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ロックン・ローヤーの音楽なんでもコラム Vol.1

ロックン・ローヤーの音楽なんでもコラム Vol.1

また4月が来たよ。って、椎名林檎さんの「ギプスの一節です。意外とここの意味考えていないという人もいるみたいなのですが、せっかくの4月なので、僕なりの解釈を披露します。ご本人に尋ねるチャンスがあればいいのですが、それも無粋かと思うし。

この曲に出てくる「カート」と「コートニー」がヒントになるのではないかと思います。90年代(平成の初めころですね)に一世を風靡したグランジロックというジャンル(考えてみれば、数年の間にジャンルが勃興してそのものが衰退してしまったという稀有な事例です。)その代表格だったのがニルヴァーナというバンドで、「カート」は、そのギターでヴォーカルだったカート・コバーンだと思います。コートニーは、同じころにホールというバンド(最近また復活してました)で活動していたアーティストで、カートの妻のコートニー・ラブではないかと。最近の言葉で言うなら典型的なセレブのカップルだった二人。仲睦まじい時期もあったのでしょうが、お互いに薬物や精神的な問題を抱えていて、カートは、人気絶頂の94年4月に、ショットガンで頭を撃って自ら命を絶ったということになっています。(と、微妙な言い方をしておきます。)

また4月がきたよ、同じ日のこと思い出してる、という歌詞なので、林檎さんはカートの死んだ日のことを歌っているのではないかと言うのが僕の解釈です。

このギプスという曲、ラブソングだとは思うのですが、林檎さんらしい、どこか屈折した感情表現を伴っているので、カートとコートニーの仲睦まじい姿を思い浮かべてというイメージでもない、と思っていたら、カートが死んで今年でちょうど25年ですが、コートニーによる殺害だという説も根強いのです。

もともと自殺願望の強い、そんな歌も歌っていたカートをわざわざ殺す必要があったのか、その動機が理解できない僕としては、殺害説は支持できず、カートは人気絶頂の時のプレッシャーや何やらかんやらに圧し潰されて自殺したという、ややロマンティックなストーリーの方を信じたいのでした。自殺説の根拠としては、わざわざ殺害に及ぶ動機が弱いと言えるのではないかと思うのです。その方が林檎さんの歌もラブソングとして成立しやすいし。

ところが殺害説の側では、二人の夫婦関係はすでに破たんしていて、カートはコートニーに離婚を切り出していたという、動機をあげてきます。ここまでくるともう、ワイドショーなんですが、離婚したら、財産がもらえなくなるので、さっさと自殺に見せかけて殺してしまう動機があったという生々しい話になって、これだとトリックさえ思い付けばミステリー小説のひとつでも書けそうです。ただ、法律まで詳しい人間としては、二人にはフランシスという娘(ニール・ヤングを引用したカートの有名な遺書にも登場する娘で、カートはかわいがっていたようです)がいて、カートの遺産はこのこどもが全部相続して、その親権者であるコートニーが管理するはずだから、離婚してもあまり関係ないのではないのか、などと、自殺説に拘泥するのです。遺産や相続についてはアメリカの制度も日本の民法と大きく変わらないはずなのですが、実は、結婚に当たって大きく違うものがあるようです。あちらではセレブ同士の結婚のような場合にはポピュラーのようですが、夫婦財産契約と言う制度があります。実は日本の民放でも762条に規定はあるのですが、内容不明でほとんど実例がないと言われています。夫婦間の財産関係をあらかじめ契約しておくというもので、離婚に当たっての財産分与の指針なども含めておくことができるようです。それで、コートニーの場合は、離婚の財産分与では非常に不利な内容の契約になっていたので、離婚する前に殺す必要があったというのが殺害説の主張する動機のようです。

ということで、本邦ではほとんど利用されない夫婦財産契約ですが、いくら夫婦とはいえ自分の財産を守るためには契約を検討してもいいかと思います。

とはいえ、財産を守れても生命を狙われる結果になっては本末転倒なんですけどね。


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法坂 一広
法坂 一広

法坂 一広 IKKOU HOUSAKA

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法坂一広
1973年福岡市出身
2000年弁護士登録(登録名は「保坂晃一」)
2011年「このミステリーがすごい!」大賞受賞2012年作家デビュー
著書に弁護士探偵物語シリーズ・ダーティ・ワーク 弁護士監察室
ブログhttps://ameblo.jp/bengoshi-kh