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長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第75回 #26 Rumours (1977) - FLEETWOOD MAC 『噂』- フリートウッド・マック

長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第75回 #26 Rumours (1977) - FLEETWOOD MAC 『噂』- フリートウッド・マック

ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』2020年版のランキングにおいて、ロックの凋落ぶりが露わになっていることは、この連載でも何回か触れた。


前回のお題、U2『ヨシュア・ツリー』のように、トップ100から陥落するアルバムもあれば、ザ・ビートルズのデビュー盤のようにランク外へと消え去ったアルバムも・・・・・・。



しかし、一方で、ジョニ・ミッチェルの『ブルー』(1971年)なんかは、2003発表・2012改訂版30位から3位にジャンプ・アップしている。今回のお題である『史上最も偉大なアルバム』(2003発表・2012改訂版)26位『噂』も、最新版では19順位を上げて、なんと7位にランク・インした。



この順位を見たとき、僕はすごく意外に感じたのだった。というのも、単純にフリートウッド・マックの音楽をあまり意識したことがなかったからなんだけど。


もちろん、1970年代に『噂』がメガ・ヒットを記録したことは認識していた。小学6年生の頃から知っていた。でもなぜか、ずっとアルバム・タイトルを『噂』ではなく、『樽(たる)』だと思い込んでいた。


これは、かなり恥ずかしい。そもそも、男女メンバーの感情のすれ違いが描かれていると評されるアルバムのタイトルが、なんで『樽』なんだよ?


・・・・・・と、過去の自分に突っ込んでみたところ、おそらくではあるけれど、FW・クロフツという人が書いた推理小説の傑作に『樽』というのがあって、その印象が強すぎて、なんかの拍子にフリートウッド・マックのアルバム・タイトルとして刷り込まれてしまったんだろうという結論に。まったく言い訳になってないけど。



もう一つ、僕がいかにフリートウッド・マックになじみがなかったかを証明するエピソードを紹介すると、実はバンド名もずっとフリー「ド」ウッド・マックだと思っていた。これは単純に「ド」方が言いやすかったからだろうな。


「ド」じゃなくて「ト」だと気付いたのはごく最近のこと。幸い、人前でこのバンドのことを話す機会がなかったので、恥をかくこともなく五十路を迎えた。



フリートウッド・マック13枚目のアルバム『ミラージュ Mirage』が全米1位を獲得した1982年には、僕はすでに洋楽を聴いていた。シングル・カットされた「ホールド・ミー Hold Me」が、よくラジオから流れていたことも記憶にある。


でも、それ以上深く知ろうとは思わなかったのだ。70年代に活躍したひと昔前のバンドというイメージだったし、デビュー時はブリティッシュ・ブルース演ってたのに、渡米した途端に売れ線に走るってのもウサンくさく感じた。



しかしだ、今回、『噂』をレヴューするにあたり、フリートウッド・マックが、現在でも予想以上に広範な支持を集めていることを、改めて知った。今さら知った。



2018年に『ドント・ストップ 偉大なる50年の軌跡 50 Years – Don't Stop』というCD3枚組のベスト・アルバムがリリースされているんだけど、これがえらく売れているようで、今年6月上旬の全英チャートで、まだトップ10圏内に留まっていた。


『噂』は、2020年、42年ぶりに全米トップ10入りしたことが話題になっている。最高位は7位。TikTokでバズった動画で『噂』収録曲である「ドリームス Dreams」が使われていたことがきっかけだった。TikTokが震源地ってのが20年代ぽい。



実は若いアーティストにも、フリートウッド・マックは大きな影響を与えていて、2012年にはインディ・ロックのアーティストによるトリビュート・アルバム『Just Tell Me That You Want Me』がリリースされている。リッキー・リーやテイム・インパラ、セイント・ヴィンセント、ザ・キルズ、MGMT、そして我らがハイムなどが参加。


デビュー前のハイムがここでカヴァーしているのが、上でも触れた1982年のヒット「ホールド・ミー」。なかなか味わい深い。彼女たちは、ステージでもフリートウッド・マックのナンバーを取り上げていて、『噂』リヴァイヴァル・ヒットのきっかけとなった「ドリームス」もレパートリーに含まれている。デビュー時には「フリートウッド・マックとTLCの邂逅」と評されたらしいから、彼女たちがフリートウッド・マックからかなり影響を受けていることは間違いない。



ハイムと並んでフリートウッド・マック・フリークと言われているのが、2021年8月にニュー・アルバムをリリースすることが報じられたロード(Lorde)だ。彼女は、『噂』を完璧な作品と評していて、自らがフリートウッド・マックのメンバー、スティーヴィー・ニックスを崇拝していることを公言している。



もう一人、フリートウッド・マックからの影響を隠さない重要人物がいる。2012年のデビュー以降、傑作アルバムを連発しているラナ・デル・レイだ。全米アルバム・チャート1位を記録した4thアルバム『ラスト・フォー・ライフ Lust For Life』は多くのアーティストがゲストとしてプレイしたことで話題となったが、スティーヴィー・ニックスもそのうちの一人だった。


ラナとスティーヴィーは「ビューティフル・ピープル・ビューティフル・プロブレム Beautiful People Beautiful Problem」でデュエットしている。内容的に、この曲自体が、ラナからスティーヴィーに捧げられたナンバーと言って良いだろう。



こんなことになっているなんて、僕はなんも知らんかったよ。



ハイム、ロード、ラナ・デル・レイ。2020年代のミュージック・シーンを今後も牽引していくであろうこれらのアーティストの感性を揺さぶったフリートウッド・マックを、ウサンくさいとか、時代遅れとか、フリー「ド」ウッド・マックとか言っていたおっちゃんの目は、明らかに節穴なのだった。



ここまでフリートウッド・マックが世界から愛されていることを知り、今までの行いを反省したワタクシは、ロードが完璧と断言する『噂』を、心して聴いてみました。


「ロック界のソープ・オペラ」とも評された、このアルバム制作を巡るバンド内の人間模様は、今回は触れない。Wikipediaにあらかた書いてあるので、興味のある人は読んでみてください。



まずはアタマから順に聴いたんだけど、すごく耳なじみがいい。アルバムからシングル・カットされた「ドリームス」(全米1位)、「ドント・ストップ Don’t Stop」(全米3位)、「オウン・ウエイ Go Your Own Way」(全米10位)に加え、軽快なフォーク・ロック「セカンド・ハンド・ニュース Second Hand News」も、どこかで聴いた覚えがある。


なんでなんだろと少し考えた。思うに、僕らがティーン・エイジャーの頃、FMラジオからこれらのナンバーが頻繁に流れていたんじゃないか。その記憶の断片がアタマにこびりついているのではないだろうか。


僕がFMラジオを聴き始めたのは、このアルバムがリリースされて少なくとも5年は経過していたはずだけど、それでもまだ日常的にオンエアされるほどの人気をキープしていたんだろう。2021年現在における人気ぶりを見ると、それもまったく不思議じゃない。



上に挙げた以外の楽曲も粒がそろっている。ピアノ・バラード「ソングバード Songbird」は心にしみ入るし、「アイ・ドント・ウォント・トゥ・ノウ I Don't Want to Know」はリバプール・サウンドを彷彿とさせるキャッチーなナンバー。ラストの「ゴールド・ダスト・ウーマン Gold Dust Woman」は、ほかのナンバーとは違って妖しく混沌とした感じ。


サウンド面では、ギターのリンジー・バッキンガムとピアノのクリスティン・マクヴィがリードしたそうだ。アレンジも曲調もヴァリエーションに富んでいて、一枚通して聴いてもまったくダレない。


もっとも印象に残るのは、リンジー、スティーヴィー、クリスティンという3人のヴォーカリストのバランスの良さだ。リンジーはハリがあって力強く、クリスティンはブルージーななかにも抱擁力を感じさせ、スティーヴィーはハスキーなイメージがあるんだけど、「ドリームス」でのヴォーカルは「枯淡」という言葉がふさわしい透き通った美しさ。


この3人が声を重ねた「ザ・チェイン The Chain」でのハーモニーも奥行きがあって絶品。この曲は70年代らしい風格みたいなものを感じさせる。ミック・フリードウッドのドラムも気持ち良い。



フリートウッド・マックの音楽は、ソフト・ロックとかAORに分類されるけど、もう純粋に「ポップス」で良いんじゃないか。ここで聴けるポップスは本当に尊い。1周したら、また最初からリピートしてしまう中毒性がある。ポップスはかくあるべし。


これにハイムもロードもラナもヤラれたのか。納得した。



ちなみに個人的なベスト・トラックは、スティーヴィーがリンジーをDisった「ドリームス」と、リンジーがスティーヴィーをDisった「オウン・ウエイ」です。しかし、ここまでアルバムとしての仕上がりが素晴らしいと、制作時のゴタゴタとか、「実はこの曲はメンバーの%▷がアレでコレで・・・・・・」なんていうウンチクはどうでも良くなってくる。


ロードが言う通り、このアルバムは、完璧。死ぬまで聴ける名盤です。




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★








長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。