土曜日の夜に 第25回 岡田拓郎 「Betsu No Jikan」Text by Masami Takashima
夏らしいことなにもしてないまま季節が変わっていく。ここ最近の秋感に気持ちがぐっと押されてぼんやりしていたらあっという間に年末になってしまいそうだ。
この夏はUKの音楽家Beatrice Dillonのレコード「Workaround」をたびたび聴いていた。Laurel Haloが参加していることで知ったこのアルバム、タブラや民族音楽などの影響を感じるビート、低音の質感もすごくよくて。猛烈に気怠く暑い夏の夜にヒリヒリした電子音をお酒を飲まない私は緑茶と一緒に流し込んだ。
8月最終日、当コラム締切直前に聴いた岡田拓郎 「Betsu No Jikan」。急遽コラムの内容を変更することにした。参加アーティスト(石若駿/大久保淳也/カルロス・ニーニョ/香田悠真/サム・ゲンデル/鹿野洋平/ジム・オルーク/ダニエル・クオン/谷口雄/ネルス・クライン/細野晴臣/増村和彦/マーティ・ホロベック/山田光)を見ても納得。言葉にならない言葉がこぼれた。月の都につれていってくれるような、よく知っているのに知らない街を歩くような、緑豊かな山深い場所にいるような、雑音の飛び交う無機質な建物の中にいるような、記憶の境目にいるような、リスナー側に想起する余白を与え、季節を、時を次へ移してくれたような気がした。
そういえば、
家庭菜園で作られたスイカが美味しかったり、人との会話にアイデアをもらったり、暑すぎるからと寄り道をしたお店がすごくよかったり、いつもの場所で見たライブが素晴らしかったり、小さな喜びを得た日々は夏の眩しさと重なって鮮明によみがえる。ちゃんと夏らしいこととしてたなって思い出せたのももう季節が移ったからなのかもしれない。
1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com