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わたしの偏愛シネマ Vol.3『ビューティフル・ボーイ』

わたしの偏愛シネマ Vol.3『ビューティフル・ボーイ』

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今回のご紹介は、個人的にむちゃくちゃ大好きな二人の俳優、スティーヴ・カレルとティモシー・シャラメが親子を演じた、『ビューティフル・ボーイ』です。


スティーヴ・カレル演じるデヴィッドを父親に持つ、ティモシー・シャラメ演じる息子のニックは、重度のドラッグ中毒でして、療養施設に入っては出て、入っては出て、を繰り返していまして、なかなか状態が改善しない、壮絶な状態にあります。ティモシー・シャラメといえば、『君の名前で僕を呼んで』でも、とても美しく、同時に繊細な表情や演技を見せてくれた、まさに美少年にして演技派俳優なわけですが、そんな彼がイライラしながら父親に八つ当たりをしたり、口汚く罵ったり、トイレの床に這いつくばったりと、美少年のティモシーが好きな人からすれば、それはもう観てられない!というような状況が、この映画では延々と繰り返されて描写されます。


このニック、実はエリートでして、複数の有名大学にも合格していたり、詩を作る才能があったり(エンドロールのチャールズ・ブコウスキーの詩の朗読が素晴らしいです)と、はたから見れば何不自由無いようにも見えるわけですが、10代の前半からあらゆるドラッグに手を出してしまい、そこから大学にも進学できず、一方でなんとかして元の生活に戻ろうと努力もするのですが、どうしても中毒症状には打ち勝てない、という日々が続いているわけです。

そんなニックを救おうと奮闘するのが父親のデヴィッドです。ニックのお母さんはデヴィッドと離婚し、遠くに住んでいるのですが、デヴィッドはニックの親権を得て、彼を育てながら、再婚した女性との間に産まれた息子と娘の5人家族で過ごしています。ハタチ前のニックがドラッグ中毒で苦しむ様をまだ幼い弟と娘が目撃せざるを得ないという環境なのですが、そんな中でもデヴィッドは真摯にニックの中毒と向き合っていきます。症状が回復の兆しを見せたかと思えば、またすぐにドラッグに手を出してしまう、というサイクルを何回も繰り返して、終わりのない不安と戦い続けることになるわけですが、それでもデヴィッドは決して諦めません。


ではその強い心がどこからやってくるか、と言えば、それは純粋に「息子への愛」、「家族への愛」、ということだと思います。近年、家族という共同体の危うさや、家族の定義自体に一石を投じるような映画が増えてきています。例えば『万引き家族』だったり、以前本コーナーでご紹介した『ヘレディタリー 継承』もそうですし、これは洋画邦画問わず、世界的なトレンドと言えると思います。ですが、それはあくまで家族という共同体が本来的には素晴らしいものだ、ということが大前提としてあるから成り立っているわけでして、その「家族という共同体の素晴らしさ」「親子の素晴らしさ」という大前提を改めて表現してくれているのが本作と言えます。

この映画の特徴として、ニックがドラッグ中毒に苦しむ現在のお話の中に、まだ幼いニックが父親のデヴィッドと仲良く穏やかに過ごしていた頃の日常の映像が随所に挟み込まれる点があげられます。現在の過酷な状況と、過去の平和な日々が残酷なまでに対比して描かれるわけですが、これは今がいかに厳しい状況か、という演出でもありますし、同時に、なぜこんな過酷な状況でもデヴィッドは息子に手を差し伸べつづけるのか?という問いへの答えにもなっていると思うわけです。それはつまり、親は子どもが大きくなっても、そしてどんなに変化してしまっても、それでもやはり親だし、子どもへの愛は昔から全く、何ひとつ変わらない、ということです。


そしてなんと言ってもこの映画は実話でして、『13の理由』というドラマの脚本家でもあるニック・シェフと、その父親デヴィッド・シェフ、それぞれのベストセラーの書籍をまとめたお話が原作となります。かなり忠実に実際のエピソードを再現しているということで、それはつまり、この映画が作り物というわけではなく、決してきれいごとを並べただけでもなく、現実の、実際に起こったリアルな物語なのだということも、より感動させられる部分です。


ジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」をスティーヴ・カレルが歌うシーンは、映画を観終えたあとに思い出すと、思わず涙してしまいます…そんな美しいシーンを過酷が現実のシーン、それぞれに違う味わいがある、リアルな親子の愛を描ききった力作、ぜひご覧ください!




今須 勝地
今須 勝地

今須 勝地 KATSUZI IMASU

1982年千葉県生まれ。
映画の年間鑑賞本数400本以上。通算では5,000本弱の映画好きおじさん。
2006年カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社。
2010年より九州のTSUTAYA本部にて
映像レンタルのマーチャンダイザーとして商品企画を担当。
九州ウォーカーや九州各県のタウン誌、フリーペーパーなどで映画の連載担当を経て、
現在は毎週木曜、cross fm『URBAN DUSK』内にてオススメ映画をレコメンド中。
2019年からカルチュア・パブリッシャーズにて洋画の買い付け、配給を担当。
好きなミュージシャンは岡村靖幸、RHYMESTER。