音楽MUSIC
土曜日の夜に 第16回 TLC『Crazysexycool』Text by Masami Takashima
店名が思い出せない。私の苦手な記憶力についてはさておきまだ学生だった頃の話。スタジオの上階にあった(と思う)その喫茶店はおそらく2回ほどしか行ってない。店内で流れていたTLCの3人が水の中で踊るVideoを友人と一緒に見たことをふんわりと思い出した。はじめてTLCを認識したのはその日だったかもしれない。
1994年11月にリリースされたTLCのアルバム『Crazysexycool』を聴いた。前号(https://bigmouth.co.jp/music/1084.html)でも書いているが90’s頃の私は、60’s~70’sの音楽を好んで聴いていたため、この作品もあまりに有名なアルバムだけれど全曲通してしっかり聴くのは今回初のことだった。
私は知らず知らずのうちにこのアルバムからの影響を受けていたのだと思う。時代が持っていた色や匂いみたいなものまで一緒に聞こえてきた。とても主観的な話になるが例えば時折通った古着屋で流れていたかもしれないし、憧れていたショップの店員さんや美容師さんが話題に出していたかもしれない。私はこのアルバムの断片をどこかで確実に聴いていたはずで、生活や暮らしの中のごくごく狭い範囲で感じていたその時代そのものとして私に保存された感覚なのだろうと思う。読んでいた雑誌、ファッションや街の空気、たべもの、特徴的な言葉、建造物など映像化されて音と一緒に私の脳内で再生された。その先の00年代とも異なるし、その頃好んで聴いていた70年代以前の音楽を聞いてもそういった映像化には繋がらない。もし学生時代の特定の思い出と繋げようとするならばきっとビートルズやアレサ・フランクリンなどを挙げるだろう。キックや、低音を強度にするベース、乾いたスネア。いまでも脈々とつづくサウンドメイクの好み、質感みたいなものはこの頃に知らず知らずに影響として私に残っていたものだったのだ。ちょっと愕然とした。私自身の音楽的な背景を理解するもの(とても個人的なことだけれど)としても改めて『Crazysexycool』すごいアルバムだったんだなと気が付いた。
前述のとおり90年代はリアルタイムで彼女たちの活動を追っていなかったけれどそれでもヒット曲も絶大な人気という事実もなんとなくは知っていた。少し前にきっかけは忘れてしまったけど、TLCのドキュメンタリーを見る機会があり彼女たちの歴史も知ることができた。1stもすごく良くて大好きになった。未熟だった当時の私は斜に構えてあえて聞かないふりをしてたのだろうか、実際はかなり影響を受けていたのにもかかわらず。私自身、音楽を長く続けてきたからこそ彼女たちの強くて優しいメッセージを素直に聴けたのかもしれない。この名盤を2021年に改めて出会い聴くことができてよかった。あいかわらずあの店名は思い出せないままだけど。
(前号の公開後いくつかのSNSで反応をいただきありがとうございます。感想などとても嬉しいです。)

1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com
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