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転がる石のように名盤100枚斬り 第49回 #52 Greatest Hits (1975) - AL GREEN 『グレイテスト・ヒッツ』 - アル・グリーン
ロックについては、時代ごとのムーヴメントやサブ・ジャンルについても、だいたいは把握しているけど、 黒人音楽、特に70年代までのソウル界隈については、あやふやなとこがある。
時系列だったり、アーティストとアーティストとの関係性だったり。
ちゃんと聴いたのも、オーティス・レディング、マーヴィン・ゲイ、アレサ・フランクリン、ボビー・ウーマックくらいだし(あと、スクーリーミン・ジェイ・ホーキンス!)。
実は、今回のお題であるアル・グリーンのアルバムも1枚持っている。『レッツ・ステイ・トゥゲザー Let’s Stay Together』(1972年)。
映画『パルプ・フィクション Pulp Fiction』(1994年)の劇中でタイトル曲を聴いたのがきっかけでアルバムに手を伸ばしたものの、聴いて感銘を受けたというわけではなく、今もって、タイトル曲以外の印象は薄い。
にもかかわらず、ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』の52位に、ベスト盤がランク・インということで、アル・グリーンの立ち位置をどう考えればいいのか、途方に暮れてしまったのだった。
そこでソウル・ミュージックの潮流を整理してみることにした。
ソウル・ミュージックのオリジネイターの一人、レイ・チャールズがヒットを連発したのが、1950年代から1960年代前半。それに続くレジェンドたちの活動を列挙するとこんな感じ。
> サム・クック:1957年にゴスペルからR&Bに転向しヒット、1964年ガール・フレンドに撃ち殺される
> ジャッキー・ウイルソン:1957年にブレイク、モータウン・サウンドの雛形を用意、1975年まで活動
> ジェイムス・ブラウン:1958年にブレイク、1970年にファンクを発明、刑務所での服役なども挟みつつ、2000年代まで活躍
> カーティス・メイフィールド:1958年からグループ、インプレッションズのメインとして活躍、1970年からソロ活動開始
> スモーキー・ロビンソン:1959年ザ・ミラクルズとしてモータウンと契約、作曲家としてもレーベルを盛り立て、1970年代以降はソロとして成功
> ザ・テンプテーションズ:モータウンの看板グループとして1961年から活動。メンバーを変えて現在も活動中
> オーティス・レディング:1962年ソロ・デビュー、数々の名曲を残すも、1967年飛行機事故で逝去
> マーヴィン・ゲイ:1958年デビュー、60年代はタミー・テレルとのデュオでヒット、70年代はソロで傑作を連発、1984年父親により射殺
> ウィルソン・ピケット:1964年アトランティック・レコードに移籍しブレイク、以降1970年代を通して活躍
> アレサ・フランクリン:1966年アトランティック・レコードに移籍しブレイク、1970年代前半にソウル界の頂点を極める
> ボビー・ウーマック:サム・クックのバンドでギタリストとして活動後、1968年ソロ・デビュー、以降2014年の死去まで息長く活動
アル・グリーンがブレイクした1970年代初頭は、ソウル・ミュージックの黄金時代と言っても良い。サム・クック、オーティス・レディングは、もうこの世にはいなかったけど、JBもアレサもカーティスも、バリバリやってたころだ。
このメンツと並べると、アル・グリーンのある種の「アカぬけ」感が際立つ。都会的で小粋、まさに軽妙洒脱。改めて『グレイテスト・ヒッツ』を聴いても、70年代前半の楽曲群という感じはしない。40年近くたっても、色褪せないサウンド。
その極めつけは、やはり「レッツ・ステイ・トゥゲザー」だろう。なんかのWEBサイトで「70年代のR&Bの名曲」第1位に選ばれていたのも納得の傑作だ。
ホーンに「レッステェトギャザー」というアルのささやきが被さりスタート。スローなリズムに乗ってソフトなヴォーカルが流れてくる。
“僕は君に夢中なんだ
君の願いはどんなことでも叶えてあげる
僕がいれば大丈夫さ
僕は君といるとまっさらな気持ちになるんだ
だから、君と一緒に人生を歩みたい”
で、サビは「レッツ・ステイ・トゥゲザー 一緒に暮らそうよ♪」ときたもんだ。女子メロメロ間違いなし。アル、当時はモテただろうなぁ。
1970年代のミュージック・シーンでのアル・グリーンの立ち位置は、結局のところ、「メンフィス・ソウルの貴公子」という異名で過不足なく表現されていた。要は、女性ファンをひきつけるセックス・シンボル。そりゃ、ベスト盤のジャケットで上半身裸になりますよ。
「ヒア・アイ・アム(カム・アンド・テイク・ミー) Here I Am (Come and Take Me)」なんかは、ちょっとだけアーシーなテイストの曲もあるけど、ほとんどの曲がソフトで洗練された感じ。そして、頑なにシャウトしないアル。
彼も元々はゴスペルのグループで活動していたので、シャウトしがちだったのだけど、プロデューサーのウィリー・ミッチェルが「あかん、あかん、叫ぶんやなくて、女の子に優しくささやくように歌うんやで」とアドバイスして、この唱法に変わったらしい。
アルのブレイクにおけるウィリー・ミッチェルの貢献度はかなり高い。アル本人もそれを知っていたようで、2003年にカンバックした際にも、ウィリーと組んでいる。
アルのソフトなヴォーカルに加え、ウィリーがディレクションした軽やかなリズム・セクションも「アカぬけ」感が増す要因になっている。独特のキレがあるグルーヴは、所属レーベル、ハイ・レコードの何ちなみ「ハイ・サウンド」と呼ばれた。
Wikipediaの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」の項目にこんな一文ある。
“作者のアル・ジャクソンは、同じくレコーディングセッションでドラマーとして参加したハワード・グリムズに常にこう言っていたという。「Groove and be simple - not busy.」”
「グルーヴを忘れず、そして簡潔に。決してバタバタしちゃいけない」
これぞ、ハイ・サウンド、そしてアル・グリーンの音楽の真髄だろう。
さて、ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』には、ベスト盤やボックス・セットが、いくつかセレクトされている。今回のお題『グレイテスト・ヒッツ』についての、ローリング・ストーン誌のレヴューを読むと、「アル・グリーンは、本質的にアルバム・アーテイストで、1973年の『コール・ミー』のように、愛とそこから生まれる心の痛みを描いた古典的ともいえる傑作をモノにした」とある。
全米ナンバーワンを達成した「レッツ・ステイ・トゥゲザー」を含め、70年代前半のアル・グリーンは、全米トップ10ヒットを連発していたわけだけど、「本質はアルバム・アーテイスト」なのか。ならば、ベスト盤じゃなくて、素直にオリジナル・アルバムをランク・インさせればいいのにね。
そこで頭に浮かんだのが、この連載で紹介した、75位のジェームス・ブラウン、54位のレイ・チャールズのボックス・セットだ。それぞれファンクとソウルというジャンルの勃興をヒット曲でたどるというコンセプトだった。
もしや、アル・グリーンのベスト盤が、52位という高いランクに選ばれた理由も、あるジャンルの勃興を描き出した一枚だったからじゃないだろうか。
上述したように、アル・グリーンのヴォーカル・スタイルは「シャウトしない」。そして、その音楽にはグルーヴが刻み込まれてはいるんだけど、「踊れない」(チークとかなら別だけど)。
これってもしや「ブラコン」?
「ブラコン」とは、「ブラック・コンテンポラリー」の略。1970年代末期に登場した都会的でマイルドな黒人音楽のことで、80年代の音楽シーンを席巻した。その最大の特長は、ヴォーカルが「シャウトしない」こと。バックの演奏は、確かなテクニックに裏打ちされた高度なモノだけど、あくまでもクール。
これって、アル・グリーン(とウィリー・ミッチェル)のマナーそのものではないか!
「ブラコン」を構成する要素としてシンセサイザーの音色があるので、そのあたりは、アルたちのサウンドとは違うんだけどね。でも、アルの音楽の「女性を口説く」という機能をガッツリと受け継いでいるのは、「ブラコン」だろう!!
はっ!・・・・・・ソウル・ミュージックのこと、詳しくないのに、アホなことを口走ってしまった。はい。ローリング・ストーン誌のレヴューには、こんなことは一切書いていない。根拠ゼロ。
まぁ、「ブラコン」との関連性は、置いておいても、現代R&Bの主流がソフトなヴォーカルであることを見ても、アルの音楽が後世に与えた影響は、間違いなく大きい。
同じ時期にヒットを飛ばしまくっていたマーヴィン・ゲイが、ベトナム戦争に代表される社会問題や、自身の内面的な葛藤を音楽へと昇華し、「ニュー・ソウル」と命名された一方で、アル・グリーンは、1980年代にゴスペルに転向するまでは、あくまでもロマンチックな世界を発信し続けた。
それもまた潔し。ほかのアルバムも聴いてみよう。
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★
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