土曜日の夜に 第30回 The Millennium「Begin」Text by Masami Takashima
分厚いコーラスワークの入った作品は新旧ジャンル問わず無条件に良いはず。と思っている。コーラスワークといえば近年ではR&Bなどで加工した声を多用したトラックを思うけれど、美しく高度な旋律が重なるコーラスといえばソフトロックだろう。ソフトロックという言葉を知ったのはもうずいぶん前のこと、当時の私は60年代〜70年代の音楽を好んで聴いていてThe ZombiesやThe Associationなどと共に聴いていたと思う。文脈を追って音楽を聴くのはあまり得意ではないけれど、色々な作品はもちろん、国内と海外でソフトロックというジャンルの捉え方が異なるという話なんかもレコード好きの方々に教えてもらった。中でもとてもお世話になった方にまつわる一枚のレコードを思い出した。
久しぶりにThe MillenniumのBeginに針を落とす。1曲目のPreludeのチェンバロが鳴りすぐに入ってくるドラムの少し歪んだ音がすごく好きだ。改めてなんていいアルバムなんだろうとじわじわと込み上げてきた。世界ではじめて16トラック使って録音したアルバムで、20歳くらいのころから繰り返し繰り返し聴いてきたのでコーラスワークも、突如鳴るパーカッションの場所なども音をなぞるように覚えている。エキゾチカ、ガレージ、サイケ、ニューエイジなど曲ごとにくるくるとジャンルの片鱗が変わっていく面白さ、私自身の勝手な解釈を交え新たな聴き方を楽しんでいる。そしてそんな自分に少し驚いた。時を経てリスナーとして音楽を聴くための層のようなものが少しだけ身についていたようにさえ思った。
レコードを楽しく聴く。四方山話を交えあーだこーだ言いながら次々に変えていく。そういう楽しみ方を私はさまざまな場所で色々な方々に教えてもらった。お酒の席だけじゃなく友人たちの集い、クラブでのDJさんたちとの会話。若い頃は今以上に音楽に詳しくなくて話を追いかけるだけで精一杯のようなこともあったけれどそういう積み重ねが今、たくさんの音楽に出会うことの喜びみたいなところにつながってきているのだろうと思う。
もうずいぶん前のことだがこのアルバムをはじめてレコードで(たぶんちょっといいやつ)で聴かせてもらった時のことをよく覚えている。深まっていく夜、だいぶお酒も進んでいてみんなの音楽四方山話もどんどん脱線の方が多くなってきた頃、プレーヤーに載っていた何かのドーナツ盤をLPに変えて「実はこういうのがあるんですよ」ってニコニコしながら聴かせてもらった。それまでCDで聴いていたBeginとは何だか違う音が鳴っていた。
私はThe Millenniumを聴くたびに今年の2月を思い出すのだろうと思う。音楽探求と深い情熱を注ぎ続けることの重みみたいなものを今強く感じている。まだまだ聴き足りなくて少しボリュームをあげてもう一度A面にひっくり返した。コーラスを多用した新しい作品ができたら一番に聴いてほしい。そう思った。
1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com