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長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第98回 #3 Revolver (1966) - THE BEATLES 『リボルバー』- ザ・ビートルズ

長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第98回 #3 Revolver (1966) - THE BEATLES 『リボルバー』- ザ・ビートルズ

ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』(2003年発表・2012年改訂版)3位は、10月にリリースされた「スペシャル・エディション」が(ちょっとだけ)話題になった、ザ・ビートルズ7枚目のオリジナル・アルバム『リボルバー』だ。


「ビートルズおじさん」は世界中にいるらしく、この「スペシャル・エディション」はビルボード全米チャートの3部門で1位を獲得。全英チャートでも最高位2位を記録している。


こういうとき、本当にサブスクがあってよかったと思う。すでにこのアルバムのCDは2エディションが手元にある。「スペシャル」だか「デラックス」だか知らんけど、同じアルバムをそんな何枚も買ってられるかっての。


しかし・・・・・・『リボルバー』だもんな。サブスクが存在しなかったら、買ってたかもな(←ビートルズおじさん)。



『リボルバー』がビートルズの最高傑作なのかは、議論の余地があるが、彼らの作品のなかでも最高にキンキーでおもろいアルバムであることは間違いない。


まず、収録曲がすさまじいほどにバラエティ豊か。キャッチーなファンクチューン(タックスマン Taxman)から、ポール・マッカートニーお得意のチェンバー・ポップ(フォー・ノーワン For No One)に、高揚感のあるパワー・ポップ(アンド・ユア・バード・キャン・シング And Your Bird Can Sing)、ちょっとうさんくさいラーガ・ロック(ラブ・ユー・トゥ Love You To)に、ホーンをフィーチャーしたモータウン・リスペクトなソウル(ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ Got To Get You Into My Life)まで。そして、どの曲もクオリティ高い。



そんななかでも、極めつけは、ケミカル・ブラザーズとノエル・ギャラガーがコラボ曲「セッティング・サン Setting Sun」でオマージュを捧げたサイケ・チューン「トゥモロー・ネバー・ノウズ Tomorrow Never Knows」だ。


初めて聴いたときはタマげましたよ。ジョン・レノンの声は、遠くあの世から聴こえてくるようだし、バックにはネイティヴ・アメリカン(当時は「インディアン」って言ってた)の雄叫び(ジョンはチベット僧のマントラのつもりらしい)みたいなのが入ってるし(ホントはカモメの鳴き声)、なんかブーンブーンいってるし。


好き嫌いで言うと、なんかドロドロしてて、10代のころは苦手だった。そのうえで、「なんかわからんけど、なんかすげぇなぁ」と、聴くたびに感心していた。


いまとなっては、好きなビートルズ・ナンバーのトップ20に入るくらい好き。


この曲の同じくらい「なんじゃ、こりゃ!?」と思ったのは、オープナーの「タックスマン」から、2曲目の「エリナー・リグビー Elenor Rigby」につながるところ。ファンクからバロック・ポップへ。いま聴いても、変態的でゾワゾワする。


ほめてます。



さらにこのあと、「アイム・ソー・タイアド I'm So Tired」(アルバム『ザ・ビートルズ』収録)と並ぶ、”なんかもう、オレ、すべてがイヤになっちゃったんだよね”ソング「アイム・オンリー・スリーピング I'm Only Sleeping」、神がかった超絶美メロナンバー「ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア Here, There and Everywhere」、ノベルティ・ソングの金字塔「イエロー・サブマリン Yellow Submarine」と続くんだから、もうワケがわからない。世界観なんかない。音楽の「強さ」だけがある。


コンセプト・アルバムなんて愚の骨頂なのだ。



「スペシャル・エディション」リリースのタイミングで、「ローリング・ストーン」WEB版に、『リボルバー』にかんする記事がいくつかアップされていて、参考までに目を通した。


おもしろかったのは、当時流行したドラッグ、LSDに対するビートルズ・メンバーの反応だ。ジョン・レノンとジョージ・ハリソンは、1965年にLSDを体験して強烈な幻覚体験にコロリ。「こりゃ、ほかの2人にもやらせなきゃ!」とリンゴ・スターを引っ張り込む。


問題はポール・マッカートニーだ。LSDの使用を断固拒否。その理由について、後年、ポール自身があれこれと言い訳しているけど、本当の理由はわからない。当時つきあっていたジェーン・アッシャーが良家のお嬢さんだったことが影響しているのかもしれない。


LSD摂取の可否は置いておいて、このエピソードを知ると、「リボルバー』における、メンバー間のテンションのギャップにも合点がいく。ジョン、ジョージが、それまでになく振り切った曲を生み出したのに対し、ポールのナンバーは、どれも実に端正でオーセンティックな佇まいを崩さない。


これって、「LSDやった/やってねー」の違い。


このギャップがアルバム全体の「変態感」をより引き立てている。



しかも、後期とは異なり、このころのビートルズはバンドとしてまとまっていたし、メンバー間の化学反応も随所で起きていた(「イエロー・サブマリン」の制作秘話がわかりやすい例)。



彼らが全盛期に生み出した異形の傑作アルバムが『リボルバー』なのだ。ぜひ、最高の音質で聴こう。高価なCDボックスじゃなく、サブスクで十分なので。





おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★










長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。