酒場SAKABA
山口洋(HEATWAVE) | 博多今昔のブルース Vol.9〜イージー・ライダー2020
イージー・ライダー2020
コロナの日々。突然こんな想いが頭の中に去来する。
鼻タレ小僧だった頃、故郷福岡で観た「イージー・ライダー」。
デニス・ホッパーもピーター・フォンダも鬼籍に入った今、オレはハーレーに乗らずに死んでいいのだろうか?あれだけ影響を受けたのに。
とはいえ、所持しているバイクの免許は皆無。ゼロから始めるのか、56歳。ま、なんとかイケるだろうと、いつものように根拠のない確信。
ところがどっこい、そう甘くはなかった。炎天下バイクに乗ること、体力と集中力の衰え、バランス感覚の劣化、学校と呼ばれる場所に足を踏み入れること、エトセトラ。
自由を味わうためには不自由を通過しなきゃならない。はっきり言って、とっても面倒くさい。
でも、風になってみたいっつー想いは強かった。普通二輪をパスした時点で、自分にハーレーを買って、ニンジンを用意した。
関東の自動車学校はコロナ特需。どこも3週間に1回くらいしか教習は受けられない。集中力も限界。
こんなとき、ハーレーという鉄のニンジンは効いた。免許がなけりゃ、タダの鉄の塊。
縁もゆかりもない山形県にある自動車学校に通うことにした。最短5泊で大型二輪にたどり着ける。
これは良かった。オレに合ってた。1日3時間も乗るとヘロヘロになるけれど、東北の自然と人の柔かさに随分助けられた。
教官たちは免許を取るための運転ではなく、おじさんが公道に出たとき、事故を起こさない運転を教えてくれた。
ほとんど毎時間、立ったまま、あるいは片手で運転させられる。あるいは地獄の半クラ。
ツアーで何度も訪れていたけれど、旅でくるのと、短期間とはいえ、実際に生活するのとでは見えてくるものが違う。
それもまたよかった。オレは東北が好きになった。
あっという間に大型を取得して、オレの暮らしにハーレーがやってきた。
悪くない。はっきり言って、こんな無駄な乗り物はないけれど、これでゆっくりツアーとしてみるか、とか。
東北にこいつでお礼を言いにいくか、とか。九州にこれで帰ってみるか、とか。
遅れすぎた、2020年のイージー・ライダー。
ようやく風を感じているところ。風そのものにはとうていなれないけれど。
ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。
1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp