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土曜日の夜に 第37回 Text by Masami Takashima
日差しがほんの少しだけ柔らかくなってきた。木々の影が伸びてきてああ夏ももうすぐ終わりかとほっとしたような、心残りがあるようなそんな気持ちになった。気温の高さに移動も躊躇してしまいがちだけれど、水分取りながらもう少しだけこの時期を楽しみたいなと思っている。先日ある美術館で見た夏期の企画展示がとても素晴らしかったので会期中にもう一回見に行こうかなと思っているところ。
夏が始まった頃、音楽アプリのおかげで久しぶりにトリマトリシカの音楽と再会した。平岡恵子/加藤哉子二人の音楽家によるユニット。2000年代前半に私は一度ライブを拝見したことがあり、ギターだけではなく様々な楽器を用いた演奏にとても感動したことを覚えている。00年代のアルゼンチンや北欧の空気感を纏いながらも軽やかさと音楽愛がぎゅっと詰め込まれていた。20年近く経ったが、現在のお二人の音楽をまた聴きに行きたいと思った。
歌じゃないと埋められない。そう思った期間があった。なんだか映画の中を彷徨っているような現実みのない時間を過ごす中「いい歌が聴きたい」と渇望した。
時にはとにかくひたすらに電子音だけでいい日もあれば、エイトビートとパワーコードさえあれば十分みたいな日、展開不明なJAZZに頭がすっきりすることもあるし、虫の声だけでいい。そういう日もある。私はその頃とにかく歌が聴きたかった。それは歌詞を聞きたいとかそういう話ではなくて、心が震えるような歌(声)が聴きたいと思ったのだった。「いい歌」という曖昧で振れ幅のある言い回しは、人によって捉え方も解釈も異なるだろうけれど、私にとっては身体から溢れ出る情熱のようなものだと思っている。以前も書いたかもしれないが、とある同世代の日本の歌手の歌を私は何気なく聴いていたはずなのに(しかも洗濯物を畳みながら)、そのまま手が止まって動けなくなった。たくさんの覚悟と並々ならぬ努力が歌から溢れ出ていて、全身を使った表現はメロディーになった言葉も(その内容も)悠々と乗り越えてただただ美しかった。
「声」という音楽。それは身体を使った音楽、表現せざるを得ないほどの切迫した情熱と覚悟が感じられる音楽、時には思慮深いけれど軽妙で洒落のある音楽。邂逅し、心を揺り動かされる。長く歌っている人は経験を重ねながら声が移ろいでいくことも喉の使い方も知っている。
あの時なぜ私はあんなにいい歌を渇望していたのか。声でしか満たされない時がある。ずっと考えているけれど明確な答えに辿り着けないままだ。歌は魔物のようなものだ。脳に侵食していくようなビリビリしたもの。それは音楽そのものなのだから。
私事ですが、新しいアルバムを9月20日にリリースします
4組のゲストを迎え多数の音像と情熱を散りばめた作品になりました。
どうか聴いていただけますよう
Masami Takashima 6th Album『Polyphonic』
特設サイト https://twin-ships.com/masamitakashima/polyphonic
youtube https://youtu.be/W8s_oy_kZfE?si=ZvR65oPwsMihFNbN
◻︎アーティスト名 : Masami Takashima
◻︎タイトル : Polyphonic
◻︎FORMAT : CD/配信
◻︎発売日: 2022年9月20日(水)
◻︎LABEL: TWIN SHIPS RECORDS

1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com
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