文化CULTURE

その映画、星いくつ? 第20回 2024年09月 『ナミビアの砂漠』『ヒットマン』

「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。


814日、フランスの国民的俳優アラン・ドロンが亡くなった。


「・・・・・・誰、それ?」と40歳前の人は思ったかもしれん。


我々、五十路のおっちゃんが小学生のころは、「美男子」と言えばアラン・ドロン。テレビCMにもバンバン出ていたし、老若男女にかかわらず日本で彼を知らない人はいなかったんじゃなかろうか。





外国人俳優が日本であれほどの知名度を誇っていたとは、いまと比べると隔世の感がありまくり。


でも、振り返ってみると、アラン・ドロンの時代ほどではないにしろ、1990年代までは日本国民にも外国人俳優の名前は浸透していた気がする。女優だとジュリア・ロバーツやメグ・ライアン、男優だとトム・クルーズやジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットあたり。彼らの名前は、中高生以上であれば、なんとなくでも認識していたんじゃなかろうか。


いまでは、ジュリア・ロバーツやメグ・ライアンをスクリーンで目にする機会はないけど、男優陣はまだまだ現役。でも、さすがに、みんないい歳になってる。ブラピは未だにカッコいいけど、次の誕生日で61歳だもんね。ジョニー・デップも同じ学年。『ミッション・インポシブル』シリーズで超絶アクションに挑戦し続けるトム・クルーズはなんと62歳。意外にも、レオナルド・ディカプリオはまだ49歳だった。


いずれにせよ、我々、おっちゃんはともかく、彼らのネーム・ヴァリューで20代以下のお客さんを呼び込むのには無理がある。洋画を観る人が激減しているのは、フレッシュなスターが不在だからかもしれない。


今年の上半期の映画興行収入については7月に触れたけど、洋画でトップ10に唯一ランクインした作品は、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』。では、主演のティモシー・シャラメが客を呼べるスターかと言うと、彼が主演したSF大作『デューン 砂の惑星 PART 2』がずっこけたことを考えれば、答えは自ずと出る。人気者だけど、彼にそこまでのパワーはない(涙)。


ブラピとジョージ・クルー二が久々に共演した作品『Wolfs』は、当初9月に日本での劇場公開が予定されていて、実際、僕も劇場で予告編を観た。しかし、その後、公開は中止となり、Apple TV+でのみ配信することに。要は、『オーシャンズ』シリーズでおなじみのスター2人の顔合わせでも、日本では客は入らないと判断されたわけだ。





いまや洋画は、洋楽同様、好事家だけが楽しむ閉じられたジャンルになっちゃった。このままスーパー・スターが現れなければ、ディズニー・アニメ以外の洋画は劇場では観られなくなる日が来ないとも限らない。あわわわわわ。



9月の獲れ高】


そんな状況にもめげず、9月のおさらいを。今月は邦画と洋画を1本ずつ鑑賞。


1本目

ナミビアの砂漠

公式サイト:https://happinet-phantom.com/namibia-movie/#modal

20240907日(土)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13

事前期待度 ★★★★★

獲れ高   ★★★★


いまどきの若者たち、それが「X世代」なのかどうかは知らんけど、彼らの生態についていろいろと勉強になった。これは予想しいていたことだけど、タトゥーを入れることにまったく抵抗がないとかね。あと、タトゥーだけじゃなくて鼻ピアスもノープロブレムとか、女の子たちは気軽にホスト・クラブに行ってウサを晴らすとか、女子高校生たちは永久脱毛に憧れているとか。


山中瑶子監督は、主演の河合優実も含めて、若い子たちと会話を重ねながら脚本を仕上げていったというから、実際、若者たちはこんな感じなんだろう。


同様に、河合優実演じる主人公カナの存在もリアル。映画を振り返ってみると彼女に翻弄され続けた2時間強なのだった。


序盤、カナが、恋人であるハヤシ(演じるは金子大地)に、満面の笑顔で歩道橋の上から手を振るシーンなんかは、昭和のアイドル映画を彷彿とさせる。なんか画質もそれっぽい。しかし、物語が進むにつれ雲行きが怪しくなる。


元の恋人・ホンダを捨てて、ハヤシとの同棲を始めるまではいいのだけど、なぜか、カナはやたらとキレ始める。理不尽にキレる。問答無用にキレる。


引越しのときにハヤシの荷物の中から見つけた、ある写真がカナの心に引っかかっていることは確かで、ついにはそれを元にカナはハヤシを罵倒する。それ以降は、もう歯止めが効かず、なにかにつけてキレてハヤシに暴力を振るう。


なぜそこまでキレるのか? その答えは最終盤に出てくる中国語に集約される。


「ティンプトン」つまり「わからん」


カナもなぜ自分がキレているのか、さっぱりわからない。荒れ狂う嵐のような感情の昂まりに、カナ自身も疲れ果て、「アタシってもしかしたらビョーキかしら」と不安になりお医者さんに相談。でも医者の診断は要領を得ないんだな。


それでもやたらと病名にこだわるカナ。なぜならそれが一つの答えになるから。でも、最後まで答えは出ない。わからないまま。


そこで浮き彫りになるのは、カナの恋人たち、ハヤシやホンダの軽薄さだ。彼らは「俺にはカナのことがわかるんだ」なんて口にするのだけど、本人もわからないのに、彼らにカナが理解できるわけなんてないのだ。人間はそんな簡単に「わかる」もんじゃないのだ。


彼らに求められていたのは「わかる」フリをすることではなく、「わからない」ことを共有することだったんじゃないかなぁ。


わからなければ、わからないままでよい。嵐が去れば、「ナミビアの砂漠」のような平和で静謐な時間が訪れる。ラストにカナとハヤシが顔を見合わせて、思わず吹き出すシーンは、そんな平穏さを予感させた。


個人的には、唐田えりか演じる隣人の役がうまく消化できず減点してしまったけど、心に残る傑作。



2本目

ヒットマン

公式サイト:https://hit-man-movie.jp

20240914日(土)KBCシネマ

事前期待度 ★★★1/2

獲れ高   ★★★1/2


ウェルメイドでアンモラルなコメディ。


「行動の変容が人格の変容を促す」なんて、自己啓発本に書いてそうな理論を体現するのが、グレン・パウエル演じるゲイリー。


彼は大学講師なんだけど、副業として警察のおとり捜査を手伝っていて、さまざまな人格を演じ分ける。しかし、アドリア・アルホナ演じるマディソンという女性から夫殺しを相談されたことをきっかけに、その後も、架空の殺し屋・ロンを演じ続けるハメに。


最初は、マディソンが本当のゲイリーに気づくのではないかとハラハラするんだけど、しばらく観ていると、ゲイリーの人格がロンに乗っ取られるのではないかと心配になってくる。


結局は、「乗っ取られる」というわけではなく、本来のパーソナリティと仮想のパーソナリティを隔てていた皮膜のようなものが、徐々に薄くなっていって、最後には2つのパーソナリティが溶解して新たなゲイリーが生まれたって感じかな。


しかし、仮想のパーソナリテイがまったくのフィクションかというと、そうとも限らず、元々、ゲイリーがマッチョでハンサムだったからロンを演じることができたわけで、そう考えると、自分を形成しているエレメントのどこにスポットライトを当てるかで、表に出る人格は変わってくるのかもしれない。


よく知らないけど。


この「自分の意思でなりたい自分になれる」というのが、この映画の核となるテーマなんだけど、ほかにもいくつかのメッセージをキャッチできる。


「世の中には殺されてもいい人間がいる」とかね。殺し屋を演じているうちにゲイリーはそう信じるようになったのかもしれない。あとは「男はマッチョだけでもダメ、ジェントルだけでもダメ」とか「性的衝動最強」とか「共犯関係こそ理想の関係」とか。


そんななか、観終わって一番響いたメッセージはなにかと言うと、「幸せをつかむためなら、モラルなんでものなに縛られてはダメだ」ということ。振り返ってみれば、マディソンは旦那殺しをゲイリーに依頼するくらいなので、モラルなんてものには頓着していない。


ゲイリーとマディソンが幸せを手にするためには、モラルを超越する必要があった。それを痛快ととらえるか、あかんやろーと思うかで、映画の評価は分かれるのかも。


個人的には、毒が含まれているから、この映画はおもしろいコメディになったと思うので、結末も含めOK


しかし・・・・・・だ。ルッキズムに支配された世界が古くさく感じたことも確か。マディソンがセクシーなラテン美女ではなく、普通の主婦だったらこんな展開にはならなかった。


男性も、結局はマッチョでイケメンが正義なんだよね。ゲイリーをマッチョなハンサム・ガイのグレン・パウエルが演じたから、この映画は成り立ったわけで、ほかの俳優では説得力半減だったな。


マッチョでもイケメンでも、さらに言うと若くもないおっちゃんは、少し複雑な気分で劇場を後にしたのだった。



10月はこの映画に賭ける!】


先月積み残した、927日公開作を見てみよう。


ゆるい殺し屋コンビが活躍する人気シリーズの新作が『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』。なんと舞台は宮崎市ですと。アクションもレベルアップしているとの評判。シリーズ12作はCSで観たけど、これは劇場に足を運ぶべきか。


犯罪都市 PUNISHMENT』は、マ・ドンソク演じる刑事の無敵ぶりが楽しいメガ・ヒット・シリーズ第4弾。敵役は、『悪人伝』でも共演したキム・ムヨルだけど、役回りはずいぶん違う。おもしろいのはわかっちゃいるけど、たぶん話の展開は「いつも」の感じだろうから、躊躇してしまう。


36年前のホラー・コメディ『ビートルジュース』の続編がなぜいま?・・・・・・という疑問は拭えないけど、『ビートルジュース ビートルジュース』はれっきとしたティム・バートン監督の新作だったりする。これがアメリカでは大ヒット! 予告観ても、おもしろそうだとは思えなかったんだけど。アメリカ人好みの映画ってことなんだろうか。


黒沢清監督、菅田将暉主演のホラー『Cloud クラウド』は、あらすじ読んでもなんだかさっぱりわかんないのが、逆に興味をそそる。


どれも捨てがたい・・・・・・。


秋めいてきた10月公開作は、不穏な空気感。


まずは、問題作まさかの続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。予告編を観て、本作の真の主役はジョーカーではなく、レディ・ガガ演じるハーリーン・クインゼルだと思った。ジョーカーを信奉する彼女の中に眠る狂気が、血飛沫とともに艶やかに花開く。しかし、アメリカ本国の批評家は賛否両論。前作とはまったく異なる世界観みたい。1011日(金)公開。


シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、内戦状態に陥ったアメリカを描く。アメリカ大統領選の1ヶ月前という絶妙なタイミングでの公開。トランプが勝っても負けても、アメリカの分断が深まることは必至だし、負けた場合は、内戦状態になるかもなんて話もあるので、この映画、シャレになんない。監督は『28日後』『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド。イギリス人だから撮れた映画かも。104日(金)公開。


ソウX』は、タイトル通り人気ホラー・シリーズの10作目。シリーズ最高傑作らしいけど、1作目しか観てないんだよね。1018日(金)公開。


最近、イギリス発の老人映画が多いような。『2度目のはなればなれ』は、名優マイケル・ケインの引退作だそう。90歳のおじいちゃんが、過去の記憶を遡る旅に出る。いやぁ、これは泣けるやつ。妻の役のグレンダ・ジャクソンはこの作品が遺作だって。ヤバい。ハンカチ必須。1011日(金)公開。


チェ・ミンスク、ユ・ヘジンという、おなじみのおじさんが顔をそろえた韓国スリラー『破墓/パミョ』は、2024年韓国No.1ヒットらしい。まだ、終わってないけど、2024年。公式サイト見ても、なにがおもしろいんだかさっぱりわからず。ホラーっぽいけど、「サスペンススリラー」なのね? 配給会社、やる気ないのかな。どこよ、配給? あ・・・・・・あそこか。1018日(金)公開。


ハヌ・マン』はインド産スーパーヒーロー映画。「2024年インド映画世界興収No.1』ってすごいのかどうか、よくわからない。ハヌマーンて日本タイ合作のウルトラマン映画(古い)に出てきたので、タイの神様かと思っていたけど、古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』で活躍する猿の将軍だって。主人公は、その「猿の将軍」の力を手に入れてスーパーヒーローになるんだとか。バカバカしい。でも、おもしろそう。104日(金)公開。


懐かしの日本のロボット・アニメの実写版『ボルテスV レガシー』の制作国はなんとフィリピン。タイトルは覚えてるけど、どんなんだっけ? 予告を観ると『パシフィック・リム』のショボイ版か? 間違いなく珍品だな。1018日(金)公開。


近未来の日本の地方都市を舞台とした『HAPPYEND』は、「青春映画の新たな金字塔」との触れ込み。プロデュースにカタカナの名前が並んでいることからもわかるけど、海外資本も入れての制作ってのが、いまっぽい。104日(金)公開。


1時間にも満たないインディ映画ながら、海外でも大きな反響を呼んだ日本映画が『最後の乗客』。東北大震災に関連した物語。「目的地で物語は<形>を変える。」というコピーだから、ツイストの効いた脚本なんだろうな。幽霊譚だったら怒るけど。1011日(金)公開。


「伝説のロッカーと若き歌姫の誕生を描いた音楽ファンタジー」なる『はじまりの日』。これは一歩間違うとスゴくダサい一本になりそう。公式サイトにはピーター・バラカンのコメントが載ってて、「演技が自然だった」ってあるけど映画自体は褒めてないんだなぁ。1011日(金)公開。


音楽ドキュメンタリーの注目作は、今年4月に逝去したフジコ・ヘミングを追った『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』。こういうのは音がいい劇場で観た方がいい。1018日(金)公開。



10月の2本★ 期待度は5点満点


決めました。結局、落ち着くところに落ち着いた感。


2024年ならではの映画は観とかなきゃ

シビル・ウォー アメリカ最後の日

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 81% 観客 70%

20241004日(金)公開

2024年製作/アメリカ映画/上映時間109

監督:アレックス・ガーランド

出演: キルスティン・ダンスト、ケイリー・スピーニー ほか

公式サイト:https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/




前作を超えるインパクトはあるのかな?

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ

期待度 ★★★1/2

Rotten Tomatoes 支持率:評論家 00% 観客 00%

20241011日(金)公開

2024年製作/アメリカ映画/上映時間138

監督:トッド・フィリップス

出演: ホアキン・フェニックス、レディ・ガガ ほか

公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/




吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!


第19回 2024年08月 『ツイスターズ』『ソウルの春』

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。