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長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第93回 #8 London Calling (1979) - THE CLASH 『ロンドン・コーリング』- ザ・クラッシュ
ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』(2003年発表・2012年改訂版)をカウントダウン形式でレヴューしているわけだけど、10位の『ザ・ビートルズ』、9位の『ブロンド・オン・ブロンド』と2枚組アルバムが続くなぁと思っていたら、8位も2枚組。とは言え、ビートルズやディランの2枚組とはワケが違う。なんと、イギリスではアルバム1枚の値段で販売されたのだ。さすがパンクの雄、ザ・クラッシュ。
アルバムに12インチシングルをオマケとして付けるとレコード会社に嘘をついて、そういう値段設定が可能になったそうな。金を持っていないキッズでも買えるようにという配慮。
カッコいいぜ、クラッシュ。
クラッシュは「政治的なバンド」と一般に言われている。ニカラグアの革命組織の名称である「サンディニスタ」を、『ロンドン・コーリング』に続く3枚組の4thアルバムのタイトルにしちゃうくらいだから、バリバリの左翼。デビュー直後からアンチ・レイシズムの姿勢を鮮明にし、当時のイギリス首相サッチャーの新自由主義にもNOを突きつけている。「音楽に政治を持ち込むな」とか「正しいとか正しくないとか決めたくない」とか言っちゃう本邦のヤワな連中とは違う。
ハードボイルドだぜ、クラッシュ。
そもそもパンクという音楽自体が、権力や体制に中指を立てることが本分なので、クラッシュが「政治的」であることは極自然なこと。それに、世界と真摯に向き合えば、必然的に政治的にならざるを得ない。クラッシュはマジメなのだ。
『ロンドン・コーリング』の収録曲にも、環境問題に原発のリスク、ドラッグ中毒、スペインの内戦、資本主義の非人間的な側面、メディアによるマインドコントロールなど、社会的なイシューが散見される。
メッセージ大事。クラッシュのアルバムでは特に大事。しかし、『ロンドン・コーリング』でそれ以上に大事なのは、音楽の強度だ。
「まずは音楽だ。政治性はその次だ」(ジョー・ストラマー)
そういうことだ。
このアルバムは、一旦聴き始めると19曲を一気にプレイしてしまう。タイトル・ソングの「ロンドンから宣戦布告するぜ」というアジテーションで幕を開けると、ロカビリー、ジャズ、ボ・ディドリー調のロックン・ロール、レゲエ、スカ、そしてもちろんストレートなパンクと、振り幅の広いジャンルの曲が繰り出される。でも、一枚を通すと「やっぱりパンクやなぁ」と思うのは、ジョー・ストラマーのヴォーカルの成せるワザか。
どの曲もキャッチーでエモーショナルだけど、曲の並びも、これ以外には考えられないというくらいにすばらしい。この点はプロデュースを務めたガイ・スティーヴンスの貢献によるものだろう。ガイは20歳のころからクラブでDJとして活躍。その後、音楽業界でプロデュース業やアーティストのマネジメントを手掛けるようになった。黒人音楽に造詣が深く、チャック・ベリー協会(なんだそれ)の会長も務めた。
『ロンドン・コーリング』レコーディング時は、アルコールのせいで奇行を繰り返していたらしいけど、絶妙な曲の配置は、彼のDJとしての感性がまだ生きていたということだろう。
ヨレヨレな「ジミー・ジャズ Jimmy Jazz」からキレッキレのロックン・ロール「ヘイトフル Hateful」になだれ込む瞬間とか、何回聴いてもたまらん。レコードでいうD面の「ラヴァーズ・ロック Lover’s Rock」からラストの「トレイン・イン・ヴェイン Train in Vain」までの流れも完璧。
ロックン・ロールの本質は多幸感にあると僕は思っているんだけど、その点でも『ロンドン・コーリング』はパーフェクトなロックン・ロール・アルバムだ。厳しい現実を歌っていたとしても、常に前を向こうというポジティヴさにあふれている。さらに言うとこのアルバムは「優しい」。ジョー・ストラマーもミック・ジョーンズもリスナーに語りかけるように歌う。だからその声は、僕らの心の奥の方にまで届く。
“これまで恥をかかされてきた/でも、もう大人になった/だから俺は負けない/俺は負けない”(アイム・ノット・ダウン I’m Not Down)
こんなこと言っていても、きっと、また負ける。大事なのは、それでも前を向いて「負けない」と言い続けることなのだ。このカッコ悪さがカッコいい。
17歳の夏以来、35年間聴いてきたけど、おそらく、一生聴き続けるだろうな。
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★
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