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転がる石のように名盤100枚斬り 第11回

転がる石のように名盤100枚斬り 第11回

#90 Talking Book (1972) - STEVIE WONDER

『トーキング・ブック』- スティヴィー・ワンダー


AppleMusicSpotifyといったサブスクリプション・サービスが普及し、低コストで気軽に音楽が聴ける時代、せっかくだから、「名盤」と言われるアルバムを片っ端から聴いてみようじゃないの、と始めたのがこの連載。


しかしだ。栗善氏からのメールに曰く「サブスクを使っている人が福岡は少ないようです、、、」



ぬな?



そうなの? みなさん、アレですか、やっぱりYoutubeで聴いてるんですか? やっぱり、映像付いてないとダメっすか? そういや、こないだ我が家に遊びに来た小5の姪に、YoutubeTWICEの歌を死ぬほど聴かされたなぁ。


それとも、アレですか、「音楽はやっぱりフィジカル(CDとかレコードのことを業界の人々はこう言うと聞きました)で聴かなきゃダメっしょ。サブスクとか邪道。アーティストへの背信行為」とか?


サブスクリプション・サービスに喜んでいるのは、低所得でほかにこれといった趣味もない、自分みたいなおっちゃんだけなんかもしれんねぇ。



まぁ、楽しいからいいけど。



気を取り直して、スティーヴィー・ワンダーの『トーキング・ブック』を聴くことにする。『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』90位にランクインした名盤である。


いつものように、AppleMusicでアルバム名を検索。なぜか出てこない。次に「スティーヴィー・ワンダー」で検索して、アルバムのリストをチェックすると・・・・・・ない。『トーキング・ブック』がない。どうも、アメリカのAppleMusicでは聴けるけど、日本ではダメみたい。



まじか。



こんな事態が起こることは、予想していなかったわけではない。AppleMusicで聴ける曲数は5000万曲以上と言われてるけど、そりゃ、カバーしていないアーティストやアルバムはありますよ。インディ・バンドだと、契約の問題もあるし、ないことを覚悟しながら検索しているわけで(それでもかなりの高確率で見つかる)。


しかし、よりによって『トーキング・ブック』ですよ! スティーヴィー・ワンダー屈指の傑作が聴けないとは!!


「もしや」と思い、YouTubeで検索してみると、あるじゃん、『トーキング・ブック』。どうやらタダで全曲聴けるみたい。どういうことよ・・・・・・。


例のごとくこのアルバムのCDを所有していたので、Macに取り込んで、何事もなかったかのように、レビューすることにする。


まず、6曲目に収録されている「迷信 Superstition」に触れないわけにはいかない。スティーヴィーの全キャリアでも、最重要曲の一つに数えられる名曲でしょう。僕が初めて聴いたのは、おそらく、中学生のころ。FMラジオから流れてきたときだったのだと思うけど、筑豊の少年にはかなり刺激が強かった。ソウルもR&Bもファンクも知らなかったし。この曲で初めてまともに黒人音楽に触れたんじゃないだろうか。好きとか嫌いとかじゃなくて、「なんかすごいなぁ、ぽか~ん」って感じ。この曲のインパクトが強すぎて、実際にCD を手に取るまで、アルバムタイトルも「迷信」だと思い込んでいました。


アルバムをちゃんと聴き込んだのは、大学に入ってからだったけど、「迷信」以外にも名曲揃い。どの曲もメロディにフックが効いていて、一度聴けば心に残る。


トップを飾る「サンシャイン You are the Sunshine of My Life」は、イントロのほわほわほわ~んとした感じが好き。諭すように歌う「バッド・ガール  You've Got It Bad Girl 」(邦題は「悪い娘」みたいになっているけど、「Girl」は呼びかけなので意味違う)は、おしゃれなアレンジ。「ブレイム・イット・オン・ザ・サン Blame It on the Sun」なんて、「太陽のせいさ」ってかっこよすぎなタイトル。「チューズデイ・ハートブレイク Tuesday Heartbreak」も粋だねえ。ラストの「アイ・ビリーヴ  I Believe (When I Fall in Love It Will Be Forever) 」とか、何回聴いても感動的。

スティーヴィーのヴォーカルはパワフルだし、リズムの展開や、サウンド処理にも遊び心があって、聴くほどに楽しい。


『トーキング・ブック』は、スティーヴィー15枚目のオリジナル・アルバムであり、あまりにクオリティが高いので、つい忘れがちだけど、実は、スティーヴィー・ワンダー22歳のときの作品なのだった。若い!


スティーヴィーがモータウンと契約したのはなんと11歳のころ。ヒットを飛ばしながらも、印税は21歳まで支払われないという契約だった。そんな彼がようやく「大人」として世に問うたのがこのアルバムだったのだ。


頭上を覆っていた雲は晴れ、晴れ渡った空がどこまでも広がっているようにスティーヴィーは感じたんじゃないだろうか。明るい未来を確信する、22歳の希望と自信と野心が、アルバム全体にみなぎっている。だから、失恋をテーマにしていても、なぜか明るい印象が残るのだ。


『インナーヴィジョンズ』(1973年)、『ファースト・フィナーレ』(1974年)、『キー・オブ・ライフ』(1976年)と、1970年代のスティーヴィー・ワンダーは、他を圧倒するような傑作を次々と発表する。『トーキング・ブック』は、その礎とも言える作品だ。AppleMusic、はよ、日本でも聴けるようにせんかい。そんな抗議も込めて・・・・・・




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★









長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。