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74歳の母が、今日もマンガを読んでいる。第3回:『猫のお寺の知恩さん』オジロマコト

74歳の母が、今日もマンガを読んでいる。第3回:『猫のお寺の知恩さん』オジロマコト

◎美人で年上のおねーさんと高1男子のふたり暮らし♪ドキドキ縁側系ラブコメ♥



日常が少しづつ戻りつつある今日この頃。

庭いじりなどしながら、母は変わらずマンガを読んでいるようです。


今回の作品はビッグコミックスピリッツで連載中の『君は放課後インソムニア』が、各方面で大絶賛されている青春マンガの旗手、オジロマコトによるキラキラ日常縁側系ラブコメ(なんじゃそれ?笑)『猫のお寺の知恩さん』。


僕も個人的に大好きな作家ですので、鼻息荒くご紹介したい思ってます。

それではいつものように母からのメールから。


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田舎の貧乏寺にばあちゃんと住む

19歳の娘、知恩さん。

その寺に16歳の少年がやってきた。

少年は幼い頃この寺に預けられて

知恩さんと過ごしたことがある。

この思い出に惹かれて

田舎の高校留学を決めたのだ。


猫6匹に囲まれてゆっくりと

暮らしている知恩さんと、

都会から来た少年・源との交流が、

源の高校生活を軸に進展していく。


コンビニもネオンも喧騒も無い村での

自由で伸びやかな生活。

その様子が力強く、しかも繊細なタッチで

美しく描かれる。


主人公の知恩さんは、

寺の住職であった祖父が亡くなってから、

その寺を維持するために

奮闘しているのだがその努力はさりげない。

周囲への心配りに押しつけがましさがないから

ひねくれ女子高生や、

厄介な檀家の爺さん婆さんにも愛される。

知恩さんと話してみたいなー

周りの人をほっとさせるんだよね。

無理をしないで、

でも、真っ直ぐに芯を持って生きている。


この漫画は私が幼かったころの思い出を

目の前に浮かべさせてくれる。

夕陽に照らされてキラキラ光る

何万匹ものとんぼの羽。

夜の川辺を浮かび上がらせていた

数え切れない蛍。

その蛍をとって蚊帳の中に放した夏の夜。

貧しかったけれど、大らかな自然と

若かった両親に囲まれた幼い日々。

懐かしいというより切ない。心が震える。

なぜこんな気持ちになるのだろう。

穏やかで優しい漫画なのに。


それにしても猫がかわいい?

オジロマコトちゃん、本当に猫好きなんだねー

猫達の様々な仕草で

それぞれの個性が描き分けられている。

猫の毛の柔らかですべすべした感触まで

伝わってくる絵がとてもいい。

うちの猫が死んでずいぶん経つけど、

この絵を見てたら又飼いたくなった。


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母からの感想は以上です。


母の出身は宮崎県の国富町というところなんですが、川と山に囲まれ田園が広がる「ザ・日本の風景」というべきそれはそれは素敵な田舎町で、僕も幼い頃、夏休みはずっとここで過ごしました。


この漫画を読んで、母がそんな自然豊かな町で過ごした幼少期の記憶を呼び起こしたのは、必然でしょう。

それくらい、この作品に描かれる自然や、田舎町を舞台に流れる何気ない日常のスケッチは本当に見事で、読んでいると大袈裟ではなく、あの夏の午後に嗅いだ草いきれや、祖父の家のカビ臭い布団の匂い、外から聞こえる蛙の鳴き声なんかが、まざまざと思い起こされ、僕の心のやらかい場所をこれでもかとしめつけます。


設定としては、3つ年上の美人で血の繋がりのない遠縁のおねーさんと、ひとつ屋根の下、ドキドキの同棲!?という青年誌ならではの、ありがちボンクラ設定ではあるのですが、

そんなこと気にならないくらいの説得力がこの作品にはあると思います。


うまいんだよなあ!余計な説明なしに絵だけで登場人物たちの、ときめきや躊躇い、高揚や嫉妬といった細やかな心の動きを表現するのが。


ネタバレになるので具体的には言いませんが、甘酸っぱ過ぎて、アオハルかよ!と叫びながら走り出したくなるほどの名シーンがいくつかあります。


作家のオジロマコトは、現代青春漫画の旗手とも呼ばれているようですが、その評価に僕もまったく異存ありません。


スポーツのない「あだち充」とでも呼ぶべきその手腕は、現在連載中の『君は放課後インソムニア』では更に研ぎ澄まされ、青春マンガのひとつの到達ではないか?とさえ思わせるほどの切れ味を見せていますので未読の方は是非。


あと、もうひとつ。


タイトルにある「猫」たちの描写も、もちろん素晴らしいのですが、圧倒的フェチズムに溢れた「お尻」の描写がめちゃくちゃ良いです。これは裏テーマとして、担当編集者と入念に決めたと思うな。(なにせ1巻のファーストカットは境内を掃除する知恩さんのお尻から始まります。)

主人公の知恩さんは美人なんだけど、服装なんかちょっとダサくて、スタイルもどちらかというとむっちり。でも、しっかりもののくせに天然だったりするので、その肢体を、思春期男子の前で無防備にさらけ出す。そりゃ、源くんじゃなっくても身悶えしてしまうというもの!

このへんのフェティッシュで抑えめの描写が妙にエロくて、作家が女性というのがちょっと信じられないくらいの見事さです。


ということで!

全国の青春マンガファン、それから猫フェチ、尻フェチの皆さんまで。(笑)

広く、そして強くオススメしたい作品です!!



『猫のお寺の知恩さん』 

母  ★★★★☆ 4.3

息子 ★★★★☆ 4.7


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宮元 健一郎
宮元 健一郎

宮元 健一郎 KENICHIRO MIYAMOTO

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1973年鹿児島生まれ。福岡市在住。
(株)利助オフィス 所属
広告プランナー・クリエイティブディレクター
やっぱりポップカルチャーと「あの頃」が好きなオリーブおやじにして、青春ゾンビ。