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74歳の母が、今日もマンガを読んでいる。第2回:『高台家の人々』森本梢子

74歳の母が、今日もマンガを読んでいる。第2回:『高台家の人々』森本梢子


◎人の心が読めてしまう一家と、妄想癖女子との不可思議ラブコメディ。


前回から始まりました、母(74歳)と息子の交換漫画レビュー。

感想いただいた方、ありがとうございます。

あれ読んで、鬼滅の刃を読んでみたという

奇特な報告もありました。すごい。

なかには「おすすめしてる割りに点数が低いじゃねえか!」と

鬼のように怒ってる人もいましたが、

全集中・岩の呼吸で無視したいと思います。

いや、点数はあくまで好き度数くらいに思ってもらえれば。

ていうか、こんなに評価されてんだから

今更もういいじゃないか。


さて、今日も今日とて母はマンガを読んでるわけですが、

今回、感想を送ってきたのは『高台家の人々』です。

『ごくせん』や『アシガール』などで

知られる森本梢子さんが

2013年3月号から2017年4月号まで

『YOU』(集英社)で連載していた作品。

綾瀬はるか主演で映画化もされたそうなので

ご存知の方も多いのではないでしょうか。


では、早速ですが、

母、八重子から送られてきたLINEをご紹介します。


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高台家の人々、全6巻、一晩で読んだ。

漫画の作中でよく、漫画を読みながら笑い転げている子供がいるよね?

私、笑い転げる漫画にはあまり出会ってこなかったけれど

高台家の人々は声をたてて笑ってしまう。


30歳の冴えない片隅OL、木絵ちゃんの前に現れた

黒髪青い目の美しい王子さま。

家柄良し、元華族。

学歴良し、T大卒。

仕事ができる、プロジェクトリーダー。

スタイル良し、イギリス貴族とのクウォーターなのですらっと背が高い。

おまけに優しく、もの静か。


こんな女の理想を絵に書いたような彼には、

人に言えない秘密があるのさ。

人の考えていることが、

全部わかってしまう特殊能力が備わっている事。

テレパスというらしい。


一方、口下手の木絵ちゃんは妄想癖の達人。

この妄想が縁で付き合い始めた2人。


木絵ちゃんの妄想をめぐって物語が展開していく。


全編にちりばめられた妄想が超面白い。

アメリカ支社からきたデキる女性上司・

モリーさんと高台王子との会話を勝手に想像した場面、

アフガニスタン、パキスタン、ウズベキスタン、キルギスタン。

思い出しては笑ってしまう。


王子様の家族、高台家の人々も個性あふれる人達。

妄想に振り回されながらも、

木絵ちゃんののんびりと大らかな性格に

家族みんな惹かれていくんだよねー


笑いあり、涙ありっていうけど、

笑ってばかりの漫画です。

こればっかりは、読んでもらうほかないねー


こないだ、婆ちゃんの1周忌法要があって。

今度来た若い坊さんが

朗々としたテノールで短めの

お経を上げなさった。

2メートル間隔の椅子に座った信者達は

シーンとしてささやき声もない。


皆んな何考えてるんだろう?

この漫画を読んだ後だったから

皆んなの妄想が空間に漂っている様な気がした。

人の考えが分からないって、とてもいい。

ちゃんと向き合って話せるもんね。

高台家の人々は、さぞや大変だろうと

あらぬことを考えながら

ありがたーいお経を聞いていた。


森本梢子ちゃんの漫画、

アシガール、デカワンコ、

どれを読んでも面白い!

疲れがとれるよ。是非よんみてねー


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はい、母からの感想は以上です・・・。

ばあちゃんの1周忌法要でそんなこと考えてたんかいっ!(笑)。


でもたしかに、もし心の中が読まれてたら、

信者はまだしもお坊さんはつらいよなあ。

お経読みながら、今日の昼めし何にしようとか?

喪服を着た美人未亡人へのあらぬ妄想をしたりとか?

あっという間に仕事なくなっちゃいますね。


読んで思い出したのが『ハート・オブ・ウーマン』という映画。

メル・ギブソン演じる、男根中心主義のイケイケビジネスマンが

ある日突然、女性の心が見えてしまうことになり、

女性の悩みや不満を知り、改心していくというストーリーだった。


しかしこの『高台家の人々』は、生まれながらにして

その能力をもっている。

相手の嫌な面を知ったり傷ついたり、人の心が読めることでの

あらゆることを、否が応でも経験してきているため、

もはやすべてを達観し、他人とは深く関わらず距離を置いて暮らしている。

いや、暮らしていた。空想癖を持つ冴えないOL

木絵ちゃんと出会うまでは。。。


心が読めること、読まれることでの、

ストーリー自体ももちろんおもしろいのだが、

母も書いている通り、とにかくこの木絵ちゃんの

空想力、妄想力こそがこのマンガのハイライトだろう。


バカバカしくもイマジネーション溢れまくる

その空想力に、お相手の高台光正はもちろん、

その家族(全員人の心が読めるテレパス一家!)も

夢中になってしまうのだ。

それはもちろん、読んでいる我々も。


光正と木絵ちゃんの恋の行方も楽しいのだが、

妹や弟、それからイギリスの大富豪のお嬢様だった祖母と

日本人留学生の祖父との不器用な恋など

サブキャラ達のストーリーもいい。


森本梢子の漫画、読んだことなかったのに

『アシガール』も『デカワンコ』も夢中で読んでしまった。

オススメです。


『高台家の人々』 

母  ★★★★☆ 4.5

息子 ★★★★☆ 4.3


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第1回『鬼滅の刃』

第3回「猫のお寺の知恩さん」

宮元 健一郎
宮元 健一郎

宮元 健一郎 KENICHIRO MIYAMOTO

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1973年鹿児島生まれ。福岡市在住。
(株)利助オフィス 所属
広告プランナー・クリエイティブディレクター
やっぱりポップカルチャーと「あの頃」が好きなオリーブおやじにして、青春ゾンビ。