土曜日の夜に 第27回 björk(ビョーク)「fossora(フォソーラ)」Text by Masami Takashima
とても久しぶりの福岡は少しだけ知らない街になっていた。大きな建物があったはずの場所、もうすぐ始まるもの、閉店してしまった喫茶店、あったはずの花屋、おしゃれなゲストハウス、路地裏の立ち飲み珈琲店、足早に通り過ぎる人々のファッション、天神地下街。かつて足しげく通った場所には大きなクレーンが連なり、次の世代にとっての日常になる大きな建物の準備が進んでいた。周辺を歩いていると、交差点も、道路の凸凹も、体から脳に届き記憶が解凍される。出演者全員でライブ終了後に行った打ち上げで対バンの方にすすめられたことを機に聴いたシュガーキューブス(ビョークが在籍したバンド)、細かいリフやリズムも口ずさめるくらいに聴いた。その日は夏が追いかけてきたみたいな気候で、季節と合わない服装だった私は、あまりの暑さに心が折れてしまって予定していた場所はいくつか断念した。それでもこの秋の大切な時間をメンバー三人で過ごせたことが何より嬉しい一日だった。10月は友人知人のリリースがとても多くて、新作をたくさん聴いた1ヶ月だったと思う。ジャンルも住んでる街も配信やCD、カセットなど形態もさまざまだけれど、続々と発表が続き、祭りみたいに賑やかな1ヶ月だったと思う。すごく良い。
先日リリースされたビョークの新作「フォソーラ」。クラリネットの豊かな鳴りと重なる深い声。インドネシアのGabber Modus Operandiも参加、サウンド面を本業がマスタリングエンジニアのヘバ・カドリーが担当したそう。丁寧に精錬研磨され室内楽、ポストクラシック、フォークロアな旋律も聴き進めるほどにダンスミュージックであることに気づく。「まんが日本昔ばなし」が私は子供の頃大好きだった。ストーリーを理解しながら自然の持つ豊かさ、怖さについて触れるきっかけになっていたと思っているのだが、ビョークの音楽には羽衣を纏い踊っているような、激しいようで複雑で、優しいようで怖くて、森林の中のようなそういう生き物の根幹のような計り知れないもの、問いかけが多く存在しているように思う。ビョークがDJで日本の民謡をかけてたことはよく知られているけれど、世界中のワールドミュージックの旅をしているのだろう。膨大な音楽情報量には毎回驚かされる。前作「ユートピア」はジャケットのインパクトに圧倒されて聴くまでにずいぶん時間がかかってしまったけれど、久しぶりに旧作もファーストから丸ごと聴いて(20年ぶりに聴いたものも)すっかり忘れていたトラックが実はめちゃくちゃにカッコいいと改めて気づくことができた。最新(cornucopia)と古典(orchestral)という2つのテーマでの来日公演は来年3月とのこと。
1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com