Bigmouth WEB MAGAZINE

音楽MUSIC

転がる石のように名盤100枚斬り 第21回

転がる石のように名盤100枚斬り 第21回

#80 Imagine (1971) - JOHN LENNON

イマジン - ジョン・レノン


「笑。ジョンレノンのイマジンのような曲は、1970年代という時代だったからこそ光り輝いたわけで。しかし残念ながら、もはや前世紀のノスタルジーです。」


ジャーナリスト(?)、佐々木俊尚氏による、このツイートが大炎上し、一般人以外にも、著名コラムニストやパーソナリティ、映画監督等からも集中砲火を浴びたのは記憶に新しい。


「リアリスト」ぶって現状追認に甘んじる、この方の態度には、個人的に辟易していたけど、それ以前にこのツイートは乱暴すぎる。


この前後のツイートも確認したけど、なんで「イマジン」が時代遅れなのか、理由は明記されていない。


「イマジン」は、「世界平和を願うポヨヨ~ンとした曲」だというイメージが強いけど、その前提として、国家や宗教、資本主義の否定がある。


GAFAが世界を牛耳り、国境は溶けていき、宗教が依然として紛争の火種になってしまう21世紀にも有効な曲だと、個人的には思うんだけど。


権力や権威に対して疑問符を突きつける人々を、「反逆クール」なんて言葉で揶揄する佐々木氏だから、ジョンのアナーキーな側面を受け入れることができなかったのかもしれない。


「アンタは俺のことを、頭がお花畑のボンクラだって言うかもしれんけど、そんな世界を想像してるのは、俺だけじゃないんだ。いつか、アンタにもわかる日が来るといいね。そしたら、世界は一つになるのに」


ここでの「アンタ」ってのは佐々木氏のような人間で、きっと彼らが「わかる」日は来ない。だから決して世界は一つにはならない。


そんなことはジョンにもわかっていることで、それでも理想の世界を「想像する」ことの大切さを訴える。「想像する」ことさえ止めてしまったら、世界はもっと殺伐としてしまうだろう。



さて、こんな平和を呼びかける曲とともに、かつての盟友ポール・マッカートニーをDisる「ハウ・ドゥー・ユー・スリープ How Do You Sleep?」なんていう意地悪な曲が収録されているのが、『イマジン』というアルバムのおもしろいところだ。


「ハウ・ドゥー・ユー・スリープ(どうやって眠るの?)」という曲は、ポールの目が大きいことから、「目開けて寝てんじゃないか?」とビートルズ時代にからかっていたことに由来する。子供じみているけど、このタイトル自体には大した悪意は感じられない。しかし、歌詞の内容はかなり辛辣。ジョンの性格の悪さが端的に表れている。



平和を説く一方で、盟友をこき下ろす。ヨーコに愛を囁く一方で、愛人と浮気をする。共産主義に共感を示すくせに、太平洋戦争は日本の自衛のための戦いだったなんて、ネトウヨみたいな発言も残す。



この二面性こそが「ジョン・レノン」なのだ。



「オー・マイ・ラヴ Oh My Love」「ハウ How」は、ピアノが印象的な美しいラヴ・ソング。


「生活を立てていかなきゃならない。彼女を愛してあげなきゃならない。しんどいことばっかで、たまに死にたくなる」と歌う「イッツ・ソー・ハード It’s So Hard」、


「兵隊にはなりたくない。死ぬのはイヤだ」というストレートな反戦歌「兵隊にはなりたくない I Don’t Want to Be A Soldier」なんて曲もある。


「真実が欲しい Gimme Some Truth」には、狂った世界でひとかけらの真実を求め悶える、ジョンの姿が見える。



どれもありのままのジョン・レノン。



白眉は、「ジェラス・ガイ Jealous Guy」だ。楽曲としての美しさは、ジョンの曲の中でも一、二を争うだろう。で、何を歌っているかというと、ジョンの粘着質でグズグズな性格だったりするんだけど。



曲によってメッセージはさまざまだが、全体的にサウンドはソフトで聴きやすい。そのおかげもあって、全米・全英はもちろん、日本でもアルバム・チャートで1位に輝いている。


ジョンは、あえてチャート受けしそうなアルバムに仕上げたんだと思う。それは、ザ・ビートルズ脱退後もヒットを連発していたポールに対抗する一念だったんだろうなぁ。



ある意味、わかりやすい人だな、ジョンは。



このアルバムの大ヒットにより、結果的にジョンには「愛と平和の人」というレッテルが貼られてしまったけど、基本的にシニカルで毒舌だし、行動に一貫性はない。実際、近くにいたら、かなりめんどくさいと思う。


「傷つけるつもりはなかったんだ。俺は嫉妬深いだけなんだ」(ジェラス・ガイ)とかめんどくさいにもほどがある。


ちなみにジャケット写真に写っている雲みたいなものは、カミさんのオノ・ヨーコが念写したものだそうですよ。そんなこと告白されたら「めんどくさ」以外の感想が浮かばない。


そんなジャケットも含め、ジョン・レノンのややこしい人間性をポップにパッケージした『イマジン』を名盤と呼ばないわけにはいかないだろう。でも、個人的には、ウエルメイドな感じがつまらなかったりする。そんなわけで・・・・・・




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★













長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

facebook instagram twitter

1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。