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転がる石のように名盤100枚斬り 第48回 #53 Meet The Beatles! (1964) - THE BEATLES 『ミート・ザ・ビートルズ』 - ザ・ビートルズ

転がる石のように名盤100枚斬り 第48回 #53 Meet The Beatles! (1964) - THE BEATLES  『ミート・ザ・ビートルズ』 - ザ・ビートルズ

ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』53位にランク・インしたのは、ザ・ビートルズがアメリカを征服した出世作だ。



このアルバムというか、その元になったイギリス公式アルバム『ウイズ・ザ・ビートルズ』のジャケットは、昭和の小学生にはなじみが深い。ガムのテレビCMで、このジャケットのパロディを散々目にしたからだ。


顔の右半分がシャドウで隠れた男性4人が、風船ガムをふくらませるという映像。  BGMは「プリーズ・プリーズ・ミー Please Please Me」。この曲が収録されているアルバムは、『ウイズ・ザ・ビートルズ』でも『ミート・ザ・ビートルズ』でもなく、イギリス本国でのデビュー盤なのだが、当時の小学生には、そんなことは関係なかった。


クールなヴィジュアルと「カマンカマン」と連呼するキャッチーなコーラスにしびれた。思えば、あれがビートルズの原体験だったか。


映像の中でふくらませるガムが黒かったので、ロッテの「ブラック・ブラック」という商品のコマーシャルだと思い込んでいたけど、ググってみるとカネボウの「プレイガム」という説もあるらしい。少し調べたが、どちらが正解なのか、いまだにわからない。



上述の通り『ミート・ザ・ビートルズ』は、イギリス公式のセカンド・アルバム『ウイズ・ザ・ビートルズ』をもとに、アメリカのキャピタル・レコードが独自で編集したものだ。


ジャケットには、「イギリスで社会現象となったポップ・バンドのファースト・アルバム」とデカデカと書かれているので、タイトル通り、このアルバムがビートルズのアメリカでのデビュー盤だと、僕はずっと思っていたけど、実は、前年に『イントロデューシング・ザ・ビートルズ Introducing The Beatles』という、まったくやる気を感じないタイトルのアルバムがリリースされていた。


これは公式デビュー盤『プリーズ・プリーズ・ミー Please Please Me』を元に編集したアルバムだが、「プリーズ・プリーズ・ミー」と「アスク・ミー・ホワイ Ask Me Why」は、アルバムのリリース前にシングル・カットしたため、このアルバムには収められていない。その理屈自体、よくわからんけど。



経緯を説明すると、ビートルズのイギリスでの所属レーベルであるEMIは、元々、アメリカのキャピタル・レコードからのリリースを希望していたが相手にされず、やむなく弱小レーベル、ヴィー・ジェイ・レーベルからレコードをリリースせざるを得なかった。結局、プロモーション不足もあって、アルバム『イントロデューシング~』も、「プリーズ・プリーズ・ミー」などのシングルもさっぱり売れず、ビートルズのアメリカ進出は、この時点で頓挫したかにも見えた。


風向きが変わったのは、196312月にキャピタル・レコードが発売したシングル「抱きしめたい I Want to Hold Your Hand」が爆発的にヒットしてからだ。この曲はビルボード全米シングル・チャートで7週連続で1位を記録している。



そして、「抱きしめたい」大ヒットの余勢を駆ってリリースされたのが、今回採り上げる『ミート・ザ・ビートルズ』だ。言ってみれば、「抱きしめたい」ありきのアルバムだったわけで、元ネタの『ウイズ・ザ・ビートルズ』には収録されていないにもかかわらず、キャピタル・レコードは、「抱きしめたい」をアルバムの1曲目に持ってきている。


さらに、シングル「抱きしめたい」のB面曲「アイ・ソウ・ハー・スタンディング・ゼア I Saw Her Standing There」と、イギリスでの「抱きしめたい」のB面曲「こいつ This Boy」を加え、代わりにカヴァー5曲を削除。



ここにビートルズ・メンバーの意思はまったく反映されていない。シングル曲はアルバムには収録しないというのが、当時のビートルズのポリシーだったのに、それもシカト。この時点では、彼らが、自ら音楽をコントロールする権利を持つ「ロック・バンド」ではなく、あくまでも芸能人として扱われていたことがわかる。


まぁ、このころは、全米制覇で有頂天になっていただろうから、メンバーもさほど不満には思ってなかっただろうけど。



アルバムを通して聴くと「抱きしめたい」の印象が突出している。キャピタル・レコードが、この曲を聴いて掌を返したのもうなずける。ジョン・レノンとポール・マッカートニーががっぷり四つに組んでつくったからこその超傑作だと思う。


イントロのギターのリフから、ロマンチックな美しいメロディ、そしてサビでの感情の高まり。完璧なロックン・ロール。この一曲でアメリカはビートルズと恋に落ちたのだった。


まぁ、「感情の高まり」というか、サビで歌われているのは、明らかに「高まる性的衝動」だろう。それを「 I Want to Hold Your Hand = 君の手を握りしめたい」というソフトな言葉に置き換えて放ったわけだけど、世界中の女の子は、ビートルズのメッセージを正しく受け止め、嬌声でそれに応えたのだった。


だから、この曲の邦題である「抱きしめたい」は、ビートルズのメッセージを、よりストレートに表現していることになる。夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという伝説があるけど、昭和の日本人は、明治時代とは違い、欧米の人々よりもあからさまだったのだなぁ。



『ウイズ・ザ・ビートルズ』および『ミート・ザ・ビートルズ』の収録曲で、「抱きしめたい」よりはインパクトでは劣るけど、文句なしでビートルズ・クラシックに認定されるのが、「オール・マイ・ラヴィング All My Loving」だ。ポールのロマンチックな持ち味が炸裂した、ギターの3連符のフレーズが印象的なロックン・ロール。「抱きしめたい」以上にメロディの美しさが際立つ。



「抱きしめたい」「オール・マイ・ラヴィング」以外の『ミート・ザ・ビートルズ』収録曲で、ビートルズ・クラシックに認定されるのは、本来はファースト・アルバムに収録されていた「アイ・ソウ・ハー・スタンディング・ゼア」くらいで、これ以外は、ビートルズにしては「まぁまぁ」という水準。歴史に残るような曲はないんだけど、それぞれに聴きどころはある。


「イット・ウォン・ビー・ロング It Won’t Be Long」は「イェー、イェー」というコーラスとハンド・クラッピングが楽しい一曲。


スモーキー・ロビンソンの影響が濃い「こいつ」「オール・アイヴ・ガット・トゥ・ドゥ All I’ve Got to Do」では、ジョンののびやかなヴォーカルが気持ちいい。


「リトル・チャイルド Little Child」「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン I Wanna Be Your Man」といったシンプルで小気味よいロックン・ロールは、初期ビートルズの特色の一つ。


ジョージ・ハリソン作で初めてビートルズ・ナンバーとして採用された「ドント・バザー・ミー Don’t Bother Me」でさえ、(ジョージ本人は不本意な出来だと思っていたようだけど)悪くない。


サビを思いついたのはいいけど、うまく曲へと昇華できず、生煮えのままテーブルに並べた料理のような「ホールド・ミー・タイト Hold Me Tight」と、ポールの甘ったるい一面が発揮された、ミュージカル・ナンバーのぬるいカヴァー「ティル・ゼア・ワズ・ユー Till There Was You」は、正直言っていらんかったと思うけど。



『ミート・ザ・ビートルズ』は、アメリカの大手レーベルが、ビートルズを売ることに本腰を入れただけあって、(再)デビュー盤として隙がなく、ビートルズの魅力をうまくまとめた高スペックなアルバムであることは間違いない。



でも、ここには『ウイズ・ザ・ビートルズ』で感じる、楽しさとか茶目っ気とか、ワクワクする感じが決定的に欠けてるんだよなぁ。タイトにまとめられているのはいいけど、「遊び」がなくて窮屈に感じる。


それは、オリジナル曲優先でカヴァー曲を大幅にカットしたことが原因だと思う。カットされたカヴァーは以下の5曲。


「プリーズ・ミスター・ポストマン Please Mister Postman

「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン Roll Over Beethoven

「ユー・リアリー・ガッタ・ホールド・オン・ミー You Really Got A Hold On Me

「デヴィル・イン・ハー・ハート Devil In Her Heart

「マネー Money


ジョージがヴォーカルをとる「ロール・オーヴァー~」は、チャック・ベリーのヒットだが、これ以外の4曲はすべてモータウン・ナンバー。


「ビートルズ、モータウンを歌う」というと、昭和のムード歌謡のレコードみたいだけど、『ウイズ・ザ・ビートルズ』の大きな魅力はここにあったのではないか。


実際、各ナンバーの仕上がりはすごくいい。「ユー・リアリー~」はスモーキー・ロビンソンのナンバーだけど、彼の影響を受けたというオリジナル曲「こいつ」「オール・アイヴ・ガット~」なんかよりよっぽどいい。カーペンターズのカヴァーでもおなじみの「プリーズ・ミスター・ポストマン」は、コーラスの掛け合いが最奥だし、『ウイズ・ザ・ビートルズ』の最後を飾る曲が「マネー」というのも気が利いてる。


「金をくれよ/俺が欲しいのは金/金が欲しい/それこそ俺が手に入れたいもの」

ラッパーかよ。ギラギラしてる。アメリカでひと儲けする気満々。


現実には、1963年の時点では、ビートルズの4人の野望よりも、キャピタル・レコードの「儲けたるぜ!」という商人魂の方が勝り、『ミート・ザ・ビートルズ』は、ガチガチの売れ線アルバムとなる。


確かに、このアルバムには、アメリカの空気を一変させたという歴史的な価値はあるけど、音楽の楽しさを体験できるのは、断然『ウイズ・ザ・ビートルズ』なんだなぁ。



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★





長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。