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転がる石のように名盤100枚斬り 第25回 パープル・レイン - プリンス・アンド・ザ・レヴォリューション

転がる石のように名盤100枚斬り 第25回 パープル・レイン - プリンス・アンド・ザ・レヴォリューション

#76 Purple Rain (1984) - PRINCE and THE REVOLUTIONS

パープル・レイン - プリンス・アンド・ザ・レヴォリューション


「ロックンロール」ってなんだろう? いわゆる「ロック」とはどう違うんだろう? 「ロール」には、どんな成分が含まれているんだろう?

Wikipedia先生曰く「1960年代半ばには、ロックンロールが進化して抽象的、芸術的なものも生まれ、新たなサウンドが登場し、それらの総称として"ロック"という言葉が使われるようになった」

つまり、ロックンロールは、「具体的」で「大衆的」ってことか? なんか違う気もする。


00年代前半に勃興したブームに、ロックンロール・リヴァイヴァルてのがあった。ストロークス、ホワイト・ストライプスなどが代表格。この2組はアメリカのバンドだけど、イギリスだとアークティック・モンキーズやリバティーンズ、オーストラリアのジェットもこのムーヴメントに含まれるようだ。

彼らの共通点は、基本的にオーソドックスなバンド編成(ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム)で、シンプルな構成の楽曲を演奏していることか。音楽スタイルの定義としてはそういうことかもしれないけど、そこからは「ロール」の秘密にたどり着けないのだなぁ。


たとえば、今回のお題、プリンス・アンド・ザ・レヴォリューションの大傑作『パープル・レイン』なんかは、まさに「ロックンロール」なアルバムだと、個人的に思っている。

『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』では76位。もう少し高い評価をもらってもいい気がする。ちなみに音楽サイト『Pitchfork』が選んだ80年代のアルバムでは、堂々の1位だ。


演奏は、80年代だけあって、シンセサイザーが大活躍。ドラムももちろんシンセドラム。楽曲のスタイルも、ロックはもちろん、ファンクやエレポップ、R&Bまで多岐にわたっている。


しかし、アルバム全体を通して聴くと「ロール」を感じる。グルーヴではなく「ロール」。


「ロール」を探して、また、『パープル・レイン』を聴く。


スターターは、キャッチーなロック・チューン「レッツ・ゴー・クレイジー Let’s Go Crazy」。それに続いて、この時代ならではのシンセ・ポップ「テイク・ミー・ウイズ・U Take Me With U」へ。いきなりライヴ映えする2曲が繰り出される。

3曲目の「ビューティフル・ワン The Beautiful Ones」は、ビヨンセやマライア・キャリーもカヴァーしたエモーショナルな名バラード。

「コンピュータ・ブルー Computer Blue」は、ザ・レヴォリューションのメンバー、リサとウエンディ(2人は同性愛者で、このころから付き合いはじめたそうな)の囁きが妖しくイントロを彩るファンク。間奏のギターが聴きどころ。

当時のアメリカ副大統領夫人に「こんなのワイセツよ!」と非難されハクを付けた、「ダーリン・ニッキー Darling Nikki」は、ドラマティックなロック・ナンバー。

そして、水の流れのようなSEと不思議なコーラスワークの後、ギターが不穏な響きを轟かす。プリンスの全キャリアでも五指に入る名曲「ビートに抱かれて When Doves Cry」だ。

邦題もナイス。タイトルを直訳すると「ハトが鳴く時」だものね。そりゃないよね。

「ビートに抱かれて」は、プリンスらしいストレンジな印象のミディアム・ファンクで、しかも、ベースレス。こんなヘンテコな曲が、アルバムのリード・シングルで、全米ナンバーワンを記録した。

「ダイ・フォー・ユー I Would Die 4 U」から「ベイビー・アイム・ア・スター Baby I’m A Star」へと続くメドレーは、プリンスのエンタテイナーとしての資質が爆発。

聴いていると、気分が高揚してきて、ただただ、楽しくなってくる。ある種の魔法みたいなこの感覚は、ロックというより、やはり「ロックンロール」と呼ぶのにふさわしい。


アルバム『パープル・レイン』のハイライトは、このメドレーで盛り上がった後にやって来る。タイトル・トラックである超絶傑作バラード「パープル・レイン Purple Rain」だ。

リリース当時、中学生のころは、僕も「この曲、ちょっとキモ」なんて思っていた。正直言って、そのパフォーマンスは過剰。エモ過ぎ。でも、その過剰さが、いつからか神々しく感じて来た。まるでゴスペルのように。

聴くたびに、スピーカーからほとばしる、音の奔流に巻き込まれ、茫然自失。最後には、コーラスに声を合わせ、火の点いたライターを揺らすのだった(東京ドームでプリンスを観た時、実際にやって怒られたような記憶が)。


AppleMusicの「デラックス・エディション」には、未発表曲やシングルのB面曲も収録されているけど、なかなかそこまでたどり着けない。オリジナル・アルバム収録曲だけでお腹いっぱい。大満足。あぁ、幸せだ。


そうか、この多幸感こそが、ロックン「ロール」の主成分かもしれない。


『パープル・レイン』は、プリンス主演の同名映画のサウンドトラックとして制作されている。『~史上最も偉大なアルバム』93位の『サイン・オブ・ザ・タイムズ』も映画絡みだったが、スタジオ・ライヴ映画『サイン・オブ・ザ・タイムズ』とは異なり、『パープル・レイン』は「アイドル映画」と言ってもいいつくり。

ストーリーは自伝的らしいけど、観たからといって、プリンスの音楽を聴く上で役立った覚えもないし、観なくても、まぁ、人生で損することはないという、そんな映画。

それでも、クライマックスのライヴハウスでのステージは、やはり必見である。

「ダイ・フォー・ユー 」「ベイビー・アイム・ア・スター」「パープル・レイン」 3曲を演奏していたはずだけど、我が家には、この映画のVHSはあるがヴィデオ・デッキがないので、確認のしようがない。

カリスマ性全開のすごいパフォーマンスであることは間違いない。このステージで、プリンス(劇中ではキッド)は、自らが稀代のスターであることを高らかに宣言する。


これ以降、プリンスは「音の求道者」みたいになっちゃうけど、この当時はキャリアの上り坂を駆け上がっていくような勢い、若さがある。ピッカピカのポップ・スターだったのだ。自分でアイドル映画をつくっちゃうくらい、ノリにノッてたのだ。それも、『パープル・レイン』を聴くと多幸感が盛り上がる理由の一つだろう。


このアルバムは、ポップかつアヴァンギャルドなプリンスの作品のなかでも、もっともポップよりなので、聴きやすい。そして、間違いなく、80年代のポピュラー・ミュージックの到達点の一つであることを、おっちゃんが保証しよう。ということで・・・・・・



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★









長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。