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山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.45〜寄り道のススメ

山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.45〜寄り道のススメ

 北海道をバイクで旅してきた。ツーリングというよりライヴツアーの一環として。たった今、津軽海峡を渡って、青森県に到着したところ。


 家から札幌のライヴにたどり着くまで、実に6日(笑)。飛行機を使えばもちろんその日に行くことができる。でも、なんだかそういうことが全面的に嫌になってきたのだ。


 始まりはマネージャーを連れないことから。マネージャーがいると、自分じゃ何もできなくなる。若くして要介護状態のミュージシャンが1匹出来あがる。ロック・ミュージックを奏でておきながら、まったく自分一人じゃ何もできない輩をどれほど見てきたことか。かつてはオレもそうだった。でも、それほんとうにダサい。日本だけの特色だから。付き人気質。マネージメントはミュージシャンが雇うべきものなんであって、事務所に「属する」輩に自由が歌えるとは到底思えぬ。


 旅はプロセスが大事。雨が降ったら前には進めない。その不自由さがいい。だから、自身であらゆる準備ができなきゃならないし、即興的に危機を乗り切る能力が不可欠になる。すると、顔が引き締まって、旅人の表情になっていく。


 道北にたどりついて。名もなき道を走っているとき、ふいに涙が止まらなくなった。なにに感動してるのかわからないけれど、オレはこういう生き方がしたかったんだと。


 古にアイヌが居たに違いない風景の中、彼らが神と崇めるヒグマたちが生息している土地。


 次の日の札幌でのライヴはインスピレーションに満ちたものだった。歌いながら風景が頭の中をよぎる。それを空っぽの器になったまま表現しているだけだった。風景がオレに憑いていた。


 もっと寄り道をすればいいのに、と思う。その町に近づいていくと、成り立ちが見えてくる。究極をいうなら、歩いていくのが一番だと思う。疲労とともに、その町のステージに立つ理由が明確に見えてくる。


 旅の途中に、稲刈り、稲穂取り、野菜の収穫、ラジオ出演、エステ、エトセトラ。いろんなイベントを組み込んだのもよかった。


 寄り道のススメ。


 現代に違和感を感じているのなら、あなたのペースでゆっくり移動してみることをオススメする。きっと、何かが見えてくるから。


博多今昔のブルース Vol.44〜炎天下、バイクでツアーをしてみる
山口洋
山口洋

山口洋 HIROSHI YAMAGUCHI

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ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。

1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp