間を味方につけないといけない。

>>中編に続く

1Myspace・・・・・・2003年に開設された音楽のSNS。誰でも自由に音楽をアップロードするプラットフォームとして人気を集めた。アマチュアからインディーズ、プロのミュージシャンまで登録し、2003年から2015年までで約1400万人のアーティストが5000万以上の楽曲をアップロードしていた。

2Nujabes・・・・・・ヒップホップを軸にしたメロディアスな楽曲で人気を集めたDJ・トラックメイカー。20102月、交通事故でこの世を去ったが今もなお世界中にファンが多く、ミュージシャン・アーティストに影響を与え続けている。


https://www.harukanakamura.com

古林咲子
古林咲子

古林咲子 SAKIKO KOBAYASHI

古林咲子
インタビュアー、ライター。俳優、経営者、アーティスト、職人、子どもなどあらゆるジャンルの人に話を聞き、取材人数は1000人以上。「好きを仕事にしたひと。好きを仕事にしなかったひと」をテーマとしたインタビューをライフワークにしている。