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土曜日の夜に 第35回 Text by Masami Takashima

土曜日の夜に 第35回 Text by Masami Takashima

 ババロアの話になった。ずいぶん長い間食べてないような気がする。フランスを代表する冷製のお菓子。プリンのようなムースのような柔らかくて冷たいスイーツ。子供の頃来客の予定がある日食卓にはモロゾフのプリンがいつもあった。特注のガラスの容器に入ったヨーグルトプリン、チョコレートプリン、はたまたコーヒーゼリー。私はモロゾフのカスタードプリンが好物なので箱を開けて中身を確かめるのが楽しみだった。時にはその箱の中にババロアがあったように思う。ぼんやりとそんな風景が甦り抜群の記憶力の母親に尋ねてみたけれど「あったかもしれない」みたいな返答。「ババロア」という曲がスピッツのアルバム「三日月ロック」に収録されているが、発売からもう20年経っていることに驚いてしまった。


 今年は私自身が何かと慌ただしくて、時が過ぎる速度に気持ちが追いついてないけれど、上半期があっという間に終わってしまった気がする。コロナ禍と呼ばれる状況が始まってから今までの時間の感覚はなんだかとても曖昧だ。こういう話は知人とよく話題にあがるけれど、2019年が去年のように感じたり、すごく前に感じたり。暮らしも、季節の取り入れ方も「コロナ禍」という言葉のなかにひとくくりになってうもれている。逆に強烈に感情や思考と結びついて心に残っていることもある。音楽を取り巻く環境はとても複雑だったけれど、この3年は音楽の居場所、音楽が生まれる場所についてとてもよく考えた。先月終わりに出演したイベント「LOW MID」のことを書きたいと思う。





久しぶりの福岡は大雨。到着した頃は雨が一時的に弱くなっていたけれど駅ではタクシーを待つ人の列が連なっていた。行きたかったレコード屋とお店などいくつかの予定を諦めて会場へと向かった。早くにサウンドチェックをすませて、少しのんびりしていると人々が続々と集まってきた。the perfect meのライブでRhodesはいい音を鳴らしていたし、ポップで複雑な構成の楽曲のフィジカル演奏にVJも加わりダンスミュージック的な要素が強化され、フロアの人々は好きなドリンクを片手に音楽に身をまかせ踊っていた。uamiのライブはiPhoneとマイクのみというシンプルなセッティングながらも歌、高揚するトラックとセットリストも素晴らしく圧巻のパフォーマンス。ジャンルで括れない最新の音楽たち。2組とも最高だった。私はシンセとドラムマシン、会場で借りたエレピを使って少し遅めのBPMで演奏した。外は前も見えないほどに雨足がひどくなっていたけれど、会場ではTsuda YuitsuのDJ。インディーミュージックだけではなく新旧様々なレコードが次々と繋がれて音楽の夜は続いていった。新しい音楽を探している人、いつもの居場所の人、会話をしたい人、ライブが好きな人、初めましての人、近い世代の様々な想いを持った人たちが音楽を中心に集えるパーティーが毎月開催されているってとてもいい。福岡という街で新しい音楽が産まれ根付いていく現場で演奏できてとても刺激を受けた。いい夜!(写真はオープン前のthe perfect me)




 





 





Masami Takashima
Masami Takashima

Masami Takashima Takashima Masami

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1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com