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74歳の母が、今日もマンガを読んでいる。第4回:『ピアノの森』一色まこと

74歳の母が、今日もマンガを読んでいる。第4回:『ピアノの森』一色まこと

思わずスタンディングオベーションしたくなる。圧倒的感動ピアノストーリー。


今回は、1998年から2015年まで、実に18年にわたって連載された一色まこと氏による音楽漫画の金字塔『ピアノの森』です。

スラム街の娼婦の私生児として生まれた少年、一ノ瀬 海(カイ)が、森に捨てられたピアノに育まれ、一流のピアニストとして成長していくというサクセスストーリー。


一度聞いたらその音を正確に再現できる絶対音感を持つ海(カイ)と、かつて天才と呼ばれながら事故によってピアニスト生命を断たれた小学校の音楽教師・阿字野壮介との偶然の出会いが、少年の運命を変えていく。


また、海(かい)の才能に強く強く惹かれながらも、劣等感を抱かずにおれないピアニストを目指す少年・雨宮修平との友情や、ショパン国際ピアノコンクールを目指す若きピアニストたちの苦闘と交流もみどころ。


それではいつもどおり、母からのメールから。


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ああー、コロナコロナ

聞き飽きたーと理不尽な

独り言を言いながら、

巣篭もり生活を続けてる今日この頃。


孫たちに会えるのは

いつになるのかしらー。


こんな時慰めてくれるのは

やっぱり漫画よね。


今回のおすすめは『ピアノの森』

わたしの大好きな漫画。


ポーランドのワルシャワで

5年に1回行われる

ショパン国際ピアノコンクール。

世界最高峰と言われる

このコンクールを目指して

ピアニストを志す人々は幼い頃から

日々血の滲むような

努力を重ねている。


天性の才能を持ち

森に捨てられたピアノと

育った主人公の一ノ瀬海も、

やがてこのコンクールを

目指すことになる。


月の光に照らされて

ピアノを弾く少年と

かつて天才と謳われた

阿字野壮介との衝撃的な

出会いが、美しい。

深い心の交流が

ピアノだけではない

豊かな人間性も育んでいく


逆境にめげそうになる海を

常に励まし、力付け、

勇気と自信を与え続ける。

こんな先生がいたら

大抵の才能は花開くよね。

まして海君は天才だもの。

大輪の見事な花が咲く予感。


天才は往々にして

良き指導者にはなれないと

いわれるけれど、

この阿字野先生は

稀有な存在である。

こんな先生いないかなー  


さて、いよいよ

ショパン国際ピアノコンクール。

海は出場最年少17歳、

過去優勝者が出なかった

回もあるほど厳しい審査。

予選、1次、2次、ファイナルと

4回も真剣勝負に

挑まなければならないのだ。


ファイナルの海の演奏、

会場も私もドキドキ。

聴衆の1人になった気分で

海の演奏に耳を傾ける。

(漫画なのに耳を傾ける!)


突然のアクシデント、照明が消えた。

このことは逆に会場中を、

音のみに集中させるという効果を生み

海のピアノを際立たせた。

そのピアノの音は、

夜の森へと人を誘う。

風の音、葉ずれのささやき、

ひそやかな動物の足音まで。


聴衆は、そして私たち読者も

森にいながらピアノに耳を

傾けている。


第3楽章にはいると

さらに見事な展開が待っている。

ピアノは森を出て

ポーランドの大平原へと羽ばたいていく。

どこまでも広がる空、果てしない大地。

ショパンが愛したポーランド。

大平原の国をピアノの音は

風に乗ってどこまでも吹き渡る。

このシーンいいよねー

自分も一緒に風に吹かれてるもの。


ああ、終わった!! 

もう審査なんか

どうでもいいとおもう。


いや、ここからも見所!

審査の過程が超おもしろい。

審査員達のさまざまな思惑が交錯して、

最終結論にいたるまでの

下馬評も交えて

まるで会場にいて発表を待つ気分。


あとは読んでのお楽しみ。。


この作品を読んだ後、

ポーランドの地図と歴史を

調べてみた。

今まで関心がなかったけれど

ポーランドってベルリンの

すぐ傍にある広い国。


そして激動の歴史。

さまざまな国の支配を受けた

厳しく苦しい時代を経て、

ようやく今の平和を勝ち取った。

審査員達が我らのショパン、

ポーランドのショパンとこだわるのは

この歴史が背景にあるからなんだと納得した。

ニュースでしか見たことのない

遠い見知らぬ国だったけど、

この漫画を読んで

ポーランドに行ってみたいと思ったよ。


『ピアノの森』、是非読んでみてね。

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母からの感想は以上です。


いつも以上に、熱く、そして長いメールからどんだけ好きかが伝わります(笑)


でもそれも納得。音楽をテーマにした漫画は数あれど、その中でもきっとベストにあげる人も多いのでは?


ここを読んでいるみなさんの多くは音楽を愛する方たちだと思いますが、会場で立ち尽くすような、体中に鳥肌がたつような、全身の血が沸き立つような、あの音楽的感動体験をしたことがある人はみな、ジャンルは違えど主人公やそのライバル達が奏でるピアノに心を震わせることでしょう。


ワンダーな才能を持つ若者が、音楽の本場ヨーロッパに挑戦していく感じは、かの小澤征爾の自伝『ボクの音楽武者修行』も思い出しました。


また、主人公が放つ光に呼応するように共に切磋琢磨し、ときにはもがき、挫折する雨宮修平をはじめとしたライバル達の姿もとてもとても魅力的です。


未読の方は、一読をおすすめします!



『ピアノの森』 

母  ★★★★☆ 4.8

息子 ★★★★☆ 4.5


ピアノの森(1) (モーニングコミックス)をkindleで読む





第3回:『猫のお寺の知恩さん』オジロマコト
宮元 健一郎
宮元 健一郎

宮元 健一郎 KENICHIRO MIYAMOTO

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1973年鹿児島生まれ。福岡市在住。
(株)利助オフィス 所属
広告プランナー・クリエイティブディレクター
やっぱりポップカルチャーと「あの頃」が好きなオリーブおやじにして、青春ゾンビ。