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土曜日の夜に 第31回 Siv Jakobsen「Gardening」Text by Masami Takashima

土曜日の夜に 第31回 Siv Jakobsen「Gardening」Text by Masami Takashima

今年は雪の多い冬だった。雪に慣れない土地に暮らしていると静寂を纏った時間は少し特別なものになり、日常が止まってしまったかのようだった。いつもよりも冷える足元に膝掛けを一枚追加したりなどして整えた。ぽっかり浮かんだように時間ができたので、体をぎゅっと丸めながら、シンセサイザーで音作りをしていたらアンビエント要素多めのトラックが仕上がったので、雪の日の音の記録としてそのまま保存した。雪深い土地では私には想像することができないような特別な生活があるのだろうと、まだ訪れたことのない場所の冬を思った。格別に寒かったこの冬も自宅では安定の鍋料理が続き、いただいた家庭菜園で採れた野菜をこの上なく食べた冬だったと思う。蕪は甘い。





ノルウェーの音楽家、Siv Jakobsen。2020年に公開された雪深い街で撮影されたMVもすごく印象的だったが、今年1月に発表された新作「Gardening」が素晴らしい。丁寧に録音された音、ギターを片手に幾重にも広がるボーカル、見え隠れする室内楽を連想する弦の音、パーカッションやクラリネットなどグラデーション豊かでフォーキー、リップノイズも、フィールドレコーディングされた鳥の声、ギターのスライドする音、木陰で聞く風に揺れるノイズのような、そこにある小さな植物に目を奪われるような、存在するそのままが記録されたように感じた。そういう幽玄さがある。静寂の中には癒しとは相反する一種の怖さのようなものがあると思っているけれど、声の奥にひそむ静かなる熱のようなものにはさまざまな感情の影があり、夜明けに残る漆黒のような刹那を感じただそこにあるものを受け入れる。それにしても良いアルバム。





水やりのタイミングを図り、日当たりを調整し、サイズが合わなくなったら鉢の植え替えをする。手間をかけて育てても一瞬で枯れてしまうこともあれば、弱った状態でも少しのきっかけでびっくりするほどに回復することもある。放置しているような環境でもびっくりすほどに成長する。植物の育ち方にはマニュアル通りにいかない複雑なリズムがある。力強さ、儚さ、自然界の道理から得ることの学びと面白さを改めて思う。あっという間に一斉に春がやってくるのだろう。






Masami Takashima
Masami Takashima

Masami Takashima Takashima Masami

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1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com