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転がる石のように名盤100枚斬り 第10回

転がる石のように名盤100枚斬り 第10回

#91 Goodbye Yellow Brick Road (1973) - ELTON JOHN 

『グッバイ・イエロー・ブリック・ロード 黄昏のレンガ路』- エルトン・ジョン



エルトン・ジョンの伝記映画が制作されると聞いて、なんだかなぁ、と思ったのは、僕だけだろうか?


イギリスの大物ミュージシャンを題材に、いま最も旬なトピックの一つであるLGBTを真正面から取り上げるという、『ボヘミアン・ラプソディー』の二番煎じ感。しかも、監督、同じ人。


エルトン・ジョンのアルバムは、1枚も持ってないし(CD棚精査済み・ただし、彼の曲を集めたカバー集は持ってた)、元々思い入れはさほどない。


ということで、伝記映画のことなんて、ま~ったく気にしていなかったんだけども、ここのところ、なんだか風向きが変わってきた(自分の中で)。


くだんの映画『ロケットマン』が初めて上映されたのは、今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭。終映後には4分間、スタンディング・オベーションが続いたそうな。そして、イギリス、アメリカで封切りされるや、大ヒット。レディ・ガガ主演で話題を呼んだ『アリー/スター誕生』を凌ぐ興行収入をたたき出す。


映画評論サイト『ロッテン・トマト』でも高評価というので、覗いてみると、評論家の90%、一般人の88%が支持している(2019年06/13現在)。ちなみに『ボヘミアン・ラプソディー』は、それぞれ61%と86%、『アリー/スター誕生』は、それぞれ89%と80%。『ロケットマン』の評価の高さは、群を抜いている。


さらに、心に刺さったのは、『Billboard Japan』の記事(http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/75984/2)。見出しにもなっているエルトンのコメントだ。



「僕はPG-13指定の人生を歩んできていない」



『ロケットマン』は、17歳未満の観賞には保護者の同伴が必要となるR指定。映画スタジオは、入場制限がなく、13歳未満の子供も保護者の注意があれば鑑賞OKなPG-13にすべく、セックスやドラッグに関するシーンを当たり障りのないものにしたかった。しかし、エルトンは頑なに拒否し、結果R指定となったという話。その理由が上のコメントというわけだ。


同じ記事で、映画に見られるファンタジー要素について、難色を示す映画スタジオに、必要な要素だとエルトンが説き伏せたというエピソードも紹介されている。


ファンタジー要素・・・・・・。


??????????


謎は深まるが、とりあえず、『ボヘミアン・ラプソディー』とはまったく異なるスタイルの映画であることはよくわかった。日本公開は、08月23日金曜日。劇場に足を運ぶべきか、検討することにします。


まずは、その前に、『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』91位にランクインした『グッバイ・イエロー・ブリック・ロード』を聴いてみよう。エルトン・ジョンの最高傑作と名高い作品。17曲入り、LPは2枚組の大作だけど、曲がバラエティに富んでいることもあり、飽きることなく一気に聴ける。


タイトル曲は、歴史に残る大傑作。曲はもちろん、ボーカル、アレンジも素晴らしい。すごくメロディアスだけど、ウエットじゃないのがいい。このタイトルは、「LGBTのアイコンであるジュディ・ガーランド(バイ・セクシュアルの女優)主演のミュージカル映画『オズの魔法使い』の中の、オズへ続く「黄色いレンガの道」を指している」とWikipediaにあるけど、あまりにできすぎた話。後付けじゃなかろうか。


その1つ前に収録されている「ベニーとジェッツ Bennie and the Jets」は、今回初めて聴いたんだけど、これがすごくカッコいい。ほかの曲とは明らかに趣が違って洗練された印象。なんとアメリカでは、ソウル・チャートで15位にランクインしたそうだ。確かにファンキーな感じ。


ほかにも、


ロックンロール・クラシックの一つ「土曜の夜は僕の生きがい Saturday Night’s Alright for Fighting」


メロディ・メイカーとしての技が冴えまくる「こんな歌にタイトルはいらない This Song Has No Title」


レゲエ風味の「碧の海ジャマイカにおいで Jamaica Jerk-Off」


「ダーティ、ダーティ」というリフレインがイカす「ダーティ・リトル・ガール Dirty Little Girl」


美メロがハードロックにのって展開される「女の子、みんなアリスに首ったけ All the Girls Love Alice」


むっちゃポジティヴなヴァイヴを放つ「ハーモニー Harmony」


などなど


グッド・ミュージックめじろ押し。さすが、エルトン・ジョン。彼がポップ・ミュージックのレジェンドであることは論をまたない。


でも、実を言うと、僕はずっと彼を「アーティスト」と言うよりも「芸能人」として見ていた。ショウビズの世界の住人。


おかしなメガネをかけ、派手な衣装を着て、ゴシップを振りまくという姿が、その見方を助長していたことは否めない。でも、それだけではない。


ルックスや言動以上に、『グッバイ・イエロー~』2曲目に収録されている「キャンドル・イン・ザ・ウインド Candle in the Wind」の影響が大きい。元はマリリン・モンローに捧げられた曲で、非情なショウビズの犠牲となった、彼女の生涯を歌っている。正直言って、曲自体はおセンチすぎて、共感はできないのだが、まぁ、そこは個人の好みなのでよしとする。


問題は、後年、ダイアナ元皇太子妃が不慮の死を遂げた際に、この曲を改変して追悼歌に仕立て直しことだ。あざと過ぎだろ、エルトン! しかも売れに売れまくり、史上最も売れたシングル曲として、ギネスに載ったらしいじゃないの、エルトン!!

 

自分に捧げられた歌をダイアナ妃に横取りされてしまったマリリン・モンローが不憫だ。死んだ後にもこの仕打ちって、「キャンドル・イン・ザ・ウインド」で歌われている、血も涙もないショウビズの所業と変わらんではないか。所詮、エルトン・ジョンは、アーティストではなく、芸能人か・・・・・・。


と、脊髄反射的に断罪してしまったけど、実際には、ダイアナ妃追悼版の「キャンドル・イン・ザ・ウインド」の売上は、チャリティ活動に寄付されたというから、それでエルトンが私腹を肥やしたわけではないし、自身がダイアナ妃と友人だったらしいので、他人には計れない想いが、歌に込められている・・・・・・のかもしれない。


そもそも、あれこれとケチをつけるほど、僕はエルトン・ジョンのことを知らない。やはり8月は『ロケットマン』を観に劇場に足を運んで、彼のひととなりを見届けるべきなのか。


『グッバイ・イエロー~』が、捨て曲なしの名盤であることは間違いない。でも、個人的には、まだまだ、エルトン・ジョンを人間的に信用できないんだよなぁ。そんな複雑な心境から・・・・・・



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★








長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。