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長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第90回 #11 The Sun Sessions (1999) - ELVIS PRESLEY 『サン・セッションズ』- エルヴィス・プレスリー

長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第90回 #11 The Sun Sessions (1999) - ELVIS PRESLEY 『サン・セッションズ』- エルヴィス・プレスリー

「プリクエル」(日本語で言う「前日譚)という言葉を知ったのは、かれこれ20年ほど前のこと。そのきっかけは、1999年公開の映画『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・オブ・メナス』だった。1977年から1983年に公開された『スター・ウォーズ』3部作(「旧3部作」とも呼ばれる)に先行する時代を描くシリーズの第1作で、この後に続く『エピソード2/クローンの攻撃』『エピソード3/シスの復讐』と3作にわたって、ジェダイの騎士のホープであったはずのアナキン・スカイウォーカーが「暗黒卿」と称されるダース・ベイダーになるまでの顛末が描かれている。


プリクエル映画の元祖は、『新・明日に向かって撃て!』(1979年)だという説がある。ジョージ・ロイ・ヒル監督の傑作西部劇『明日に向かって撃て!』(1969年)の主人公たちの若き日を活写した作品で、監督はビートルズ映画でおなじみのリチャード・レスター。私、この映画、公開時に田川・後藤寺の劇場で観ました。


しかし、「プリクエル映画の元祖」の称号によりふさわしいのは、ジョン・フォード・コッポラ畢生の傑作『ゴッド・ファーザー PART Ⅱ』だろう。プリクエルは映画の一部なので、厳密には「プリクエル映画」とは言えないんだけど、シチリア島を逃れた少年、ヴィト・コルレオーネがいかにして、ニューヨークの暗黒街で圧倒的なカリスマを誇るドン・コルレオーネになったのかが映画の見どころの一つとなっている。



今回のお題であるローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』(2003年発表・2012年改訂版)12位はまさに「プリクエル」。エルヴィス・プレスリーが、メジャー・デビュー以前にサン・レコードに在籍していた時の音源を集めたコンピ盤で、後年「キング」の座に上り詰めることになる青年エルヴィスのみずみずしい魅力が刻み込まれている。


・・・・・・はずなんだけど、このアルバムはなぜかAppleMusicにはアップされていない。


でも、検索するとユーザーが編集したプレイリストが3つ引っかかった。いずれもアメリカのファンが『サン・セッションズ』に収録された音源をピックアップしてまとめたんだろう。でも、それらの音源が本当に『サン・セッションズ』収録音源と同一のものか判断がつかなかったので、念のためにYouTubeにアップされている音源も確認してみた。



で、まぁ、なんだ、音源が同一でも同一じゃなくてもいいよね。同一じゃないかもしれんけど、聴き分けがつかんし。



そもそも、『サン・セッションズ』がリリースされたのは、1976年なんだけど、『史上最も偉大なアルバム』としてランクインしたのは、1999年にCD2枚組で発売されたエクステンド盤。詳細はよくわからんが、アウトテイクを加えたものだと推察される。アウトテイクまではさすがにフォローできないので、1976年リリース版に沿っていると思われるファン作成のプレイリスト収録の16曲をレヴューします。あしからず。



1976年にリリースされた際、全米カントリー・アルバム・チャートで2位を記録したことからもわかるように、バックの演奏はほぼカントリー。それにもかかわらず、この一連のレコーディングが、評論家の一部から「ロックン・ロール誕生」ともてはやされるのはなぜか? 


答えは非常にシンプル。なぜなら、「エルヴィスの声がロックン・ロール」だから。


エルヴィスのヴォーカルは、ブルースのようにも聴こえるし、カントリーぽくもあるし、そのどちらでもないようにも思える。決して激しくシャウトするわけではないんだけど、声の背後にはなにか張り詰めたものを感じる。


たとえば、2曲目の「ブルー・ムーン・ケンタッキー Blue Moon of Kentucky」は、最初期に録音された曲の一つで、もろカントリー・ソング。でも、エルヴィスのヴォーカルはそこにとどまらない。深みのある声はときにロマンチックに響くけど、リズミカルな節回しからはラフな印象を抱く。そのヴォーカルは決して聴くものに媚びない。


収録曲のうち、ロックン・ロールのにおいが濃厚なナンバーは、「今夜は快調! Good Rockin’ Tonight」「ベイビー・レッツ・プレイ・ハウス Baby Let’s Play House」「ミステリー・トレイン Mystery Train」の3曲だろう。「今夜は快調!」は勢いだけで押し切った感じだけど、「ベイビー・レッツ~」ではしゃくりあげ唱法を披露し、かなりロカビリー色が強い。そして、サン・スタジオでレコーディングした最後の曲と言われている「ミステリー・トレイン」でのエルヴィスは余裕綽々。ヴォーカルが楽器と一体になってグルーヴを産む。


エルヴィスがサン・スタジオでレコーディングを行ったのは、19547月から翌1955年の7月までなので、実質13か月足らずなんだけど、当時1920歳のエルヴィスが、日を追うごとに自信をつけ、独自のスタイルを築き上げていく様子が、この3曲を聴いただけでもわかる。


このエルヴィスが編み出した「スタイル」が、のちにロックン・ロールの典型の一つとなるわけだ。



でも、個人的に一番心を動かされるのは、アルバム冒頭に収録された「ザッツ・オール・ライト That’s All Right (Mama)」だ。サン・スタジオのオーナーであるサム・フィリップは、このセッションでエルヴィスの才能を確信したという。195475日、録音当時まだ19歳のエルヴィスのヴォーカルは、ストレートで繊細。まだ、成功を確信できないんだろう。不安を感じながらも自身を奮い立たせようと、真っ直ぐに前を見つめて歌っている姿が浮かんでくる。


エルヴィスの登場はユース・カルチャーに火を付け、ロックン・ロールを世界に広めたわけだけど、それが可能だったのは、彼が生まれながらの「キング」ではなくて、元々は純粋に音楽を愛する、名もない一人の若者だったからだ。「ザッツ・オール・ライト」から感じるのは、そんな若きエルヴィスの音楽に対する純粋な情熱なのだった。そこからすべてが始まったのだ。



ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』2012年改訂版で、エルヴィスのアルバムのうち最高位を記録したのは、今回レヴューした『サン・セッションズ』だった。それは2020年発表の最新版でも変わらない(順位は下がって78位だけど)。ということは、実はエルヴィス・プレスリーは、シングル「ハートブレイク・ホテル Heartbreak Hotel」で大ブレイクする前に、すでに「終わっていた」ということなのか? それはちょっと悲しい。そう言えば、バズ・ラーマンが監督した映画『エルヴィス』の公開日が71日(金)に決まった。スクリーンでは、彼の人生はどんなふうに描かれるんだろう。観たいような観たくないような・・・・・・。 





おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★

長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。