文化CULTURE
その映画、星いくつ? 第24回 2025年1月 『室町無頼』『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』
「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。
X(元Twitter)だったかThreadsだったか、SNSでこんなポストを見かけた。
音楽が好きな若者に、CDとかレコードとか買うのかと聞いたら、「そこまで変態じゃありません」と言われたんですと。
「変態」・・・・・・なんだ。
きっと、毎月映画館に足を運ぶおっちゃんも、彼らに言わせると「変態」なんだろうなぁ。今月なんか、DVD持っているのに、スクリーンで観たことないからって、『パリ, テキサス』の4Kレストア版を観にいっちゃったよ。変態の極地ですかね?
しかし、映画館に行って初めてわかることもあるわけで。
今月は、ユナイテッド・シネマズに『室町無頼』を観に行った。昨年、ここで『ナミビアの砂漠』を観たときはそんなことはなかったと思うんだけど、流れた予告編がすべて邦画。外国映画はいっさいなし。
マーケティングとしては正解なのかもしれないけど、ここまで極端に外国映画を排除されると違和感を覚えてしまう。これって、観客は日本映画に囲い込まれて、外国映画という選択肢が与えられないってことでは?
なんだかカルチャーを取り巻く日本の環境の閉鎖性がこんなとこにも出てる気が。実際、外国映画には客が入ってないから仕方ないのかもしれんけど。
【1月の獲れ高】
気を取り直して、1月のおさらいを。※期待度と獲れ高は5点満点
1本目
室町無頼
公式サイト:https://muromachi-outsiders.jp/#original
2025年1月18日(土)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13
事前期待度 ★★★★
獲れ高 ★★
新年一発目からハズしてしまった。観に行ったのは公開2日目なのに、スクリーンが小さいので嫌な予感はしたんだけど。
飢饉に苦しむ庶民に、さらに重税を課す時の権力者に対し、反乱の狼煙を上げる武士、蓮田兵衛。景気は一向に上向かないのに、増税ばかりに前向きないまの日本政府に対する異議申し立てかとも思ったけど、そうじゃなかった。
この映画にはそんな高い志なんてない。
庶民が住む荒屋とか、路傍の骸骨とか、東山文化とか、室町時代をがんばって再現しようとしているのは感じた。しかし、一方で、物語は勧善懲悪。権力側は悪、庶民は善というシンプルな構図。
これなら、そんながんばって死体の山とか出さなくてもよかったんじゃないかな。
『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』と関連付けて論じている方もいるけど、いや、この映画には、あそこまで突き抜けた世界観はない。世界観がぶっ飛んでれば、大仰なセリフ回しも違和感なかったかも。
でも、そのあたりが中途半端だから、最後までなじめず。登場人物をリアルに感じない。堤真一に北村一輝などなど、キャストもハマっているのが逆に無難過ぎて記号になっちゃった。
死体の山も含めて、すべては記号。ホント、アニメを観ているような感覚に陥った。
一揆に至るまでのタラタラした展開に加え、途中、ジャッキー・チェンの「酔拳」みたいになっちゃうとこもあって、映画がすごーく長く感じた。
蓮田兵衛を演じる大泉洋は悪くないと思う。飄々としながらも、一揆の頭目にふさわしい抱擁力。まぁ、いつもの大泉洋と言えば、その通りなんだけど。
兵衛を師匠と仰ぐ才蔵を演じるのは長尾謙。アイドルなのね。序盤の芝居は拙すぎて見てられないけど、だんだん板に付いてくる。アクションもがんばってたし、結構、いい役者になるかも。
映画のなかで、血が通っているのは、この2人だけかもしれない。
『SHOGUN 将軍』のゴールデングローブ賞受賞で、時代劇ブームが来るなんて言ってる人もいるけど、この映画を観た限りでは、たぶん無理。
2本目
ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件
公式サイト:https://www.culture-pub.jp/goldfinger/
2025年1月25日(土)T・ジョイ 久留米
事前期待度 ★★★1/2
獲れ高 ★★★
主演がトニー・レオンじゃないと成り立たない映画。
彼が扮するのは「天才詐欺師」チン。着の身着のまま香港に流れ着く時点では、ただの貧しい青年技師に見える。どこで彼のなかに「悪」が芽生えたのか。それともその萌芽はもともとあったものなのか。
劇中である人物が「金は人の心を黒くする」みたいなことをつぶやく。そういうこと?
しかし、終盤、仲間が次々と悲惨な末路をたどるのに、チンは心動かされることなく、ただ保身に専念する。その姿を見ていると、資本主義にアタマをヤラれて、悪事に手を染めたわけではなく、もともと冷酷な男だったのかもと思った。
でも、観客はその本性に気が付かない。だって、トニー・レオンだもの。その口元にはいつものスマイルが。金の亡者かもしれんけども、悪い男ではないのではなんて、ついつい思ってしまう。
こんなキャラは、トニー・レオンにしか無理。ホントはむっちゃ悪いやつなのに・・・・・・。
で、実のところ、チンの正体は「天才詐欺師」なんてかわいいもんじゃなく、「白い手袋」、要はマネロン業界の大物だったというオチ。金に取り憑かれていたのは間違いないけど、金ピカのビルが欲しいとかってわけではなく、ただ、金をグルグル回せば、それでOKだったんだな。
だから、チン自身の欲望がどこに向かっているのか、周囲もなかなか理解できない。でも、儲かるからいっちょ噛んでしまう。で、振り回された挙句、なんか儲かってんだから損してんだか、よくわかんねーという状態になる。
カネがカネを産むっていうのは、資本主義の本質だから、こういうことは現代の日本でも起こりうる。要は、カネを持っているやつは富む。そうでないやつら浮かび上がることは難しい。日本だけではなく、それが世界の現実なのだった。
映画はいいテンポで進んでいくんだけど、チンへの資金提供役の正体が明かされてからは、話はほとんど動かず。結果的に、映画的なカタルシスは感じない。それに加え、チンの怖さが直感的に感じられるシーンがないなど、作劇上の不満が残るのは否めない。
アンディ・ラウは、本人の芝居云々ではなく、役自体が地味。刑事役はチンと同年代ではなく、ちょっと歳上という設定の方がよかったかも。
おもしろかったけど、期待値には届かずってのが、正直なところかな。
【2月はこの映画に賭ける!】
2025年は低調なスタートだったけど、そのうちイカす作品にも当たるでしょう。
まずは、1月に積み残した作品から。
俳優ジェシー・アイゼンバーグの監督第2作『リアル・ペイン 心の旅』は、第97回アカデミー賞で助演男優賞(キーラン・カルキン)と脚本賞でノミネートを果たすも、作品賞は逃す。ポーランドを舞台としたロード・ムーヴィー。ちょっと地味かも。1月31日(金)公開。
三池崇史監督の最新作は、格闘家、朝倉未来の自伝にインスパイアされた『BLUE FIGHT 蒼き若者たちのブレイキングダウン』。朝倉はエグゼクティヴ・プロデューサーも務める。お金持ってるのね。格闘技に青春を賭ける2人の若者が主人公。予告を観た限りでは、ファイティング・シーンに迫力が欠けるのが気になるところ。1月31日(金)公開。
スペインの名匠、ペドロ・アルモドバル監督初の英語作品『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は、ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞。安楽死がテーマの重めな一作。ティルダ・スウィントンが末期ガンの患者、ジュリアン・ムーアがその友人を演じる。1月31日(金)公開。
音楽ネタはブラーのドキュメント『blur:To The End ブラー:トゥー・ジ・エンド』『blur:Live At Wembley Stadium ブラー:ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム』の2本に尽きる! 後者は2023年のライヴ・ステージの記録。後者はそこに至るまでのバンドの動きを追ったもの。ライヴは音源もリリースされているんだけど、これがすごくカッコいい。後者だけでも行くべきか。両作とも1月31日(金)公開。
2月は、予想通り第97回アカデミー賞ノミネート作品が目白押し。
作品賞やエイドリアン・ブロディの主演男優賞も含め、10部門にノミネートされたのが『ブルータリスト』。ホロコーストを生き延びてアメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家の半生を描く。ゴールデングラブ賞では、ドラマ作品賞、ドラマ最優秀男優賞、最優秀監督賞を奪取。アカデミー賞でも本命と見られている。2月21日(金)公開。
『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』は長編ドキュメンタリー賞の本命。パレスチナ人青年とスラエル人青年の友情の軌跡。パレスチナ人の苦境は現在進行形。題材は重いけど、目を逸らすわけにはいかないか。しかし、福岡市の公開はよりによってアソコの劇場・・・・・・。2月21日(金)公開。
『セプテンバー5』は脚本賞ノミネート。1972年のミュンヘンオリンピックで起きたパレスチナ武装組織によるイスラエル選手団の人質テロ事件という、微妙な題材。親イスラエルの姿勢を明確に打ち出しているドイツとアメリカ合作だし、なんだか臭い。2月14日(金)公開。
『聖なるイチジクの種』はアカデミー賞のドイツ代表だけど、監督のモハマド・ラスロフはイランからヨーロッパへ亡命した人。女性が不条理な立場に置かれている、祖国を舞台にしたサスペンス・スリラーらしい。第77回カンヌ国際映画祭 審査員特別賞受賞作品。2月14日(金)公開。
『Brotherブラザー 富都(プゥドゥ)のふたり』はマレーシア・台湾の合作映画で、アカデミー賞マレーシア代表。クアラルンプールのスラムでもがく不法滞在者の若者2人の絆を描く。2月14日(金)公開。
ドリームワークスのアニメ作品『野生の島のロズ』は長編アニメーション賞ノミネート。母性に目覚めるロボットの話。2月7日(金)公開。
6部門ノミネートの『ANORA アノーラ』と、8部門ノミネートで、現在のところ『ブルータリスト』の最大の対抗馬と目されている『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』は2月28日公開なので、3月へ先送り。
アカデミー賞関連以外の作品も少しだけ紹介しよう。
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド』は全世界同時公開。失速気味のMCUを救うことができるか? 2月14日(金)公開。
日本映画では、『ファーストキス 1ST KISS』が気になる。TVドラマ『カルテット』『大和田とわ子と三人の元夫』でもタッグを組んだ、坂元裕二脚本、松たか子主演による一本。実のところ、予告編で物語のネタは、ほぼ割れている。あとは、どんな結末を迎えるのかという点だけ。それを確かめるだけに、劇場に足を運ぶのは結構微妙だな。2月7日(金)公開。
音楽関連の注目作は、『エリック・クラプトン「クロスロード・ギター・フェスティヴァル 2023』。クラプトンには食指が動かないんだけど、ライヴのゲストがなかなか豪華なメンツ。スティービー・ワンダーに、ジョン・メイヤー、シェリル・クロウ、カルロス・サンタナなど。2月7日(金)公開。
もう一本。『MR. JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』は、ジミー・ペイジになりきってギターをプレイすることに人生を捧げた日本人サラリーマン、ジミー桜井のドキュメンタリー。なかなかの感動作との噂。2月21日(金)公開。
★2月の2本★ ※期待度は5点満点
決めました。
キーランの芝居だけでも観る価値あるでしょう
リアル・ペイン 心の旅
期待度 ★★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 96% 観客 81%
2025年1月31日(金)公開
2024年製作/アメリカ映画/上映時間90分
監督:ジェシー・アイゼンバーグ
出演: ジェシー・アイゼンバーグ、キーラン・カルキン ほか
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/realpain
ゲッ!上映時間3時間越え・・・・・
ブルータリスト
期待度 ★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 93% 観客 81%
2025年2月21日(金)公開
2024年製作/アメリカ・イギリス・ハンガリー合作映画/上映時間215分
監督:ブラディ・コーベット
出演: エイドリアン・ブロディ、ガイ・ピアース ほか
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/the-brutalist
吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!
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