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長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第79回 #22 The Complete Recordings (1990) - ROBERT JOHNSON 『コンプリート・レコーディング』- ロバート・ジョンソン

長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第79回 #22 The Complete Recordings (1990) - ROBERT JOHNSON 『コンプリート・レコーディング』- ロバート・ジョンソン

ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』2003年発表・2012年改訂版は、音楽ジャンルのルーツに遡って、エポック・メイキングなアルバムを高く評価する傾向にある。


ソウルを生み出したレイ・チャールズとか、ファンクの創始者、ジェームス・ブラウンとか、ロックン・ロールをメインストリームに送り込んだバディ・ホリーとか。


啓蒙主義というか衒学趣味が鼻につくけど、実際、音楽のジャンルが勃興もしくは大衆化するプロセスは非常にエキサイティングで、聴き進めていくと「音楽ってのは生き物みたいだなぁ」という感慨を抱く。


だから、いいと思うんだ。多少昔のアルバムが『史上最も偉大なアルバム』にランク・インしたとしても。



しかし、  いくらブルースの巨人で後世に多大な影響を与えたロバート・ジョンソンの残したものとは言え、1930年代に録音された、まったくプロデュースされていないアコースティック・ギターの弾き語り音源を引っ張り出してくるのはやりすぎじゃないか。


そう。『史上最も偉大なアルバム』2003年発表・2012年改訂版22位にすべり込んだのは、ロバート・ジョンソンによる、当時発見されていたすべての音源、41テイクを収録した2枚組だ(のちに1テイクが発掘され、現存するのは42テイク)。


 そして、なぜか我が家のCD棚には、この2枚組が鎮座していたりする。



大学生のときに大枚はたいて買った。それまでブルースなんか聴いたことなかったのに。「ロバート・ジョンソン聴く、俺、渋い」とか思ってたんだな、きっと。周りのみんなは聴いてないから、あえて聴くのだ。これぞ衒学趣味、ペンダチックの極み。単なるマウント取り。ホント恥ずかしい。


で、実際に聴いてどうだったかと言うと、まったくわかりませんでした。


その後も何回か聴いてみたのだけど、音はショボショボだし、全部同じに聴こえるし、なんでキース・リチャーズやエリック・クラプトンが絶賛しているのか理解できないまま、五十路に突入してしまった。



このままではレヴューできない。そこで、改めて聴くまえに、そのすごさを知るとっかかりにしようと、ネットに上がっているロバート・ジョンソンについての論考に目を通してみた。そのほとんどは印象論で、あまり参考にはならなかったんだけど、唯一、林正樹さんという、スウェーデンの大学でゲーム・デザインについて教えている方の下記のブログは、すごく勉強になった。


「ロバート・ジョンソン研究」

http://hayashimasaki.net/RJ/


読むと、「なるほど」と膝を打つ感じ。ギター・プレイだけではなく、独特のチューニングやヴォーカル・スタイルについても論じている。ギターについては、僕は弾かないので100%理解したとは言い難いんだけど、それでも、「すごさ」の本質はわかった気がする。



曰く

  • ブルースの定石である「ブギ・ベース」を初めてレコーディングし世に広めた
  • 「シャッフル」という跳ねるリズムをブルース・ギターで初めて打ち出した
  • ピアノ・ブルースのパターンをギターに差し替えた
  • 強烈なブギ・ビートを弾きながら、さりげなく高音弦の装飾音を入れている(テクニックとしてかなり難しいんだって)
  • 一曲のなかでリズムが変幻自在に変わる
  • ギターでリズムを刻みながら、メロディも弾いて、同時に歌う


おぉ、なるほど。詳細はブログを読んでください。非常にわかりやすく書かれているので。



このブログでは、歌詞とその和訳も掲載されていて、それを読むと当時の生活感や、英語の言い回しのニュアンスもわかる。


せっかくなので曲ごとに歌詞と和訳も参照しながら、『コンプリート・レコーディング』を聴き直してみた(以下に引用した和訳はすべて林正樹さんによるもの)。



集中して一気にアルバムを再生すると、すごく音が心に響く。前述した林正樹さんのブログのおかげで、聴くポイントがわかったからというのも大きいけど、いままでは、ただ、ダラダラと音を流していただけで、ちゃんと音に向き合ってなかったのだな。


冒頭で収録されているのは、41テイクと書いたけど、曲数でカウントすると29曲だったりする。うち12曲については2テイクずつ収録しているのだ。「同じに聴こえる」って、12曲は同じ曲なんだからね。そりゃそうだよね。


これまで、いかに流して聴いてきたのか。五十路を越してロバート・ジョンソンが「わかった」のは、僕が人として成熟したからではなくて、単に若いころの僕が、集中力に欠けるボンクラだったからなのだった。



さて、改めて本気出して聴いてみて、ロバジョン(いきなりなれなれしい)の印象がどうだったかというと、「なんか自由な人やねぇ」というもの。


ギターのフレーズにしても、ヴォーカルにしても、即興なわけはないんだけど、心の赴くままに演奏している印象を受ける。音と言葉が自然にあふれ出ているみたい。



林正樹さんのブログを読まなかったら、難易度の高い演奏を繰り広げているなんて夢にも思わなかっただろう。



ブルースだからって曲調が一辺倒だと思う人(あ、僕っすね)もいると思うけど、かなりバリエーション豊富。


オープナーの「カインドハーテッド・ウーマン・ブルース Kindhearted Woman Blues」は、オーソドックスなブルースで、シャッフル・ビートにのせて性悪女への執着が歌われるけど、次の「I Believe I’ll Dust My Broom」はピアノ・・・・・・のようなギターの音のせいで、ちょっとジャズぽく響く。


「イフ・アイ・ハッド・ポゼッション・オーヴァー・ジャッジメント・デイ If I Had Possession Over Judgement Day」は機関車が走るリズムをなぞったようなギターがおもしろい。「フロム・フォー・ティル・レイト From Four Till Late」」では急にヴォーカルが男前になる。白人のスタンダード歌手みたい(実際に酒場では、ビング・クロスビーのカヴァーも披露していたらしい)。


ギターの音色だけじゃなくて、ヴォーカルも多彩なんだなぁ。


そして、1930年代なのに、ロックン・ロール、すでに芽吹いてる。


「テラプレーン・ブルース Terraplane Blues」のフォーキーな疾走感はスリリングだし、「32-20ブルース 32-20 Blues」はかなりロックン・ロール成分が高い。ラグタイムなムードも感じる「ゼイア・レッド・ホット They’re Red Hot」のヴォーカルはロカビリーみたい。ローリング・ストーンズが「ストップ・ブレイキン・ダウン・ブルース Stop Breakin’ Down Blues」をカヴァーしたのは、さすがの嗅覚。粋なのだ、この曲。


同じくストーンズがカヴァーした「むなしき愛 Love in Vain」は、別離の風景をスケッチした短編小説のような詞といい、そこはかとなく乾いた哀感が漂う曲調といい、スタンダードの風格。



歌われているテーマも、セクシュアルな内容(自分のが使い物にならなくなったってのが多い)や恋人に対する愚痴、鉄道会社の買収に材を取ったもの、チンピラ同士のいざこざ、自虐ネタなど、多種多様。泥沼のような現状を抜け出すために旅に出るんだという、ロバート・ジョンソン(と当時の多くの黒人)の自伝的な内容も数曲で見られる。



なかでも印象に残るのはブルースそのものをテーマにした曲だ。


「プリーチング・ブルース(アップ・ジャンプトゥ・ザ・デヴィル) Preaching Blues (Up Jumped The Devil)」は、今朝起きたら、ブルースが人間みたいに歩いてるという衝撃的なフレーズで始まる。ブルースは憂鬱な、震える、悪寒/取り憑かれたことがないなら、これからも無いといいんだが。そう歌うロバート・ジョンソンは、明らかに何かに”取り憑かれて”いる。「ヘルハウンド・オン・マイ・トレイル Hellhound on My Trail」では、空からブルースが降ってくる。そして地獄の犬が俺をつけ回す



黒人のローカルな音楽だったブルースが、なぜ世界中で聴かれるようになったのか。その問いに対する答えがここにある。


歌われているのは、わけもなく心の中に湧き上がってくる不安や憂鬱についてだ。この生きることのしんどさは、1930年代の黒人に特有のものではなく、僕も含めすべての人々に共通する。生きている限り、すべての人間につきまとう。


「しんどいね、それでも、生きなきゃね」と歌うのがブルースなのだった。



ロバート・ジョンソンは27歳の若さで逝去し、のちの「27クラブ」の礎となった。死因には諸説あるけど、毒殺されたというのが一番有名みたい。ほかに梅毒による動脈瘤を原因とする説も。一説には生まれたときから梅毒にかかっていたとも言われているけど、そんなことってあるのかな?


尋常ならざるパフォーマンスが実は梅毒のおかげだったってのは、ちょっとカッコ悪いので、謎は謎のままの方がいいかもね。



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★





長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。