酒場SAKABA

山口洋(HEATWAVE) | 博多今昔のブルース Vol.5〜ジュークレコードとボーダーライン

photo by 三浦麻旅子

ジュークレコードとボーダーライン


 福岡に育ってよかったこと。


 食べ物は美味いし、欲しいものはたいてい手に入るし、車を20分走らせれば、海にも山にも行ける。


 でも、僕にとっては音楽愛に溢れたレコード店があったこと、かな。他の街で育ったミュージシャンと話してみると、圧倒的に恵まれていたことに気づく。


 まずはジュークレコード、松本康さん。


 高校生でストーンズに夢中になって、次になにを聞いていいのかわからない。バス代もないから、香椎から天神まで歩いてレコードを買いにいくと、カウンターの向こうに長身の彼がいる。


 勇気を振り絞って声をかける。康さんのガイドによって、高校生が本物のブルースにたどり着く。書けばこれだけのことだけれど、すごいことだよ。あるいはパブロックを教えてもらったおかげで、自分のギター・スタイルに”ガッツ”が加えられる。


 忘れられないのはパブロックの雄、ザ・パイレーツのライヴ盤に書かれた康さんのコピー。”一家に一枚、パイレーツ”。その意味? 聞けば、わかるよ。笑。


 多感な時分にブルースの意味を知り、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの才気に触れる。それは自分の音楽を形成していく上で、とてつもないことだったんだと、今になって思う。


 康さんはHEATWAVEにはなにもしてやれなかったとおっしゃるけれど、そんなことはない。ジュークレコードがなかったら、HEATWAVEは影も形もなかった。


 感謝しかない。



 ボーダーラインレコード、帆足さん。


 1987年。英国からのデビューを目指して、福岡でくすぶっていた僕らに彼はこう言った。「うちからレコード出してみんね?」。


 ボーダーラインはレコード店であって、レコード会社ではない。でも、当時イギリスで芽吹き始めたインディー・レーベルみたいで、福岡から発信することがクールに思えた。


 それまでもインディーでレコードをリリースしていたけれど、すべて貧弱な自己資金によるもので、金にまつわる苦労は絶えなかった。中途半端に知られているけれど、金はない。こういう状況はなかなかにしんどい。


 で、帆足さんはこう言った。「制作費?まかしとかんね」。まるでみぞえ住宅の社長(知ってるよね?)のように頼もしかった。


 音楽には一切口を出さず、制作費(たぶん200万くらいだったか)をすべて負担してくれ、Made in福岡のアルバム「MY LIFE」はリリースされた。このアルバムのおかげで一気に全国での認知度が上がった。


 振り返ってみると、ほんとうにありえないことだったと思う。どこの馬の骨かわからないバンドのアルバム制作を街のレコード店が全面的にサポートしてくれるなんて。


 感謝しかない、アゲイン。


 もうひとつ、伝えておきたいこと。このふたつのレコード店、さらに足繁く通った70’Sレコードは現存するってこと。福岡の街を出て30年。知っている店がほぼなくなってしまった中、未だレコード店であり続けてくれていること。福岡の財産だと思う。


 送り手となった今、番組でオンエアするときにはできるだけアナログ盤をかける。なにかが違う、のだ。緊急事態宣言がでて、インスタライヴでアナログ盤をかけるのだけれど、やっぱりなにかが違う。これってほとんどあのお店で手に入れたものなんだよね。


 STAY HOME。ならば、好きだった音楽を今一度アナログで聞いてみたらどうかな?だって、福岡にはこんなにすごいレコード店があるんだもん。


JUKE RECORDS


福岡市中央区天神3-6-8 天神ミツヤマビル2F

092-781-4369

13:00 ~ 20:00(日曜月曜は19時迄)

http://juke-records.net/shop.html

BORDER LINE RECORDS


福岡店

福岡市中央区大名1-14-14 立花ビル2F

TEL 092-712-7155

11:00~20:00


小倉店

北九州市小倉北区浅野2-13-24 ブルースクウェア小倉2F

TEL 093-511-2531

11:00~20:00

www.borderlinerecords.co.jp



博多今昔のブルース Vol.4

博多今昔のブルース Vol.6

山口洋 HIROSHI YAMAGUCHI

ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。

1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp