Bigmouth WEB MAGAZINE

対談INTERVIEW

【好きを仕事にしたひと 好きを仕事にしなかったひと vol.2 haruka nakamura-中編-】

【好きを仕事にしたひと 好きを仕事にしなかったひと vol.2 haruka nakamura-中編-】


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「静寂という最も美しい音楽」

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-時間を味方につける?

その時間の中で生きなきゃいけないんです。息をして、いまと向き合って。即興演奏ってずっと流れていくし、ライブで「時間が流れてしまっている」って感じているときはいい演奏が絶対できなくて。この時間の流れにしっかりのって、いまを一つずつ掴んでいく。そういう時間をつくる場所なんです。カフェも。音楽とやっていることは似ているんです。時間をつくっている。


-そんなカフェをつくりたかった?

ずっと前からやりたい画があって。そういう気持ちで設計したというか、考えた形があるんです。

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-どんなカフェですか?

うーん、何と言っていいか。これ、載せないでくださいね(笑)。縦に細長い店で、焙煎機と真空管スピーカーがあって、小さなカウンター席が両脇にあって、お客さんの目線に一個ずつ細い窓がある。風景には森や夕暮れの街灯とかが見えるんですよね。すっごい静かなBGMで。席には文庫本が少しだけ置いてある。お客さんは一言もしゃべらない。僕もしゃべらない。珈琲を飲みながら窓からの景色を眺めたり、本を読んだりするだけの店。

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-音楽も同じ気持ちでつくる?

やはり静寂は最も美しい音楽だと思うんです。無音は誰もいなくなるから無音ですよね。でも静寂っていうのは、人が集まって、かつ沈黙して生まれるもの。人がいっぱいいないと静寂は生まれないんです。本来、人がいっぱいいたらうるさくなってしまうものだけど、その場にいる人たちがみんな「沈黙する」という表現を選択する。

 -静寂という音楽。

その場にいる全員がすっと静かにしたときにつくられるものが静寂。誰にでもつくれる音楽ですが、なかなかつくることはできない。以前のツアーではこのことがライブに来てくれるお客さんに伝わってきて、だんだんと「静寂」がつくれるようになってきました。最終公演でカテドラル大聖堂でライブをしたときに850人が集まっていましたがその日は静寂が訪れました。教会だから洋服のすれる音だけでもすごく響くんですが、見事な静寂でした。すごく美しかった。

 -その場にいる人たちと生み出すもの。

いつどこでもできるわけじゃないんです。ついつい動き出してしまうし。でも、その時間をつくれるとすごく美しいんです。ライブでは静寂とか沈黙を多くつくりたかった。それはすごく美しい音楽だから。

 -その美しさに気が付いたのは?

いろんなところにヒントがあって。たとえば、神社に行くと凜とした雰囲気があって。冬の朝とか、雨が降ったあとの時間、気配というか自然がみせてくれる静寂。「この感覚はなんだろう」って考えたときに・・・・・・ 

-「静寂」に行き着いた。

人もそうです。人が本当に感動したときとか、人が沈黙してるときっていいなあと思う。目の前の人がなにかの感情で黙ってしまっているとか。そういう静けさ、あるでしょう?

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-美しいものをつくりたいと思うから、美しいものをみつめる?

美しいというのはただ見かけが美しいのではなく、そこに闇があるからこその光なんです。ただ「キラキラ」しているとか、「きれい」ではなくて。雨の日に喫茶店でうつむいている人、悲しさをたずさえた沈黙は美しい。

 -音楽に生かされている感覚とは?

音楽だけで生活ができるようになって10年が経ちました。この10年間、「音楽って何だろう」と。生活そのものを旅に出ることにしてしまったんです。森の中とか山の中とか、海とか教会とか日本中、いろんな土地の人たちと会って、いろんな自然に触れて、インスピレーションを受けるとどんどん深い、森の中に入っていくんです。

 -森?

自分の中で行きたい森があってそこに向かっている感覚です。行きたい森がある。音楽性や音楽芸術、音楽の神髄という意味の森ではなく、魂の源泉というか。

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-その辿り着きたい森へ入っていく。

東京のカフェで働きながら音楽をつくっているときは森を眺めているような感覚で、中には入っていけてなかった。でも、この10年でひたすら音楽だけの生活ができて、どんどん森の中に入っていけました。それが良かったなって思います。これで良かったって。

-森の中に入らなければつくれない音楽があったから?

もちろん。森の中に入らないと「こういう神社があるんだな」とか「ここに滝があって」とか分からないですよね。そこを眺めているのと、行くとではぜんぜん違うんです。 

-音楽と向き合いながら人生を送っている。

ぜんぶ必然だと思っているんです。僕は当初から自分のやりたい音楽を一つも変えずに、かつ生活したかった。好きなことで生きていきたいと考える人はみんな思うことかもだけど難しい。でも、強く思うことです。とても強く。


>>後編に続く




古林咲子
古林咲子

古林咲子 SAKIKO KOBAYASHI

古林咲子
インタビュアー、ライター。俳優、経営者、アーティスト、職人、子どもなどあらゆるジャンルの人に話を聞き、取材人数は1000人以上。「好きを仕事にしたひと。好きを仕事にしなかったひと」をテーマとしたインタビューをライフワークにしている。