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山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.24〜恋のかしいかえん

山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.24〜恋のかしいかえん

前にも書いたする気がするけれど、かしいかえんが今年で閉園だって聞いた。


 そこは東区民のコニー・アイランドで、恋と青春のワンダーランド。永遠に消えることのない甘酸っぱい思い出たちとともにある。


 隣接する博多湾がまだ埋め立てされていない頃はいろんな魚が釣れた。サヨリにフグにダボハゼ。海辺のボート屋はいつも閑散としていて、風情があった。かつて松本清張が「点と線」で描いた香椎の風景が色濃く残っていた。


 衝撃だったのはウルトラマン・ショー。M78星雲からかしいかえんを救いに来た使者だと信じて疑わないオレ。幕間にウルトラマンの休憩室であるテントを覗きこんだなら、ウルトラマンが半分脱皮していて、上半身は人間、下半身はウルトラマン。「あぢーっ」と扇風機にあたっているのを見たときのショックたるや。


 通っていた中学校はかしいかえんの隣にあった。それゆえ、恋の序章にまつわるもろもろは、たいていかしいかえんで行われる。授業中にあの娘との仮想デートを試みる。まず通ぶって裏門から入って、散策。最初にゴーカート、それからジェットコースターに乗って、観覧車でフィニッシュを決める。云々。笑。


 そういえば、同級生が高校時代に「恋のかしいかえん」って歌を書いてたな。数回しか聞いたことがないのに、今でもAメロはソラで歌える。あれはmade in 横浜の「ツッパリ・ハイスクール・ロックンロール」に負けていない生粋の東区クオリティーだと胸を張って言える。


 その昔は香椎球場が隣接されていて、西鉄ライオンズのキャンプも見ることができた。自分たちの出生を忘れないように、デビュー盤のシングルはそこで撮影した。


 福岡を出て30余年。もう関東の暮らしの方が長い。好きだった、愛していた、かわいがってもらったあの店もこの店も、どんどんなくなっていく。出ていった者が言えることじゃないけれど、失くなって欲しくないものはやっぱりある。


 実のところ、もはや実家もないし、福岡に帰ってもホテル暮らし。googleのストリートビューで実家のあたりを見てみようかと思ったけれど、怖くてできない。きっとそれはこころの中にあればいいんだと思う。


 嗚呼、かしいかえん。なくなる前に再訪したかった。「コロナのバカ野郎!」と、唱えながら、記憶をたどって「恋のかしいかえん」を歌ってみるのだった。


 アーメン。


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山口洋
山口洋

山口洋 HIROSHI YAMAGUCHI

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ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。

1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp