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転がる石のように名盤100枚斬り 第13回

転がる石のように名盤100枚斬り 第13回

#88 At Folsom Prison (1968) - JOHNNY CASH

『アット・フォルサム・プリズン』- ジョニー・キャッシュ



今回のお題は、ジョニー・キャッシュなのであります。僕はこの人のことが、どうにもわからない。


いや、素晴らしいシンガーだし、曲もいい。それはわかる。わからないのは、彼をフェイバリットに挙げるミュージシャンの多さだ。スプリングスティーンにニール・ヤング、コステロにボノ、キース・リチャーズ、ジョー・ストラマー、トム・ウエイツなどなど、みんな、ジョニー・キャッシュをリスペクト。


音楽に革命を起こしたわけでもなく、大ヒット・アルバムをものにしたわけでもない(ヒット曲はプレスリーに次ぐ数を放っているらしいけど)、オーソドックスなシンガーであるジョニー・キャッシュが、なんでそんなに大きな影響力を持っているのか、そこがわからない。


本人の人生を辿れば糸口が見つかるかもしれない。しかし、とっかかりがない。こんなことなら、伝記映画観とけばよかった。『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』。日本語の副題がダサいので油断していたけど、映画評価サイト『ロッテン・トマト Rotten Tomatoes』を見ると、評論家の83%、一般の観客の90%がこの映画を支持している。


うぐぐ。なんで、みんな、そんなにジョニー・キャッシュが好きなのさ???

こりゃ、実際に聴いた方が早いな。『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』88位にランクインした、『アット・フォルサム ・プリズン』を聴くことにします。


「プリズン」とあるので、

「あるきっかけで悪事に手を染め、お縄になった、まだ若い流れ者が、牢獄の中で自らの罪を悔いる」

てなストーリーの歌が並んでるんだろうなぁと、一人合点してたが、そうではなくて、フォルサム刑務所(プリズン)で、受刑者を前に開催したライヴを収録したアルバムだった。


知らずに聴いたら、会場が刑務所だとは思わない。リラックスした雰囲気でステージは進む。1曲目は「フォルサム ・プリズン・ブルース Folsome Prison Blues」。刑務所のテーマソングみたいなもんだし、そりゃ、盛り上がるよなぁ。軽快なロックンロールだけど、主人公は「あるきっかけで悪事に手を染め」たわけではなくて、「ある男をリノで撃った。意味はないけど、そいつが死ぬとこをろを見たかったんだよね」てんだから、かなりの外道です。


以下、ごきげんな感じでライヴは続く。でも歌ってることは「コカインキメた後に彼女撃ち殺した」とか、「死刑になるまであと25分(涙)」とか、「あれは牢獄破りなんかじゃない。本人死にたかったんだよ」とか、どうも穏やかじゃない。

それでも、ラストの「Greystone Chapel グレイストーン・チャペル」では、「牢獄の中では、身体は囚われているけど、魂はイエスによって解き放たれる」と、救済めいたことも歌っている。


ジョニー・キャッシュのライヴを聴くのは初めてだけど、正直言って、かなりいい。観衆を目の前にした時の彼のヴォーカルの深みは、スタジオ盤にはないものだろう。

でも、なぜ、彼は刑務所での実況盤を出そうなんて思ったのか? 今度はそこがわからない。


試しにウィキペディアを開いてみた。結構なボリュームだ。色々なキーワードが散りばめられているけど、焦点を結ばない。とりあえず、『アット・フォルサム・プリズン』に関連のありそうな記述を拾うことにする。


「憂鬱と謙虚な振る舞いを併せ持つ反逆のイメージ、刑務所の無料コンサート~で知られている。」刑務所のコンサートは彼の十八番だったんだね。

「フォーサム・プリズン・ブルース」という項もあった。曰く「キャッシュは囚人に対して大きな慈悲を感じていた。


ジョニー・キャッシュは、子供のころから、ゴスペルに大きな影響をうけてたそうな。サン・レコードのオーディションでも、ゴスペルを歌っている。となると、刑務所の受刑者たちに対する「慈悲」ってのは、キリスト教的なものなのか。

でも、ジョニー・キャッシュの歌と、キリスト教的な押し付けがましさは、どうもマッチしない。


そもそも、彼の歌から感じるのは、受刑者に対する「慈悲」なんてものじゃない。

ジョニー・キャッシュがいるのは、ステージの上だけど、その目線は、オーディエンスである受刑者と、まったく同じだ。


受刑者を断罪するわけでもなく、赦すわけでもなく、「寄り添う」なんて傍観者でもなく、ただ、目の前の罪人たちと同じ時間を分かち合う。そのことで罪人たちが、たとえ牢獄で一生を終える運命でも、生きていることを祝福する。


「俺もお前たちと変わらない」

「一歩間違えば、俺もそっちにいたよ」

「でも、とにかく生きていこう」


これって、キリスト教というよりも、浄土真宗ではないのか。

親鸞の「悪人正機」(「仏様は善人を救ってくれるんだから、悪人ならなおさら救われる」ってやつ)を、理解しようとしても「???」で、『歎異鈔』(梅原猛先生の現代語訳・解説入り)を繰り返し読んだ時期が数年前にあった。結局「よくわかんね」って感じだったけど、「もしかしたら、これ?」と思ったのが、上に書いたような諸々なのだった。


つまりは、善人も悪人も関係ない、生きてるってのはすごいことだから、生きていくんだぜ、ってこと。


ジョニー・キャッシュの歌声は、だから優しく聴こえるのか。確かに、こんな歌は、彼にしか歌えない。


ここまで考えると、浄土真宗原理主義者を目指す僕としては、ようやくジョニー・キャッシュのすごさが腑に落ちるのだった。


はい。異論も認めます。


もちろん、キリスト教が与えた影響は計り知れない。でも一方で、彼はキリスト教に失望していた気がする。この辺を突き詰めると、さらにすごさが理解できるかも。


まずは、伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でも観ようかね。


まだまだ、わかんないことはたくさんあるけど、とりあえず、ジョニー・キャッシュ、すごい!ってことで・・・・・・




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★






長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。