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トム・ウェイツ、40周年を迎えた『ソードフィッシュトロンボーン』他、“アイランド・レコード三部作”がリマスターで9月1日に再発

トム・ウェイツ、40周年を迎えた『ソードフィッシュトロンボーン』他、“アイランド・レコード三部作”がリマスターで9月1日に再発

唯一無二の歌声と音楽表現であらゆる世代に影響を与え続ける孤高のシンガー・ソングライター、トム・ウェイツがアイランド・レコードから発売した『ソードフィッシュトロンボーン』『レイン・ドッグ』『フランクス・ワイルド・イヤーズ』の3枚のCDが9月1日に発売となった(残りの2枚『ボーン・マシーン』と『ブラック・ライダー』は10月6日発売)。それぞれが最新リマスター音源となり、日本盤のみSHM-CD仕様となっている。 

 

一連のリイシューはトム・ウェイツ自ら、キャスリーン・ブレナンと共に監修。バーニー・グランドマン・マスタリングのクリス・ベルマンによって、ウェイツの長年のオーディオ・エンジニアであるカール・ダーフラーの監督のもと、新たにオリジナル・テープからリマスタリングされた。

 

40年前の9月1日は斬新かつ独創的なアルバム『ソードフィッシュトロンボーン』(1983)が世に送り出された日であり、このアルバムで、ウェイツと長年のソングライティングおよびプロダクションのパートナーであるキャスリーン・ブレナンとの、絶賛された新しい音楽の時代が幕を開けた。

 

「頭の中の雑音に耳を澄ませて、ガラクタ置き場みたいなオーケストラ的な脱線を作りだそうとした――そのミュータントみたいな装置が、脳内の雑音を残骸のコレクションに突っ込ませるんだ」(トム・ウェイツ、1983年)

 

トム・ウェイツのキャリア中期のアイランド・レコード時代(1983年~1993年)の革新的なスタジオ・アルバムの数々を、オリジナルテープから新たにリマスタリングしたアルバムがCD、LP、デジタルでリリースされることが発表されていたが、『ソードフィッシュトロンボーン』、その壮大で秩序なき続編ともいえる『レイン・ドッグ』(1985)、そして“アイランド三部作”完結編であり悲喜劇的ステージ・ミュージカルのアルバム『フランクス・ワイルド・イヤーズ』(1987)の3枚のCD が9月1日に発売された。これら3枚のLPは9月22日発売予定。

 

1990年代の2枚、壮大な連作楽曲のアルバム『ボーン・マシーン』(1992)と、ウェイツ、ロバート・ウィルソン、ウィリアム・S・バロウズによる音楽的寓話『ブラック・ライダー』(1993)はCD、LP共に10月6日に発売される。『ブラック・ライダー』もこの9月で30周年を迎える。

 

 

◆商品情報

各2,750円(税込)/日本盤のみSHM-CD仕様

試聴・購入:https://umj.lnk.to/TomWaits_iy

 

2023年9月1日発売

UICY-16172『ソードフィッシュトロンボーン(リマスター)』(Swordfishtrombones)

UICY-16173『レイン・ドッグ(リマスター)』(Rain Dogs)

UICY-16174『フランクス・ワイルド・イヤーズ(リマスター)』(Franks Wild Years)

 

2023年10月6日発売

UICY-16175『ボーン・マシーン(リマスター)』(Bone Machine)

UICY-16176『ブラック・ライダー(リマスター)』(The Black Rider)

 

 

◆リンク

公式サイト(日本)(アイランド・レコード時代):https://www.universal-music.co.jp/tom-waits/

OFFICIAL SITE(海外): http://www.tomwaits.com/

 

 

<9月1日発売アルバム紹介(公式資料より)>

 

(1)『ソードフィッシュトロンボーン』

『ソードフィッシュトロンボーン』(キャプテン・ビーフハート&ヒズ・マジック・バンドの最高傑作『トラウト・マスク・レプリカ』に敬意を表したタイトル)は、いわばウェイツ流のパスティーシュで、多様なサウンド・パレットから選んだ、様々な雰囲気がつまっている。アルバムには、曲がりくねったアリの行進風の「アンダーグラウンド」や、街で貧しい暮らしをする人々について印象的に歌った、痛切で簡素なピアノバラード「兵士の持ち物」、酒場の良き長話風「ワイルドなフランクの話」(同名ミュージカルの元になった)、ウェイツの妻でありミューズでもあるキャスリーンへの愛情のこもったミニマムな賛歌「イリノイ州ジョーンズバーグの町の歌」、近隣住民のカオスに対する不調和なアンセム「イン・ザ・ネイバーフッド」などがある。楽曲は、独創性にあふれていて、しかもショッキングだ――特に、彼と長年の付き合いがあったレーベル、エレクトラ/アサイラムにとっては。そしてエレクトラ/アサイラムは、このアルバムを拒んだ。

 

正しく言うと: エレクトラ/アサイラムが拒絶したのは、国際的にも熱烈に支持され、称賛される7枚のアルバムを出し、1982年にはフランシス・フォード・コッポラ監督の映画『ワン・フロム・ザ・ハート』のための“ティン・パン・アレー”スタイルの楽曲でアカデミー賞にノミネートされたアーティストだ。アイランド・レコードの創設者クリス・ブラックウェルは、即座にウェイツをつかまえ、『ソードフィッシュトロンボーン』をリリースした(ウェイツの初プロデュース・アルバム)。その結果は? 音楽雑誌スピンは、史上2番目に素晴らしいアルバムだと評し、ローリングストーン誌は“優れている”と表現し、ニューヨークタイムズ紙は“革新的”と評した。エルヴィス・コステロは“僕は嫉妬した”と後にコメントした。

 

ウェイツが大いに信頼を寄せるブレナンは、いくつかの楽曲では共作者であり、ウェイツが音楽上で影響力を広げる助けとなるような、新たな自由や発想を彼に与えた。ウェイツはインタビューで言った。“キャスリーンは、僕を説得した初めての人間で、ジェイムズ・ホワイト・アンド・ザ・ブラックスやエルマー・バーンスタインやレッド・ベリー――共演なんてあり得ない人々だ――を呼ぶことだってできるし、彼らが僕を呼んで共演することもあり得ると言った。パパの軍服と、ママのイースター・ハットと、弟のバイクと、妹のハンドバッグを持ってきて、それら全部を縫い合わせて、そこから何か意味のあるものを作りだそうとしてもいいとね”


Tom Waits - "In The Neighborhood"  


 

(2)『レイン・ドッグ』

『ソードフィッシュトロンボーン』と『フランクス・ワイルド・イヤーズ』と共に事実上の三部作を成す中の2作目にあたるアルバムだ――ローワー・マンハッタンにある地下室で作曲され、ニューヨークのRCAでレコーディングされた。その地に、ウェイツとブレナンは、1984年に引っ越した。そのほうが創作に良いのではないかとブレナンが提案したからだ。その通りだった。53分間、19曲のモンスターアルバム『レイン・ドッグ』は、一種のミュータントで、変幻自在のバンドが演奏するのは20世紀末ミュージカル版の“カンタベリー物語”だ。この陽気で粗野な作品には、バンジョー、マリンバ、ミュージック・ソー、マーチング・ドラム、ミュージック・ホーン(それにキース・リチャーズとマーク・リーボウ)が登場し――ウェイツも自分の声をますます奇妙でワイルドなやり方で駆使している(エスクァイア誌は“アメリカ中でもっとも独特”と表現した)。アルバムには、物語風、サーガ、哀歌、ブレイクダウン、性格描写、コメディ、キャバレー音楽があり、ザ・ローリング・ズトーンズがカバーするべきだったウズウズするような「ハング・ダウン・ユア・ヘッド」や、後にパティ・スミスやロッド・スチュワートにカバーされた胸を打つアンセム「ダウンタウン・トレイン」がある。これらはすべてブレナンとの共作であり、ブレナンは「ガン・ストリート・ガール」や「ジョッキー・フル・オブ・バーボン」の制作にも携わっている。

 

ウェイツがアルバム・タイトルにした“レイン・ドッグ”とは、嵐で臭いが失われて道がわからなくなった犬のことだ。アルバム中の迷い犬には、例えば、放浪する商船のぶっきらぼうな船員(「シンガポール」)や、食肉処理場のアコーディオン奏者(「セメタリー・ポルカ」)、見捨てられ、引きこもった女性(「タイム」)、年老いた酔いどれやユニオン・スクエアの街娼を歌った「ガン・ストリート・ガール」、そしてウェイツ自身までいるのだ。“破滅の列車に乗って/傘はレイン・ドッグにくれてやる/僕もレイン・ドッグだから……”

 

“物語に出てくる人々のほとんどは”1985年にウェイツは語った。“ここで曲がったり、そこで曲がったりして、ドアから出て行き、そして誰かが彼らを拾って、それで皆、道を進んできた。彼らは自分たちでも気づかないうちに道に迷ったんだ。「シンガポール」はそんな感じだ。台湾のリチャード・バートンだ”

 

作詞の仕事ぶりは、いつものウェイツと比べても、最初から驚くほどのものだった。ニュー・ミュージカル・エクスプレス誌は『レイン・ドッグ』をアルバム・オブ・ザ・イヤーに選び、ローリングストーン誌は80年代のベスト100アルバムの21位に選び、またロバート・ディメリーによる本『死ぬ前に聴くべき1001枚のアルバム』にも選ばれた。このアルバムはどんどん名声を獲得していき、多くの批評やエッセイで称賛された。2019年、人気のあるコンテンポラリーのシンガー・ソングライター、キアラン・ラヴェリーはアイリッシュ・タイムズ紙にこう書いている。“(『レイン・ドッグ』を)ジャンルで定義したり、分類整理したりするのは無理だ。こんなアルバムを聴いたことのある者は一人もいないだろうし、‘・・・によく似ている’と言える者もいないだろう”


Tom Waits - "Downtown Train"  


 

(3)『フランクス・ワイルド・イヤーズ』

『フランクス・ワイルド・イヤーズ』というアルバムは、同名のウェイツのミュージカルに基づいている。ウェイツも主要な役どころを演じ(監督はゲイリー・シニーズ)、シカゴの劇団ステッペンウルフ・シアター・カンパニーによって、1986年の夏に興行された。アルバムのレコーディングは主にハリウッドで行われた。『フランクス・ワイルド・イヤーズ』のアイデアは、『ソードフィッシュトロンボーン』で語られた言葉から生まれた。中古家具のセールスマン(フランク)は、“使用済み燃料みたいなフライトアテンダント崩れの”妻と、彼女の飼い犬で目が見えないチワワのカルロスと共に、中産階級の抑圧された存在として暮らしていたが、自分の家を燃やしてしまう。そして、車のバックミラーに映った、煙を上げる家の残骸を見ながら、彼は高速道路を飛ばすのだ。“あの犬には我慢ならなかった”と捨て台詞を吐きながら。

 

ウェイツとブレナンはこれをフランクというアコーディオン奏者に仕立て上げた。フランクは、レインヴィルという架空の街を脱出し、スターの地位を求めてラスベガスやニューヨークへと、破滅的だが気高い旅に出る。そして最後には一文無しになって途方に暮れ――フランクは“道に転がっている面倒には片っ端から首を突っ込む男だ”とウェイツは言う――レインヴィルに戻ることを夢見るのだ。セントルイスの公園のベンチで寒さに震えながら。それから突然、はっと目を覚ましたフランクは、自分がいる場所が、そもそもの出発点だった故郷の酒場であることに気づく。

 

ブレナンはこれを“ロマンチックなオペラ”と名付けた。

 

『フランクス・ワイルド・イヤーズ』にはオペラっぽさはないが、「テンプテイション」にはウェイツによって作られたオペラ的な陽気な要素がある。ウェイツのヴォーカルの特徴はアルバムの全17曲の中で多種多様だ。なかでもこれ以上ないほど印象的なのは、しわがれ声でうなるような歌声が、非の打ち所のないヴェガスのシナトラっぽい歌い回しに変わる「ストレイト・トゥ・ザ・トップ」だ。ミュージカルの『フランクス・ワイルド・イヤーズ』の舞台では14人のキャストが出演していたが、アルバムはすべてウェイツだ――それでも、彼のカメレオンのようなヴォーカルのおかげで様々なキャラクターが思い浮かぶ(その理由の一つには、ラジオシャックで購入された29.95ドルのFanonのトランジスタ・メガホンを使用したこともある)。映画で演じることは、楽曲を歌う上でも、より良く歌う演者になるのに役立った、とウェイツは言っていた。

 

『フランクス・ワイルド・イヤーズ』は、失われた夢、悪い夢、夢ではない恐れもある夢だ。音楽は悪夢のようで、この世のものとは思えないほど美しい。思い描いてみてほしい。壊れたカリオペ [訳注:19世紀半ばのパイプオルガン] を弾く天才的な子どもたち、墓場で夜明けに吹き鳴らされる管楽器、練習室の壁越しに漏れ聞こえるバンジョーを。ウェイツの全作品の中でも、この作品のオーケストレーションは、驚くほどにミュージカルの環境にぴったりあった感覚だ。オープニング曲の「セント・クリストファー」(“「タラス・ブーリバ」(ゴーゴリ作の小説)の楽曲だよ。一種のタランテラだ”とウェイツは言った)から、パチパチ音を立てる昔ながらのSPバージョンの「夢見る頃はいつも(78)」まで、『フランクス・ワイルド・イヤーズ』は、その雰囲気を保ち続ける。様々な楽器の中には、オプティガン(70年代初めにJ.C.ペニーで買ったキーボード)や、雄鶏の鳴き声(「アイル・ビー・ゴーン」で目立つかたちでウェイツによって楽しげに入れられている)や、陶器のつぼや、アコーディオン(デイヴィッド・イダルゴ)、レスリー・ペダル(胸の高さまで持ち上げられた)や、ミュージック・ソーなどがある。ラルフ・カーニーは、「ダウン・イン・ザ・ホール」で3つの管楽器を同時に演奏している。

楽曲のタイトルは、どれもフランクの安価な“冒険旅行”を思い起こさせるもので、例えば「ストレイト・トゥ・ザ・トップ」、「ブロウ・ウィンド・ブロウ」、「テンプテイション」、「アイル・ビー・ゴーン」がそうだ。作詞は、その必要があるところでは語り口調で、画像的に面白いものも数多くあり、まさに滑稽なところもあり、ときおり奇怪でもある。誰しも涙なしには聴かれない「フランクの詩」や「夢見る頃はいつも」も外せない。

ニュー・ミュージカル・エクスプレス誌は、このアルバムを1987年の第5位に位置づけた。

 

“思うに、これが1つの章を終わらせるんだ”と、リリース後にウェイツは言った。“どういうわけか、これらのアルバムは3枚で1つのようだ。フランクは『ソードフィッシュトロンボーン』で出発し、『レイン・ドッグ』で楽しい時を過ごして、『フランクス・ワイルド・イヤーズ』ですっかり成長するんだ”。


Tom Waits - "Temptation"  


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