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転がる石のように名盤100枚斬り 第16回

転がる石のように名盤100枚斬り 第16回

#85 Lady Soul (1968) - ARETHA FRANKLIN

レディ・ソウル - アレサ・フランクリン


「不世出」と言っていいと思う。ポピュラー・ミュージックの歴史のなかでも、もっとも偉大なシンガーの一人、アレサ・フランクリンがこの世を去って、もうすぐ一年が過ぎる。


彼女の死に際して、ディオンヌ・ワーウィック、バーブラ・ストライサンド、チャカ・カーン、マライア・キャリー、レディー・ガガ、アリアナ・グランデ、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、エルトン・ジョン、エリック・クラプトン、ブライアン・ウイルソン、クインシー・ジョーンズ、チャンス・ザ・ラッパー、グレアム・コクソン、リアム・ギャラガー、ザ・ローリング・ストーンズ(バンドのツイッター・アカウント)、U2(バンドのツイッター・アカウント)、オバマ元大統領夫妻などなど、錚々たる面子が追悼の意を表した。


彼女の才能は、「マーケティング戦略、広告、そしてSNSいいね!」の手が及ばない「ピュアでクリエイティヴで、これ以上なく誠実なもの」だったとコメントしたのは、ザ・ルーツのクエストだ。



まったくその通りだと思う。



我が家にある、唯一のアレサのアルバムは『ゴスペル・ライヴ One Lord, One Faith, One Baptism』(1987年)。マジなゴスペル・アルバム。ジャケは十字架をバックにしたアレサ。なんで買ったのかは覚えていない。当時、深刻な悩みでもあったのかしら。買った当時は、結構、愛聴した覚えがある。


その前か後かはわからないけど、ザ・ビートルズ好きの嗜みとして購入した、コンピレーション・アルバム『Meet the Covers: A Tribute to the Beatles』に収録されていたアレサのパフォーマンスも印象深い。


アース・ウインド・アンド・ファイア、リトル・リチャード、ウィルソン・ピケット、アイク・アンド・ティナ・ターナーなどソウル・シンガーに留まらず、ママス・アンド・パパス、トッド・ラングレン、スージー・アンド・ザ・バンジーズという訳がわからんメンツによるザ・ビートルズのカバーを集めた、要は、ごった煮寄せ集めアルバムだ。


ここに収録されたのは、アレサによる「レット・イット・ビー Let It Be」。元々、この曲は、ポール・マッカートニーが、アレサのために書いたという説がある。ザ・ビートルズで録音する際も、「ゴスペルっぽくしたいんだけど、どうすればいいかな?」と、ポールがビリー・プレンストンにアドバイスを求めたとも伝えられているので、この曲の制作時、ポールの念頭にアレサのヴォーカルがあったことは間違いないだろう。


で、実際にアレサが歌うと、まんまゴスペルなのだ。バックのサウンドは普通のソウル・ミュージックなのだけど、アレサの声がのると、崇高とさえ言える響きが加わる。「ゴスペルっぽくしたいんだけど、どうすればいいかな?」というポールの質問に対する正解は、「アレサに歌ってもらうこと」だった。


アレサの父ちゃんは牧師で、アレサは幼いころから、彼の教会でゴスペルを歌っていたらしい。彼女の表現の根っこはこの時に生まれたんだろう。


『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』85位に選ばれたアレサ・フランクリンの『レディ・ソウル』は、当時クリームに在籍していたエリック・クラプトンが参加していることでも知られている(「グッド・トゥ・ミー Good to Me As I Am to You」)。また、ザ・ローリング・ストーンズの追悼ツイートでは、このアルバムのジャケットがフィーチャーされていた。



ちなみに、このジャケのアレサは、南海キャンディーズのしずちゃんにちょっと似ている。



トップを飾る「チェイン・オブ・フールズ Chain of Fools」、ジェイムズ・ブラウン作「マニー・ワント・チェンジ・ユー Money Won’t Change You」といった王道のR&Bはごきげんだし、ラスカルズのカバー「グルーヴィン Groovin’」も洗練された魅力がある。カーティス・メイフィールドによる名曲「ピープル・ゲット・レディ People Get Ready」は、いろんなアーティストにカバーされているが、アレサのヴァージョンには独特の神秘的な響きを感じる。


そんな傑作ぞろいのこのアルバムのなかでも、特筆すべきは、キャロル・キングとジェリー・ゴフィンの黄金コンビによる「ナチュラル・ウーマン (You Make Me Feel Like) A Natural Woman」だろう。


この曲は、キャロル・キングの名盤『つずれおり Tapestry』(1971年)にも収録されている。先にそっちのバージョンを聴いた時は、「あなたといると自分らしくいられるの」なんていう「大人の恋愛」について書かれたものだと思っていた。


しかし、アレサのバージョンを聴くと、なんか違う。アレサのヴォーカルは結構控えめで、決して大げさに歌い上げているわけではない。でも、彼女の歌は目の前の恋人ではなくて、もっと大きな存在に向かって歌っているように聴こえる。彼女の声の包み込むような大らかさや深みがそんな印象を与えるのだ。


この曲に限らず、彼女のパフォーマンスからは、一貫して懐の深さ、抱擁力を感じる。気持ちが高揚すると同時に、心が癒されていく。これが「ゴスペル・フィーリング」と呼ばれるものなんだろうか。



アレサの声は、いつも、どんな歌でも、優しく響く。



訳あって、この夏は、福岡を離れ京都に単身赴任。カプセルホテルで毎晩、枕を濡している。そんな五十路前のおっちゃんの心も優しく癒してくれるということで・・・・・・



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★











長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。