酒場SAKABA
山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.43〜ソロツアーと人生
忙しかった6月をにゃんとか切りぬけて、今日からソロツアーに復帰。新横浜から京都に向かう新幹線でこれを書いている。
ソロツアーを始めたのは1992年ごろだったと思う。ツアーというよりはバンドでは経費がかさんでいくことが叶わない町に、「歌の宅配便」という企画で出向くようになった。これは記憶が正しければ2000年ごろまで続けた企画で、北海道から沖縄まで当時担当していたラジオ番組とも絡めて、とてもいい経験をもたらせてくれた。
なによりもその町に暮らす市井の人々と知りあって、その土地ならではの風土や歴史に興味をもったこと。アメリカ大陸を1日に1000キロ移動しても、大してなにも変わらないけれど、この島国はほんの30キロ移動しただけで、言葉も食べ物も微妙に変化していくこと。ほんとうは多様性に満ちていることを知ったのは大きかった。
95年ごろに開始したソロツアーはまだ大名行列のようなもので、イベンターが仕切り、マネージャー、エンジニアにローディーも同行していて、オレはステージに上がって歌うだけだった。
なんだか、違うなと思った。こんなん、旅じゃない。
2000年を越えたあたりから、ブッキングを除いて(この仕事はまったくオレに向いていないから未だに自分ではやらない)すべてを一人でやるようになった。
思い返せば、ここからがほんとうの旅だな。
最初は背中にギターを背負って、真冬の日本を北から南まで旅して、九州で病院送り。そりゃ、毎日全力で演奏して、全力で飲み続けたら、そうなるに決まってる。
この稼業の過酷さを知った。笑。
次にクルマで移動し始めた。これはすこぶる自由だった。行きたいときに行きたいところへ行ける。家からサンダルのままツアーに出発だってできる。楽器だっていろいろ持っていける。ときおりフェリーなんかを組み合わせれば、そうとう楽しかったりもする。そうやって、20万キロ走ったクルマが3台くらいあったかな。約20年それを続けた。
各地で録音した音楽の日本地図みたいなライヴ盤も作った。それ、ワンオペだから。そんなこと誰もできないとは思う。なにせ、ステージに上がって最初の仕事は録音ボタンを押すことだから。
次にバイク。たぶん、こんなことをやってるミュージシャンはオレくらいだろう。天気を読めないととんでもないことになる。余裕をもって移動しないと、コンサート自体の開催が難しくなる。
でも、これがいちばん楽しかった。前述の多様性をいちばん肌で感じるし、なによりも移動そのものがハードで楽しかった。なんというか、日々ドキドキしたな。もっと言うなら、高速道路より下道の方がいいな。行程は倍かかるけど。
青森まで二日かけてたどり着いて、北海道上陸の前に、気温を見て、こりゃ凍死確実だって、バイクを預けて旅を続行するとかね。
じゃ、ギターはどうするんだって。そこは世界に誇る宅急便。恐ろしいくらい正確かつ安全に届けてくれる。ツアー用のウルトラハードケースに収納しているので、これまでトラブルは一回もない。
誰だって加齢には勝てない。
長距離の移動に腰や首が悲鳴を上げ始めたのが去年くらいか。そりゃそうだろう。オレは今年還暦。江戸時代だったら、たぶんもう死んでる。
そんなわけで、今は新幹線と飛行機でいちばん負担の少ない方法を模索してる。バンドだとそういうわけにはいかないけれど、土日でハコの奪い合いをしてるのが好きになれず、ウィークディの開催もする。だって、土日が休みじゃない人もいるわけで。
一本一本のクオリティーを下げたくないからできるだけ連チャンではやらない。効率が悪くても、つまんないライヴをやらかした後の酒のマズさをもう味わいたくないから。
いつまでできるのかわからないけれど、旅が仕事って素敵だとオレは思う。目覚めて、ホテルの天井を見上げて、「どこだっけ?」。記憶の細い糸をたどって、「奈良、か」。みたいな。
そうそう。今回はポケットに黒柳さんのアメちゃんみたいに、「カモネギシャチョー・シール(オレのことね)」を忍ばせてる。どこで誰にプレゼントするかはオレもわからないんだけど。それもまた旅の愉しみ。
じゃ、ちょいと宣伝に使わせてもらうけど。気軽に会いにきてね。ものすごいもの見せちゃるけんね。
山口洋ソロツアー2023 “BACK TO BASIC”
6/30(金)奈良 ビバリーヒルズ
7/2(日)岡山 ブルーブルース
7/4(火)大阪 knave
7/6(木)静岡 UHU
7/28(金) いわき SONIC
7/30 (日) 仙台 ASIAN TRIBE
9/9 (土)金沢 メロメロポッチ
9/13 (水) 名古屋 TOKUZO
9/15 (金) 京都 coffee house 拾得 (Jittoku)
9/28(木) 札幌 円山夜想(マルヤマノクターン)
10/1 (日) 弘前 Robbin’S Nest (ロビンズ・ネスト)
ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。
1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp