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転がる石のように名盤100枚斬り 第19回

転がる石のように名盤100枚斬り 第19回

#82 HARVEST (1972) - Neil Young

ハーヴェスト - ニール・ヤング


今年の4月だったか、安倍首相がカナダを訪問した際、カナダのイケメン首相ジャスティン・トルドーが、挨拶で「日本」を「中国」と言い間違えるという、トホホなボケをかましたことがあった。



思わず「なんか『サウスパーク』のネタみたい」と思った。



『サウスパーク South Park』は、1995年から2019年現在まで続いている、アメリカのアニメTVシリーズだ。ウリは下品でブラックな笑い。実在の芸能人や政治家もそのネタになっている。


カナダ→『サウスパーク』と来ると、必然的に『サウスパーク/無修正映画版 South Park: Bigger, Longer & Uncut』(1999年)に触れないわけにはいかない、と言うか、触れたい! 僕は、この映画を劇場で鑑賞した上に、DVDはもちろん、サントラCDまで買ってしまったのだ。


映画はこんなストーリー。アメリカの片田舎の町、サウスパークの子供達は、カナダの下ネタ芸人テレンス&フィリップの影響で、どんどん言葉遣いが下品になっていく。サウスパークのPTAは、テレンス&フィリップ排斥運動に乗り出すのだが、これがなぜかアメリカとカナダとの全面戦争に発展。テレンス&フィリップは囚われの身となってしまう。そこで彼らを救おうと、サウスパークの子供達がレジスタンスを結成し・・・・・・・


どうですか、このバカバカしさ。大好き。


見終わると、劇中で繰り返されるカナダ排斥ソングのサビ「Blame Canada(悪いのはカナダだ)」というフレーズが頭にこびりついて離れなくなる。

トルドーにボケをかまされた安倍首相も「Blame Canada ♪」と口ずさめばよかったのに。リオ五輪でのマリオのコスプレよりもウケたと思う。



そもそもトルドーって人は、クリーンでリベラルなイメージで支持されたのに、実際に首相になると、建設会社の不正もみ消し目的で司法長官に圧力かけたり、移民政策で右往左往したり、「日本? 中国みたいなもんだろ」って感じだったり(前述のボケの後も、「寿司は大好物なんだ! 中華料理って素晴らしいよね!」とか発言してる)、なんかチグハグな感じ。


そのうち『サウスパーク』に登場しそうだ(もしくは既に登場してる?)。



今回登場する名盤は、カナダつながりで、トロント出身のロック・レジェンド、ニール・ヤング、4枚目のソロ・アルバム『ハーヴェスト』。『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』82位にランクインしており、名盤の誉れも高い一枚である。


『ローリング・ストーン』誌のレビューによると、このアルバム自体と、4曲目に収録されている「孤独の旅路/ハート・オブ・ゴールド Heart of Gold」は、ともにニール・ヤング唯一の全米ナンバー1ヒットを記録したそうな。


しかし、トルドー首相の場合とは違う意味で、な~んかチグハグな印象をこのアルバムからは受ける。



「黄金色に輝くこころを探し続けているんだ。そして、見つからないまま、どんどん歳をとっていく」と繰り返される「ハート・オブ・ゴールド」は、多作なニール・ヤングの楽曲のなかでも、五指に入る名曲。


ハーモニカの暖かい音色が印象的な「週末に Out on the Weekend」もニール・ヤングらしい。


のちに『Harvest Moon』(1992年)というアルバムを生み出した「ハーヴェスト Harvest」は、まどろみを誘うようなのどかな一曲。


「国のために用意はいいか? Are You Ready for the Country」「アラバマ Alabama」といった社会派色の濃い曲も耳を引く。


ラストを飾る「歌う言葉 Words (Between the Lines of Age)」は、美しくもヘヴィーな手触りのロック・ナンバー。これも名曲ですな。内容は、田舎の町をクルマで通りかかった時に見た農作業についてらしいけど、よくわかりません。


要は、ニール・ヤングのキャリアを代表する楽曲がそろったアルバムなのだ。



しかし、


ナッシュビルで録音されたカントリー調の曲と、ニール・ヤング節が炸裂するロックの間に挟まれている、「男は女が必要 A Man Needs a Maid」「世界がある There’s a World」のロンドン交響楽団によるドラマティックなオーケストラが、アルバム全体のバランスを歪める。


「世界がある There’s a World」は、まだいいとして、いろんな意味で問題なのは、「男は女が必要 A Man Needs a Maid」だ。


邦題を見ると「男が女を愛する時」みたいなラヴ・ソングかと勘違いしてしまうけど、「部屋を掃除してくれて、ごはんの支度してくれて、仕事を済ませたら、目の前から消えてくれる、そんな家政婦が欲しい~」って、内容は原題のまんま「女=家政婦」。


「女性蔑視だ!」という批判も浴びたらしい。そりゃそうだろう。


もしや、ニール・ヤングってアンチ・フェミニスト?(怒)・・・・・・と思いがちだけど、実は、「男には家政婦がおらんとダメ」というのは、ニール・ヤング自身のメッセージではなく、この歌の主人公の思想というか、苦い後悔を含んだ独白だと思う。


独りぼっちで生きてきたけど、暮らしは荒むばかり。歳をとると、何かを変えることは本当に難しい。家のことやってくれる家政婦がいたら、こんな生活も変わるかもしれないのに・・・・・・。


老いさらばえた男の絶望的な孤独。なんか胸が苦しくなるような状況である。そして、オーケストラを起用したサウンドが、孤独の陰影を濃くする。つらい。



この曲に限らず、このアルバムには、「老い」と「諦め」が見え隠れする。

「黄金の心(ハート・オブ・ゴールド)」は、いつまでたっても見つからないし、「ハーヴェスト」では、「歳を取った時、俺は何かを得ることができるんだろうか? それとも、すべてを失うのか?」と不安に駆られる。「俺はあんたの若い頃みたいだろ? でも俺はあんたみたいにはならないよ」(6曲目「オールド・マン Old Man」)と薄ら笑いで強がっても、自分がその老人みたいになることに気づいている。


そんなアルバムが全米ナンバーワンを記録するという皮肉。



当時、ニール・ヤングはまだ27歳。この2年前にクロスビー・スティルス・アンド・ナッシュと組んで制作した『デジャ・ヴ Déjà Vu』、そして同年に発表した3枚目のソロ・アルバム『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ After the Gold Rush』は、いずれも大成功を収め、ニール・ヤングのキャリアは最初のピークを迎えている。


それなのに、『ハーヴェスト』から感じるのは、「将来、そして老いへの不安」だし、さらに言うと、そこには、自分の音楽に対する自信・確信と裏表一体の、心の脆さが垣間見える。



僕が感じるチグハグ感の正体は、きっとこれだ。



1枚のアルバムのなかにニール・ヤングの両極端な個性が現れているような気がする。強さと弱さ、自信と不安、希望と諦め。曲によって様々な感情が顔を覗かせるので、一枚を通して聴くと、どうも座りが悪い。



でも、この振り幅の広さがニール・ヤングなのだろう。



その後のキャリアを見ると、テクノに走ったり、ロカビリーのアルバムを出したり、グランジの元祖みたいになったり、電話ボックスみたいな小さなブースで一発録りしたカヴァー・アルバムを出したり、音楽活動自体が振り幅広すぎ。


そう思うと、ニール・ヤングは、『ハーヴェスト』で、心の脆さも含めた、自分の本質と向き合い、それを受け入れたのかもしれない。それは、その後のさらにチグハグな活動の原点になる。良かったのかどうかは知らないけど。



ニール・ヤングも十分『サウスパーク』のネタになりそう(もしくは既に登場してる?)。



名曲ぞろいではあるものの、ニール・ヤングのチグハグ感が裏目に出ていると思う。だって、聴いているとなんだか不安になるのです。精神的に安定している時以外には聴きたくないアルバムだという、個人的な理由により・・・・・・




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★








長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。