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転がる石のように名盤100枚斬り 第15回

転がる石のように名盤100枚斬り 第15回

#86 Born in the U.S.A. (1984) - BRUCE SPRINGSTEEN

『ボーン・イン・ザ・U.S.A. - ブルース・スプリングスティーン



日本で「ボス」と言えば、まぁ、普通は缶コーヒーか、『太陽にほえろ!』の石原裕次郎(昭和ネタ)のことですよね。でも、ロックの世界で「ボス(The Boss)」と言えば、ブルース・スプリングスティーンのことなのである。


世の中には「誤解されやすい」人がたまにいるけど、スプリングスティーンは、まさにその典型。「ボス」なんてアダ名がついちゃってるから、マッチョで保守的なイメージを持つ人も出てくる。


実は、中学生のころの僕も、スプリングスティーンを誤解していた一人だ。発端は、『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』86位にランクされたアルバム『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』のタイトル・ソングだった。この歌は、その影響力の大きさから、後年までスプリングスティーン自身を悩ませることになる。


その経緯は、知っている人も多い思うので、簡単に。「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」という曲は、ベトナム帰還兵に対するアメリカ社会の冷酷な仕打ちを描いた、硬派な社会派ソングなのである。しかし、当時のレーガン大統領(ムッチャ保守&タカ派)が選挙キャンペーンに使用したこともあり、愛国主義的な歌として世間に広まってしまった。スプリングスティーンは根っからのリベラルで、民主党支持者だったので、大いに困惑したという話。



で、そのころ中学生の僕も、まんまと勘違いしていたわけだ。



だって、バンダナを頭に巻いて、ノースリーブのGジャンとTシャツ着たガタイのいい兄ちゃんが、「おいらはアメリカ生まれだぜぇ~」と拳を突き出してがなり立ててるのを見たら、「愛国主義やば、マッチョやば」と思うよね。



歌詞なんて読むわけがない。



ボス、あの時は、本当にすみませんでした。



さて、改めてアルバム『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』の冒頭を飾る問題の曲を聴いてみよう。


力強いドラムと高らかに鳴り響くシンセサイザーで幕を開け、そこにスプリングスティーンのシャウトがかぶさる。


そのあとに押し寄せるのは、ライヴ会場に放り込まれたかのような臨場感と高揚感。そりゃ、愛国アンセムだと勘違いするのも無理ない。聴いていると気分がアガる。スプリングスティーンの苦悩? 当惑? そんなん、知らん。


のちに発表したライヴ・アルバムでは、随分渋めのアレンジで披露したりもしているので、スプリングスティーンも本人も、「このアレンジはヤバかったわ」と反省しているようだ。だよね。ボスが悪いよ、ボスが。



ならば、なんでこんな扇情的なアレンジを選択したのか?



激シブな前作『ネブラスカ Nebraska』(1982年)の反動だという見方もできる。でも、答えはもっとシンプルで、スプリングスティーンが、『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』がメガ・ヒット・アルバムになることを望んだからだと、僕は思う。


スプリングスティーンは「売れる」ということに貪欲なアーティストだ。売れるということは、その音楽が人々に「届く」ということ。その点にスプリングスティーンはすごく自覚的なのだ。


『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』がリリースされた当初、「スプリングスティーンは時代に迎合した」なんて声もあったようだけど、実際、その通りだし、その姿勢は批判するにあたらない。流行から距離を置いて孤高のアーティストを気取るのではなく、流行も取り込んで、一人でも多くの耳に音楽を届けることを、スプリングスティーンは選んだのだ。


市井のアメリカの人々のストーリーに最新型のサウンドを纏わせること。1984年の音楽シーンにおいて、この手法は大正解だった。アルバム『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』は、なんと全世界で2000万枚の売上を記録する。スプリングスティーンのメッセージをアメリカ全土はもちろん、世界中の人々に届いた。



そのメッセージが正しく理解されたかどうかは、置いておいて。



タイトル曲のインパクトが強いけど、全12曲に捨て曲なし。いかにも80年代なシンセがフィーチャーされた「ダンシング・イン・ザ・ダーク Dancing in the Dark」や、ドナ・サマーに提供するつもりで書いたという「カバー・ミー Cover Me」などのシングル・ヒット以外にも、出口の見えない生活を描いた「ダウンバウンド・トレイン Downbound Train」、ライヴの定番曲「ノー・サレンダー No Surrendar」、幼なじみとの別れを歌った「ボビー・ジーン Bobby Jean」などなど、歌詞に耳を澄ませば、スプリングスティーンが、このアルバムでも変わらず、アメリカのありふれた人々の生活や葛藤、希望や挫折を、繊細に、そしてリアルに描き出していることがわかるだろう。


スプリングスティーンは、今年の6月に『ウエスタン・スターズ Western Stars』というこれまた素晴らしいアルバムを発表。いつになく穏やかな曲調にのせて、ロード・ムーヴィーにような情景が描き出される。残念ながらマドンナの新譜に阻まれ全米チャートでは2位止まりだったが、全英では初登場1位を記録している。


やはり、スプリングスティーンの音楽は、人の耳に届いてなんぼなのである。

聴かず嫌いの人の耳にも彼の歌が届くことを祈りつつ・・・・・・




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★









長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。