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転がる石のように名盤100枚斬り 第20回

転がる石のように名盤100枚斬り 第20回

#81 The Clash (1977) - THE CLASH

白い暴動 - ザ・クラッシュ


パンク・ロックとの出会いは、高校3年の時。ザ・クラッシュのサード・アルバム『ロンドン・コーリング London Calling』(1979年)だった。買ったのではなく、借りたんだけど。


思えば、貸してくれたのは、当時は我が母校、福岡県立田川高校で国語教諭として勤務していた、現パーソナリティ&音楽紹介業の椎葉ユウさんだった(僕は代わりにザ・スミスのアルバムを貸してあげた)。



しかし、このアルバムでのザ・クラッシュはすでに音楽的に成熟していて、「パンク」というよりも「ムッチャかっこいいロックンロール」という印象が強く残った。


次に好きになったパンク・バンドはザ・ブルーハーツだったわけだけど、彼らが奏でる音楽は、「パンク」以前に「優しいロック」だったので、当時はパンク・ロックを聴いているという意識はない。



思い起こすと、「パンク」は、あえて意識する必要がないくらい、80年代後半の日本で、一般化していたんじゃないか。


「パンクな人」=「モヒカン、安全ピン」なんてステレオ・タイプを社会全体が共有していただけではなく、その思想も若者のカルチャーにしっかり根を下ろしていたように思う。


80年代中盤から90年代初頭、トンがった(これも80年代ぽい形容詞)女の子たちは、パンクの立役者の一人が立ち上げた、アヴァンギャルドなファッション・ブランド『ヴィヴィアン・ウェストウッド』に夢中だったし(筑豊にはそんな子おらんかったけど)、当時人気を集めたサブカル雑誌『宝島』や『ビックリハウス』にも、「DIY」「反権力」といったパンクのスピリットが感じられた。



こんな時代背景に加え、バンド・ブームの影響もあり、国内のミュージック・シーンにおいて、パンクは、メイン・ストリームに位置していたように記憶している。


その一方で、欧米のメジャー・シーンでは、アウト・オブ・デイトなジャンルと見なされていた。ビリー・アイドルなんていうなんちゃってパンク・シンガーがチャートインするくらいだもんなぁ。


ガンズ&ローゼズの大ブレイクもあり、僕の周りの洋楽好きも、パンクじゃなくてハード・ロックを聴いていた。



『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』81位にランクされている、ザ・クラッシュのファースト・アルバム『白い暴動』を、僕が初めて手に取ったのは、そんな時代。


思えば、パンク・ロックとの本当の出会いは、『ロンドン・コーリング』ではなく、このアルバムだったのかもしれない。


当時、僕は東京で大学生をやっていて、軽薄な音楽を聴きながら毎日を無為に過ごしていただけだけど、ザ・クラッシュの音楽は、そんなアホの心にも刺さった。



演奏も歌も決してうまくはない。でも、なんつーか、すごく「ナマ」っぽい。そして濃い。たたみかけるように言葉が飛んでくる。


しかも、ポップでキャッチーなのがすごい。「ロンドンは燃えている! London’s Burning」なんてフレーズ、出来過ぎな感じさえする。「リモート・コントロール Remote Control」の手拍子は、パンクのイメージからはかなり遠いけど、歌詞はレコード会社や政治家を糾弾する辛辣な内容。このギャップも、またパンク。


ザ・クラッシュは、ジョー・ストラマーとミック・ジョーンズのツイン・ギターなんだけど、このアルバムでは、ほとんどのギター・パートをミック・ジョーンズが演奏した。その理由は、ジョー・ストラマーが「スタジオ録音はパンクっぽくない」と言って演奏を渋ったからだ。ジョー、何言っているかよくわかんないけど、これも、またパンク。



ジョーがあまりギター弾いてないってんだから、1曲目の「クラッシュ・シティ・ロッカーズ Clash City Rockers」のイントロのジャーンジャジャーンていうギター・カッティングもミックなんだろうなぁ。改めてアルバムを聴いてみよう。いつものように、AppleMusicで検索してプレイ。



・・・・・・ん? ジャーンジャジャーンてギターじゃない。



これは「ジェニー・ジョーンズ Janie Jones」だなぁ。小粋な感じやねぇ。



いや、これぢゃない。



『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』98位、エルヴィス・コステロ『ニュー・イヤーズ・モデル』に続き、ここでも輸入盤の罠が。



調べてみると、僕が四半世紀の間、ザ・クラッシュのファーストアルバムだと思って聴いてきたCDは、『白い暴動』の一部を、シングルB面曲やアルバム未収録曲に差し替えたアメリカ編集盤であった。オリジナル盤14曲から4曲削って、5曲追加とか、これはもう別物。『ニュー・イヤーズ・モデル』以上にショックである。



僕の「パンク・ロックとの本当の出会い」とはなんだったのか?



しかし、ここで疑問が浮かぶ。



『ローリング・ストーン』誌が『史上最も偉大なアルバム』81位に選んだのは、イギリスのオリジナル盤なのか、それともアメリカ編集盤なのか?



『ローリング・ストーン』誌のレビューでは、収録されている5曲について言及されているが、そこには「クラッシュ・シティ・ロッカーズ 」「ハマースミス宮殿の白人 (White Man) In Hammersmith Palais」 が含まれている。そして、この2曲は、オリジナル盤には収録されていない。


つまり、『ローリング・ストーン』誌が81位に選んだのは、あくまでもアメリカ編集盤であって、オリジナル盤ではないということだ。



アーティストの意向を無視し、レコード会社の商売を優先させた編集盤なんて、まったくもってパンクじゃない・・・・・んだけど、聴き比べると、明らかにアメリカ編集盤の方がいいんだなぁ。


これは、自分が聴き慣れているからではない(マジで)。オリジナル盤はメリハリがなく冗長に感じるのに対し、アメリカ編集盤では、シングル曲を配したことにより、曲調もバラエティに富み、ザ・クラッシュの音楽的なポテンシャルが十分に感じ取れる。


オープニングの「クラッシュ・シティ・ロッカーズ 」は、ザ・クラッシュの名刺代わりの一曲。イントロからテンションが上がる。


レゲエ色が前面に出た「ハマースミス宮殿の白人 」は、ザ・クラッシュがほかのパンク・バンドと一線を画していることを、いち早く証明した。


日本では、クルマのCMでもおなじみの「アイ・フォート・ザ・ロウ I Fought the Law」もアメリカ編集盤にしか収録されていない。


バンドに無断でシングルとして発売された「リモート・コントロール」に続けて、それに対する怒りを表明した「コンプリート・コントロール Complete Control」を置くところもニクい。



ザ・クラッシュ、最高!



・・・・・・いや、わかってますよ。



バンドは、こんな形にデビュー・アルバムが改変されることは決して望んでなかったはずだ。このアメリカ編集盤は、レコード会社の商業主義、御都合主義の邪悪な結晶だ。パンクへの冒涜だ!



それでも、僕はこれからも米国編集盤を聴き続けるでしょう。だって明らかに正規版よりもカッコいいんだもの。


ザ・クラッシュのみなさん、ごめんなさい。まったくもってパンクじゃない僕を許してください。


せめてもの罪滅ぼしに・・・・・・



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★1/2







以下イギリス盤になります。




長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。